花と女装と後輩



俺も長次も小平太も女装は苦手で、仙蔵に頼んでも「お前らは元がそれだから無理だ」と断固拒否される始末。
苦手だと思っていない小平太が女装したところで、きり丸には「いつもの先輩でいてください」と引きつった笑みを見せられた。
だが、きり丸だけに女装をさせると返って怪しまれ、きっと花は売れない。
どうしようか、食堂で悩んでいる。

「どうするか……」
「どうしましょう……」
「やはり私が女そ」
「やめてください」
「だめかー」
「おばちゃん、頼まれていた豆腐買ってきましたー」
「あら、ありがとう久々知くん」
「いえいえ、これくらいなんでもないですよ。いつでも言ってくださいね」
「「「「これだ……!!」」」」
「……もそ」
「「……は?」」

帰ってきた途端巻き込まれて、ちょっと不運だなぁと思いながらきり丸に頼み込まれている目の前の後輩を見る。
長い睫毛と白い肌。化粧なしでこれ。……うん、美人だ。

「良いけど、俺でいいの? 勘右衛門とか雷蔵の方が商売上手いよ」
「いいんすよ、この前手伝っていただいた時、尾浜先輩はすぐサボろうとするし、雷蔵先輩は質問されると迷っちゃいますし」
「あはは、よく見てるなぁ」

久々知は柔らかい笑みを一つ向けると、ちょっと待っててくださいね、と俺達にも断ってから準備に向かった。
久々知の気配が完全になくなると、小平太が興味津々な様子で身を乗り出す。

「なあきり丸、五年とアルバイトしたことあるのか?」
「え? あ、はい、一回だけですけど手伝って貰いました。意外と久々知先輩が子守り上手くて、竹谷先輩は器用でした」
「あははは! 八左ヱ門は生物小屋も自分で作るからなぁ」
「あ、そうか。そうでしたね」
「雷蔵も、子守りはうまいだろう……」
「はい、読み聞かせであっという間に人気者でしたよ」
「さすがだなぁ雷蔵」
「勘右衛門とかもうまそうだが」
「そうっすねぇ、鉢屋先輩以外は割と皆さん子守りお上手でしたよ」
「三郎はやっぱ下手なのか」

納得してしまうのはある意味三郎の人徳というかなんというか。
見るからに苦手そうだもんなぁ、あいつ。

「お待たせしました」
「おー……お……!」
「おお! さっすが久々知先輩!」
「たまたまタカ丸さんと立花先輩に会ってね、やってもらっちゃった」

髪結いのプロと女装のプロの本気なだけあり、一瞬、久々知とは分からなかった。
しかし俺達の化粧は断固拒否したくせに仙蔵のやつ、久々知は美人だから良いのか。なんか不満だ。

「美人だなー久々知。仙子ちゃんとはまた違う感じで」
「……可憐だな」
「ああ、可愛らしさと美しさと両方ある感じか」
「えぁ!? あ、ああ、ありがとうございます……」
「何変な声出してんだ」
「い、いえ、まさか先輩方からそんな言葉が出ると思ってなかったもので……!」

久々知の顔が引きつっている。
いらっとしたので軽く頭をはたいてやった。
俺だって綺麗とか可愛いとか言うし分かるわ。

じゃあ行きましょう! と息巻くきり丸について、ぞろぞろとバイト先へ向かう。
その時の仕草も、久々知は立派に女だった。





「ありがとうございます。奥さんも喜びますよ」
「ありがとうございます! お姉さん、凄くお似合いです!」
「綺麗な花、売ってるよ! 贈り物にどうぞ!」

結果だけ言えば、きり丸と久々知だけで充分売れた。
商売上手いじゃねーか、誰だ下手とか言ってたの。
あ、 下手とは言ってなかったか。

売り子は基本的に女装した二人なので、俺達は客集めに徹する。
とはいえ二人とも顔が良いせいか、客集めすら意味がないような。

「お姉さん、バイトの後どこか行きませんか?」
「ごめんなさい、この後あの人と出かける予定なの。ねっ、文次さん」
「ああ」

まぁ、こういう意味では役にたってるようだから良いか。
しかし久々知のあしらい方、手慣れてやがる。
「ああ、よくあるんですよ」と、バイトが終わった後聞くと、しれっと言われた。
美人も大変だ。

「いやー、先輩方のお陰であっという間に売り切れちゃいましたよ!」
「久々知は商売上手だな……」
「いえ、先輩方の客集めが上手いからですよ」
「そんなことないって! 久々知目当ての客もいたくらいだしなぁ!」
「そーっすよ! 何回かナンパされてたじゃないすか」
「そいつらにも花、買わせてたもんな」
「あ、ありがとうございます」

久々知の活躍のお陰で、思っていたよりも早く花は売り切れた。
帰りに寄った団子屋で、みんなで褒めると、久々知は照れたようにはにかむ。
おお、美人ってすげえな、ちょっとぐっときたぞ。

「あ、潮江先輩、ナンパされた時巻き込んじゃってすみません」
「え? ああ、気にするな」
「寧ろ役得だよなー」

真面目な奴だなー、なんて笑って、男三人でお勘定。
久々知が慌てていたのがなんか新鮮だ。
きり丸は「ありがとうございますぅ」って甘えてたってのに。まぁ真面目だから仕方ないのか。

「あ、じゃあ私はちょっと買い物したいのでこの辺で失礼しますね」
「あ、そうなんですか。またお願いしまーす!」
「勿論。きり子にはいつもお世話になってるからね」
「あ、待ておくく、俺も行く」
「え、でも……」
「ついでに墨、買っときたいんだよ」

まあそれは建前で、女装姿の久々知を一人で出歩かせるのは危ないから、なのだが。
でも建前だと気付かれていたらしく、きり丸達と分かれた後で礼を言われた。
察しが良いやつだ。

「で、何買うんだ?」
「あ、はい、“雪屋”の羊羹と“茉莉堂“の葛餅、それから“獅子軒”の饅頭です」
「……多くないか」
「学園長先生のお茶請けと、次の委員長会議のお茶請けと、学園長先生のご友人へのお土産ですよ。……あ、お茶っ葉もついでに買っていきましょうか」
「待て待て、お前そんなんで銭は大丈夫なのか?」
「……ここだけの話、学園長先生のポケットマネーを頂いてます」
「ほほう」

余ったら委員会の後輩にお土産でも買いましょうか、なんて、久々知も強かな面があるようだ。

結局、余った銭は久々知のとこの後輩と俺のとこの後輩のお土産を買ってもまだ余っていて、それならと自分達の同輩へのお土産も買って。
仲良く食べている五年を尻目に、六年には「文次郎がお土産なんて雨でも降るんじゃないか」とからかわれるのはまた別の話。











――
なんともやまなしおちなしいみなし!な内容で…。笑
アルバイト組と兵助を絡ませたかっただけですはい。
あとこれ書いたあとにアルバイト組の花売りの話を拝見しまして、なんか申し訳ない!


では、ここまで読んでいただきありがとうございました!

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