ファミリー

*呼称捏造




夕飯の準備をしていると、ハチが何かを取ろうとしてぐるんと後ろを向いた。
けどその場に探し物は無かったようで、きょろきょろと見回す。
そして困ったように兵助に声をかけた。


「なぁ母ちゃん、フライパンどこ?」


兵助が、凄い顔で固まっている。




ファミリー




「うわああ兵助ごめん!」

「あはははっ!! 母ちゃん固まってんぞハチ!」

「うっさい三郎! ごめん兵助つい! お前なんかしっかりしてて母ちゃんぽいっつーか!」

「トドメさしちゃった!」


固まる兵助、慌てるハチ、茶化す三郎と勘。
間違えて呼んじゃうのは分かるけど、男としてはとても複雑だ。
でも僕も兵助を母さんと呼びそうになったことあるし、ハチの言うことも分からなくも無かったりする。


「へ、兵助ー……?」

「お、俺は、母ちゃんじゃない……!」

「わ、分かってるよ、なにも涙ぐまなくても良いじゃない……」


恐る恐る声を掛けると、本気で泣きそうな声で言われた。
どうしたんだ兵助、お前は何に耐えているんだ。


「最近、委員会の後輩にも母ちゃんって言われる……!」

「トラウマを抉られたわけか……」

「ま、まじか、ごめん兵助……!」

「でも伊助に母ちゃんって言われたら逆にもう自信持てよ、母ちゃんの……」


伊助はは組の母ちゃんってきり丸が言ってたのを思い出す。
良かったね兵助、母ちゃんに母ちゃんって認められたらそりゃもう立派な母ちゃんだよ……!


「何て言うか凄い複雑なんだぞ! お前らも言われてみろ!」

「いやいや、ハチが母ちゃんってそれもうコントだって……」

「それは言い過ぎじゃね!?」

「ごめん……」

「何で謝んの!? ねえ! 兵助!」


騒ぐハチに、兵助がちょっと鬱陶しそうな顔をした。
うっ、と言葉に詰まるハチは放っておいて、とりあえず。


「母ちゃん、麻婆豆腐焦げるよ」

「え! わ! 雷蔵もうちょっと早く言えよ!」

「ごめん母ちゃん」

「何で雷蔵は怒られないんだ、理不尽だ……!」


慌ててフライパンに戻る兵助に、ハチが悔しそうな顔をした。
人徳人徳、とニヤニヤ笑う三郎に、勘がはいっ! と挙手。
誰かが何か言う前に、勘はにぃっと笑う。


「母ちゃんおれ腹減った!」

「だぁ! お前さっきから何もしてねーだろ! 手伝え!」

「バレてた! さすが母ちゃん!」


おたまでびしっと指された勘はケラケラ笑いながら、ハチが切った野菜を炒めにかかった。
兵助はもう開き直って、母ちゃんを全うしている。


「大変だなぁ母さん」

「三郎暇ならひじき作っとけ! 雷蔵とハチも机拭け!」

「「はーい」」

「末っ子はやること楽で良いなぁ」

「あっは、兄ちゃん頑張って」

「あ、母子家庭なの……?」

「おれが旦那という選択肢は!」

「「お前は長男だろう、どう考えても」」

「えー!」


机を拭きながら、ハチと顔を見合わせて笑う。
なんだかんだでみんなノリノリなんじゃない。


「兄貴ー兄ちゃん、出来たよー」

「なんか良いなぁ、雷蔵に兄貴って呼ばれるの!」

「兄ちゃんもなかなか!」

「兄は二人ともブラコンか……」

「ははっ、俺もブラコン!」

「良いじゃない、兄弟四人ともブラコンってことで」

「仲良し兄弟だなー」


皿持ってけー、と笑いながらお盆を渡してくる母ちゃんに、僕らはにっと笑う。


「んでもって!」

「もちろん!」

「息子はみんな!」

「マザコンなのです!」

「わ!?」


ブラコンでマザコンで、勿論母ちゃんは息子のこと大好きだし。
相思相愛家族だなーなんて、四人で兵助に抱きついたまま笑う。


「まぁまぁ良いんじゃない」


家族ならなんだってさ。


暫く続いた家族ごっこは、木下先生も巻き込んで更に続き、今でも時々思い出したように誰かから始まることがある。











――
久々に五年をほのぼのさせたかった、のと、兵助を母ちゃんと呼ばせたかった…だけ、です、はい。
五年を家族にしたら、勘ちゃん長男三郎次男ハチ三男雷蔵末っ子、なイメージ。三郎と勘ちゃん逆でもいいけど。
木下先生はたぶんおじいちゃん。

では、ここまで読んでいただきありがとうございました。

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