群青伝噺

*年齢操作
*ちょっといかがわしい表現有り





遠い遠い昔の話。
最近、勢力を見せてきた城がある。
その城は忍び衆の力が凄まじいだとか、知将が恐ろしいだとか、噂は多々あれど真偽のほどは定かでは無い。
そんな噂のある城が、軍事力の強いことで有名な城と同盟を組む為、武将をもてなすことにした。
そんな話。





***

まっさらな青い畳が広がる部屋。上質な和紙が貼られた襖には松や富士の絵が鮮やかに描かれ、金箔が散らされている。
後ろには金地の煌びやかな屏風、前には漆塗りの膳。乗っている食器や箸も、見ただけで高級品と分かるそれだ。
食事もつややかな白米に始まり、鯛の姿焼きや大豆味噌の味噌汁、鯨の唐揚げに焼き鳥、そして世にも珍しい米から作ったという酒。

金をふんだんに使ったと目に見えて分かるもてなしに、招かれた武将は気を良くして酒をがぶがぶと飲む。
そのはしたなさに艶やかな黒髪を高く結い上げた美しい殿は一瞬眉を曇らせるも、静かにひたりと笑み更に酒を勧める。

「貴殿はこの戦の要ですからな……もっと呑んでくだされ」
「いやはや、ここまでのもてなしは初めてですよ。何が何でもこの戦は勝たねばなりませぬな! はっはっは!」

下品に笑う武将に、こまごまと殿の世話をしていた小姓が嫌そうに顔を背けた。
いち早く気付いた殿に迫力のある目でじろりと睨まれ、慌てて柔く微笑む。

「む? そちらは?」
「ああ、私の小姓で『弥三郎』と申します」
「ふむ。弥三郎か。なかなか可愛らしい顔立ちですな」
「ええ……貴殿も試してみますか?」

卑しい目をした武将に、敢えて“何を”とは言わない。
殿の言葉に下衆な笑みを浮かべる武将。小姓がうげえ、という表情を一瞬したのは殿だけが知っている。

「弥三郎は良い声で啼きますよ」

殿がひたりと笑った。



***

「勘弁してくれ」
「ごめんごめん」

嫌そうに顔を歪めるのは柔和な顔の小姓。
苦笑し、宥めるようにぽんぽんと小姓の肩を叩くのは端麗な殿だ。

実はこの二人、ただの殿と小姓ではない。

小姓の名は鉢屋三郎。柔和な顔立ちは彼の親友のもので、変装を得意とする男。
殿の名は久々知兵助。眉目秀麗な見目に加えて成績も満遍なく優秀な男。
二人は現在、仕事の最中である。

「けど俺が誘惑するのは駄目なんだろ?」
「当たり前だろう、お前! 万一そんなことをしたらお前の両腕に殺されるわ」
「そ、んなことはないと思うけど……」

仕事の内容は即ち、『悪どいと噂の、かの城主を仕留めること』。
忍務は滞りなく完遂。
二人の目の前には鮮血に染まった武将が既に事切れている。

「……まあいい。早く片付けて戻ろう。雷蔵に殺される」
「お前どんだけ敵多いんだ」
「お前に過保護なやつが多いんだよ」

ここに兵助の右腕がいれば、「間違いなくお前もそうだろうけどな!」と快活に笑っていただろう。
だがそれも当然と言えば当然の話。
何故なら兵助は本物の殿だからである。

忍術学園という忍びを育てる学園を卒業した五人組は、一度はそれぞれ違う城に忍びとして仕えていた。
違う城とはいえ、偶然にも五つとも同盟を結んだ城。五人は卒業しても仲が良かった。
ところがその数年後。同盟を組んだ城はある敵対勢力に次々と落とされたのである。
生き残った五人は復讐の為、五人で忍び衆を作った。
いつしか城になっていたのだが、そんなことはどうでも良い。
五人の復讐は果たされた。

件の武将こそが、彼らの復讐相手だったのだ。

「……、夜明けだ」

部屋を片付けて本当の城へ帰ろうとすると、窓の隙間から眩しい明かりが差し込んできた。
声も出ないほどの奇麗な光に、兵助と三郎は暫し目を奪われる。

「――帰ろう」

その言葉に、三郎は兵助を見た。
兵助は薄く微笑み三郎を見ていた。
光を浴びて輝く黒髪はどこか神々しい光を放っている。

――どうやら、全て見透かされていたようだ。

目的を失った自分は、これからどうしたら良いのだろう。
兵助は、勘右衛門は、八左ヱ門は、――雷蔵は、忍び業から手を引くかもしれない。
けれど自分は、忍びしか生きる道はない。
そんな不安を兵助は見透かし、そして大丈夫だと微笑んで見せたのだ。

「帰ろう。私達の場所へ」

学園にいた時から、彼の落ち着いた笑みにどれだけ安心させられたか知れない。
だから彼は自分達の長なのだ。

二人の忍びはそうして自分達の場所へ帰って行った。





***

その後、一つの城を落としたことによって城ごとが忍び衆だという摩訶不思議な五人組は有名になった。
様々な城から依頼され、確実にこなし。
その忍び衆に入りたいという者も続出したが、その城の殿が断固として首を縦に振らなかったそうな。
忍び衆は歴史にこそ名を刻まれることは無かったが、その時代を生きた者たちにとってはまさに救世主であったそうだ。

え? その五人組は今はどうしているかって?

勿論、五人組はずっと一緒に仲良くやっている。
何度も何度も生まれ変わって記憶はもう無いけれど、それでも巡り会って仲良くなって。
江戸の時代では一緒に見世物小屋を経営していたし、明治の時代では映画を撮っていた。
この平成の世でも、五人は既に巡り会って今は……。

ここから先はまた別の話。












――
なんか物語調になってしまった。
単に殿久々知が書きたかっただけなのに何故こうなった。
補足しておくと、兵助の両腕は左右です。
雷蔵さんは兵助のお目付役。
適当ですすみません。
ちなみにタイトル、「伝噺」→「伝話」で「でんわ」と読むのですが、「つたえばなし」と読んでいただきたい。どうでもいいですね。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

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