好きですなんて言えません

*バレンタインデー





兵助は悩んでいた。
見つめる先には手に持った真っ赤な花。
縁側に座ったまま困ったようにその花を眺める兵助に、おや、と気付いた者がいた。

「どうした? 兵助」

ふわりと兵助の背中に半纏をかけ、隣に座ったのは半纏と首巻きでもこもこになった三郎。
温そうだなぁ、とぼんやり思いながら持っていた花を三郎に見せる。

「筏葛だな。どうしたんだ?」
「うん、金吾に貰った」

なんで? といった表情の三郎に、兵助も困ったように口を開いた。





その花を貰ったのは突然だった。
連日続く雪の日に、一年生達がはしゃいで作った雪だるまもそのまま溶けずに残っている。
その姿を横目で見ながら図書室から自室へ帰っていた時のこと。

「くっ、久々知先輩!」

幼い声に呼び止められた。
その声に振り向けば、一年は組の皆本金吾が走ってくる。
金吾と自分は何も関わりもなかったはずだが、はて、何の用だ? と首を傾げると、金吾は息を整えながらぐいと手を近づけてきた。
その手には真っ赤な花。

「今日はそういう日なので!」
「え?」

思わず受け取ると、ありがとうございます! では! とそのまま勢い良く走って行ってしまった。
その場に残ったのは、きょとんとした兵助と赤い花――筏葛(イカダカズラ)だけだった。



「――と、いうわけ。今日は俺の誕生日でもないし、何か記念日でもないし、なんで今日この花をくれたのかわからなくて」

話し終えてちらりと三郎の方を見ると、三郎はなにか知っているのかにやにやと笑っている。
思わず兵助が怪訝な表情を浮かべると、それに気づいたのか三郎は穏やかな表情を浮かべた。そんな表情を後輩や雷蔵ならともかく兵助に見せるのは珍しい。

「あのな。私もついさっきしんべヱに聞いて知ったんだけど」
「うん?」
「今日は、大切な人に贈り物をする日らしい」
「――うん?」

三郎の説明にも未だに意味が分かっていない様子の兵助に、三郎はくっくっと喉を鳴らす。

「でも俺、金吾とは何の関わりもないはずだけど。大切な人なら七松先輩とか平に渡すもんじゃないのか?」
「はっはっはっ! この天然め」

こつん、と額を小突かれても、兵助は未だに意味が分からないようで。

「まぁ、恐らく花言葉だろう。あとは自分で調べなさい」

ぽんぽんと頭を撫でて、三郎は寒い……と呟いて部屋へ戻って行った。
去り際に、

「そうそう、金吾はお前の剣術の稽古をよく見に来ているよ」

そう言い残して。
そう言われても、自分が金吾の大切な人になるのがよく分からない。
調べに行くしかないか、と兵助も立ち上がり図書室へ向かった。

今日の図書室の当番は雷蔵で、先程宿題を終えて帰って行った兵助がまた戻ってきたのでおや? と不思議そうな顔をする。

「兵助? どうしたんだい?」
「あ、雷蔵、花言葉の本ってある?」
「花言葉? ……あー、それ、筏葛?」
「うん、そう」

さすが雷蔵だな、とにこりと微笑む兵助に、ありがとう、と返す。
なんとなく花の意味は分かったが、自分で調べた方がいいかな、とそのまま何も言わずに本の場所を教えた。

(筏葛……)

雷蔵に教えてもらった場所で本を開き、頁を探す。

探していた頁は案外簡単に見つかった。

「……ぇ、」

めくった頁。
花言葉は沢山ある。
けれど。



――あなたしか見えない



『今日はそういう日なので!』
『大切な人に贈り物をする日らしい』

当て嵌まるのはこの意味しか、ない。

(え、え? でも……え?)

つまり、大切な人というのは、先輩や家族のような意味ではなく。
そういう、意味で。

「……参った」

雷蔵がこっそり覗くと、口元を手で押さえて頬を真っ赤に染めた兵助が座り込んでいたそうな。




好きですなんて言えません









――
バレンタインなので。
ですが…ち、こ、く!
ごめんなさい。
見たことないの書こうと思ったらこんな結果に…文章の雑さがひどい。
そして左右出せなかったマジごめん。
金吾は言葉で愛を伝えることが苦手だと思います。態度で気持ちを現すこともあんまり得意じゃないといい。花言葉は滝夜叉丸あたりがべらべら喋りながら教えてくれたんじゃないでしょうか。
なんとなく、兵助は刀を扱うのがうまいイメージ。剣術がうまいと戸部先生に聞いて見に行って一目惚れ、な恋。
どうでしょう。

というか、書き終わって調べると筏葛って初夏の花でした。申し訳ないです。

ここまで読んでいただきありがとうございました!

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -