それでも。
*転生/現パロ
*女体化
*土井くく前提
久々知先輩は記憶があった。
土井先生は記憶が無かった。
二人が再会するまで、それはおれしか知らなかったこと。
これは、二人が再会するまでの話。
「きり丸……!」
おれと最初に再会したのは久々知先輩だった。
なんと久々知先輩はおれの隣に住んでいた、いわゆる幼馴染という間柄。しかも女になっていた。
先輩は既に何人かと再会していたらしいが、おれとの再会も純粋に喜んでくれた。
おれは先輩が始めて再会した人だったから、先輩からいろいろ教わった。
前世の記憶が無い人もいるということや、今先輩の周りにいる、前世からの知り合いのこと。先輩のように女になった人も何人かいるとか。
ただその知り合いの中に、先輩の想い人で、おれの父親代わりの人はいなかった。
「でもきっと、すぐに会えるよ。心配するな、きり丸」
昔から先輩はどこか先生に似ているところがあって、この時の言い方も、とてもよく似ていた。
だからおれはこの人が好きなんだろうと思う。
例えば土井先生の相手が尾浜先輩やタカ丸さんだったら、おれはこうも素直に受け入れられていたかと思うのだ。
久々知先輩が土井先生にどこか似ていたから、おれは久々知先輩と土井先生が恋仲になっても受け入れられたんじゃないかと。
ともかく、素直に応援していたから、おれは久々知先輩に「土井先生と再会出来たら教えてほしい」と言われても素直に頷けたんだと思っている。
「今日から担任になる、土井半助だ。よろしく」
そして、おれが中学生になった時、土井先生とも再会できた。
けれど。
「せ、先生……!」
「ん? ……あ、えっと、摂津。どうした?」
先生は、何も覚えてやしなかった。
おれは久々知先輩に言おうか、とてつもなく迷った。
なんとなく、言っても言わなくても先輩は傷付く気がしたから。
「きり丸、土井先生に逢わせてくれないか?」
ところがどっこい、おれが悩んでいるうちに、久々知先輩は伊助から土井先生に会ったことを聞いてしまったのだ。
火薬委員会は仲が良かったせいか、タカ丸さんと三郎次先輩が従兄弟で、タカ丸さんと久々知先輩は同じ高校、三郎次先輩と伊助は同じ中学、とあっさり再会できたらしい。
伊助に悪気が無いのは分かっているがちょっとだけ、余計なことを、と思ってしまった。
しかも久々知先輩はおれが先生に会わせたく無いのを、先輩に先生が取られるからだと勘違いしてしまって、とても真剣に謝られた。
先輩にシットしていた気持ちが完璧に無いかと言われればそりゃ嘘になるけれど、先輩と先生を逢わせたく無いのは、先輩の傷ついた顔を見たく無かったからなのに。
誤解を解くにも本当のことは言えなくて、結局誤解も解けないまま。
「遠くから見るだけでも良いんだ。きり丸、頼む」
だけど、探していた時よりも、逢えない時の方が先輩はよっぽど辛そうで。おれは、逢わせてあげたいと思うようになった。
でも、どうしても、先生に記憶が無いってことは言えないままだった。
「久々知先輩、先生は毎日下校時間になると校門に出てきます。おれと待ち合わせしましょう」
「……! ありがとう!」
久々知先輩の笑顔が辛い。
おれは先輩の顔を見ることができなかった。
そして今日が、その日だ。
おれは朝から何も手につかず、久々知先輩にも土井先生にも心配された。
まさか貴方達のせいですよ、とは言えるはずもなく。
こんな時に限って時間が進むのは早くて、あっという間に下校時間になった。
「摂津じゃないか。珍しいな、こんな時間まで残ってるなんて」
「ええ、まぁ……幼馴染の姉ちゃんと待ち合わせしてるんすよ」
「へえ、幼馴染がいるのか」
「……はい、なんとなく、先生に似てますよ」
きりちゃんスマイルでなんとか持ちこたえ、雑談を続ける。
先生にはここにいてもらわないといけないのだから。
「私に? でもその子、女の子なんだろ?」
「はっは、中身の話っすよぉ。なんとなーく、ですけど」
「へぇ、そりゃ会ってみたいな」
「きり丸!」
タイミングが良いのか悪いのか、先生が言い終わった瞬間、久々知先輩が来た。
遠くからでも分かる、先輩が凄く緊張してること。
「兵子姉ちゃん!」
「ごめん、遅くなって……えっと、」
パタパタと駆けてきて、ちらりと土井先生の方を見る先輩。
その目に、微かに期待が込められていたことにはおれしか気付いてないんだろう。
「……あ、摂津の担任の土井です」
「……、あ、えっと、きり丸の幼馴染の久々知兵子、です」
おれは今、笑顔を保てているだろうか。
にこやかに微笑む久々知先輩はとても完璧な笑顔で、傷付いた素振りすら見せなかった。
初めて先輩の、心の強さを知った。
「……きり丸、ありがとな」
「え?」
帰り道、先輩はおれに微笑んでそう言った。
「土井先生の記憶が無かったから逢わせようとしなかったんだな。それなのに、きり丸が嫉妬してるなんて、酷いな。ごめん」
「な……なーんで先輩が謝るんすか! おれこそ、ちゃんと説明できなくて……」
「え、いやいや逢わせてくれただけで充分だよ! ありがとう」
やっぱり、おれは先輩の顔が見れなくて俯いた。
昔恋仲だった人の記憶が無かったことはとても辛いことだろうに、逢えただけで充分なんて。
でも、嘘だと思わなかったのは、その声が幸せで満ちていたから。
心底そう思ってるんだなぁって、泣きたくなった。
「なんでそんな、笑ってられるんすか」
堪らず、いつものきりちゃんスマイルなんて出来なくてそう聞くと、先輩はあの頃と変わらない、穏やかな笑みで。
「愛してるから」
――
ある曲にインスパイアされて。
この三人いいですよね!大好きです。
最初は土井先生をきりちゃんの親戚とかにしようかと思ったんですけど、今度はきりちゃんのご両親もちゃんと生きててほしくて。
こんな終わりですが、このあとなんやかんやあって結局くっつけば良いと思うんですよ。先生は思い出さないかもしれないけど、それでも幸せに暮らしてくれれば良いです。
ここまで読んでいただきありがとうございました。