能ある鷹は爪を隠す

*年齢操作
*殺し描写あり






今なら五年生の先輩方の実力は凄いと自信を持って言えるが、ほんの一年前までは全くそんなことは思っていなかった。
僕らの担当教師が褒めて伸ばすタイプだったからかもしれないが、はっきり言って五年生は僕らより成績も悪いんじゃないかと割と本気で思っていたのだ。
そんな僕があの人たちの実力を知ったのは、偶然にもある出来事に巻き込まれたからである。

それは一年前の話。
三年生だった僕らは、正直今の三年生よりも可愛げがなく、カリスマ性のある今の六年生以外の上級生をナメくさっていた。
当時の六年生があまり良い先輩ではなく、委員会もほとんど機能せず、先輩の実力を見る機会が無かったことも原因だと思うけども。
委員会としてきちんと動いていたのはおそらく、会計、火薬、図書、保健くらいのものだったんじゃないだろうか。
学級委員長委員会なんてものは無かったし、そもそも委員会としてきちんと仕事が与えられたのも、今年に入ってからだったりする。
まあそんなわけで今のように後輩や先輩が呼びに来るでもなく、僕は自由気ままに蛸壺を掘れていたというわけだ。
滝夜叉丸はご飯の度に呼びに来たが。

その日も、僕は自由気ままに蛸壺を掘っていた。いつもと違うのは、学園を出て裏々山で蛸壺以外のトラップも仕掛けていたこと。
誰も呼びに来ることもないし、のんびりとマイペースに蛸壺を掘っていると、がさがさと誰かが来る音が聞こえたので急いで横穴を掘って隠れた。
なんとなく隠れないといけないと思ったからだ。

「おら待て!」
「っ……」
「おい、顔には傷つけんなよ。バレるからな」

聞こえてきたのはなんとも気色の悪い声音と、人を殴る音。
声からして、どうやら嫌な感じのする方は六年生らしかった。

「ったく、本当お前って嫌な目つきしてやがるぜ。そうやって俺らをバカにしてんだろ?」
「はっ! 六年生に楯突くバカは懲らしめてやんねぇとなぁ?」
「ナメてると痛い目に遭うって身体に覚えさせねぇとな? なぁ久々知ちゃん?」

おやまあ。
殴られているのは自分達がナメている先輩じゃないか。
しかし四年生が六年生をナメているなんて聞いたことはないし、そんな会話をしているところも見たことがない。
四年生は僕らとは違って目上に対する礼儀はきちんとしていたし、嫌味すら聞いたことが無かった。
生意気な僕らに対してすらも。

四年生は総じて穏やかな人が多いのか、僕らが嫌味を言っても軽く流されることが多かった(僕らというか、主に滝夜叉丸と三木ヱ門だけど)。
その余裕がこの頃の僕らには余計イラつく原因だったりしたのだけど、今は全然そんなことはなく。
基本的に何を言っても無視なので、思う存分甘えさせて貰っている。

「おい、なんとか言えよ!」
「がっ!」
「おい顔はよせ」
「るせえ! ムカつくんだよこいつ! 無表情で不気味だしよぉ! いっつも人をバカにしたような顔で見てきやがって!」
「っ、うっ……!」
「ちょ、おい! やばいって!」

人を殴る音と、焦ったような声。
どうやら一人が暴走し始めたらしい。
しかし久々知先輩は四年生の中でも特に無反応な先輩で、僕らに構う暇があるなら勉強したいタイプだ。人をバカにしたような態度をとるような先輩ではない。
ムカつく先輩だったのに、今は久々知先輩よりも六年生にムカついていた。
無表情で不気味と僕も言われたことがあったからかもしれない。
トラップが発動すればいいのに。と柄にもなく思った時だった。

「っうあぁ!!」
「ぐはっ!!!」
「っ!!!!」

立て続けに聞こえてくる悲鳴。最後のは声にもなってなかったが。
それと、穴の中にも飛び散る血飛沫。
六年生が犠牲になったのか?
身を固くしつつ、状況分析しようとしていると、その場にそぐわない落ち着いた声が辺りに響いた。

「綾部、いるならこいつら埋めんの手伝ってくれ」

さっきまで殴られていた人が出す声音じゃない。
おそるおそる穴から出ると、見た目は殴られて腫れ上がったり血が滲んでいたりしているのに穏やかな笑みの久々知先輩が立っていた。

「く、久々知、先輩……?」
「すまん、何個かトラップ無駄にした」

無惨な姿になった六年生を罠から外しながら、久々知先輩は何でもないことのように言った。
その姿が、怖い。
初めて一つ上の先輩を怖いと思った瞬間だった。

「この穴使っていいか?」

僕が頷くと同時に、ゴミでも捨てるように先輩は六年生を穴へ放り投げた。
なんで普通に動けているのか、何が起きたのか。それすらも僕は把握できないまま。

「な、にが……」
「六年生が暴力を奮ってきたので正当防衛で殺しました。……いや、暴力を奮っている最中に綾部のトラップにひっかかりましたのほうがいいか……?」
「……わざと……?」

淡々と、おそらく先生にどう告げるか考えている久々知先輩は、僕の言葉を聞いてにっこりと微笑んだ。

「内緒だぞ?」

それが答え。
先輩は態と殴られ、ここへ誘導し、僕のトラップに引っ掛けた。
六年生を殺すために。

「こいつらは六年生に相応しく無いからな。下級生に暴力奮うわ、委員会に参加しないわ、五年生や俺達に仕事を押し付けるわ。自分からいなくならないのなら、“事故”で消えるしか無いだろ?」

逆らってはいけないと、本能が言った。
この人達に逆らってはいけない。
にこりと微笑んだ久々知先輩の言葉に、全身がぶわりと粟立った。

「――と、先生方の御達しだ」
「――――!!!」

僕らは何て人達に喧嘩を売っていたんだろう、と思った。
先輩が穴に土をかけて六年生がかかっていたトラップを片付けるまで、僕は一歩も動けなかった。

「帰るか。もうすぐ夕餉の時間だ」

先輩がやっといつもの無表情でそう言ってくれたお陰で、ようやく緊張がほぐれた。

それから僕は他の先輩も観察するようになり、彼らの実力を知ったのだ。
あの人達は秘密主義で得意な武器すらも分からなかったが、その実力はよく分かった。
僕らの子供じみた反抗に見向きもしなかった意味も。
つまり、あの人達はもっと広い視野で物事を見ていたということ。
学園にいるのはたった六年間のことで、卒業すればもうプロの忍びだ。
僕らの相手なんてしている暇も無いんだ。

だから僕は、一つ上の先輩方に対しては反抗的な態度を取るし舌打ちだってする。それで怒られないと知っているから。
今なら五年生の実力は凄いと自信を持って言える。
食わせ者だらけだと言うことも。

だから、だけど、五年生は好きにはなれない。











――
すみませんまたもや終わりが迷走しました。
ずっと前に書いた「韜光、青藍」のスピンオフというかなんというか。喜八郎が五年生の実力を知った日というか。
最近スランプ気味っぽいのでひたすら書いてストレス発散してます。

兵助達は揃って暗殺や諜報に向いていて、忍務と称されてこんなこともやっている、みたいな。
ちょっと怖い五年生が書きたかった。
すみません。

ともかく、ここまで読んでいただきありがとうございました!

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