彼の凄いところ

*年齢操作






無表情で無愛想、思ったことをそのまま口にする。それでいて、見目も良く教師からの信頼も厚い。努力の天才であり、周囲からは「優秀」と褒めそやされる。

これだけ敬遠されそうな、妬まれそうな要素が揃っているというのにも関わらず、久々知兵助がそういった嫌がらせやいじめの対象になることは無い。
同組の連中は兵助のことを誇りに思っているようで、また、他の組の者も兵助のことを悪く言う奴は滅多にいない。

少しだけ、昔の話をしよう。
仲良し学年と呼ばれる学年が、まだ“仲良し”では無かった頃の話を。





「久々知ってさぁ……」

最初から兵助が好かれていたわけではない。一年生の頃の彼の性格は、今よりももっと無愛想でキツイ奴だった。
加えて、彼の育ってきた環境がそうさせたのか、彼はあまり食事を摂らなかった。
厳しい鍛錬と貧相な食生活により後々栄養失調で倒れてしまうのだが、まあそれはまた別の話。
兎に角、久々知兵助というこどもは、同じ年のこども達の中では異質の存在だった。

それでも、彼の印象が変わるのは割と早かった。

ある日、どれだけ嫌味や嫌がらせをしても無表情に淡々とこなす兵助に我慢が出来なくなった生徒がいた。
それなりに気の強かったその生徒は、今までの鬱憤という名の罵詈雑言を兵助に浴びせた。曰く、目立ちたがり屋、嫌味ったらしい、無表情で気味が悪い、面白味が無い、などなど。
その勢いは凄まじく、周りの生徒も暫く呆然とするほど。

けれども、言い切って肩を上下させるその生徒に兵助は少しだけ逡巡してこう返したのだ。

「わたしはそんなつもりでは無かったのだけど、そう捉えられていたならすまなかった。面白味が無いのは自分でも分かっているけど、どうしようもない。だから、ぱっとみんなを笑わせられるおまえは凄いなあと思っていたんだ」

兵助が嫌いで文句を言ったのに、返ってきたのは褒め言葉。
あまりにも意外な展開に、気の強い生徒は言葉に詰まる。それを気にした様子も無く、兵助はいつものように淡々と言葉を続けた。

「わたしは気にしたこともなかったけど、自分達のクラスに誇りを持つお前達も凄いと思う。
おまえは綺麗好きで掃除をいつもまじめにやっているし、おまえが実技のあと最後まで残って練習しているのも知ってる。おまえの気を使った物言いはわたしには出来ないし、たまに聞こえてくるおまえの笛の音は素晴らしいと思う」

無表情で淡々と、それでもクラスメイトを素直に凄いと思っている兵助の褒め言葉に、クラスメイトは恥ずかしそうに、もどかしそうに、身じろぎして。

「……久々知、ごめん」

最初につっかかった気の強い生徒を筆頭に、今までの嫌がらせや妬み嫉みを謝ったのだった。
この時のことは、「やっぱり兵助って凄いなあと思ったよ」と嫌がらせに加担していなかった勘右衛門が後に語る。

こうして、兵助への嫌がらせや悪口は極端に減った。
その上兵助の天然攻撃は他の組にまで及ぶものだから、兵助同様嫌がらせを受けていた三郎への悪口や、下級生では恒例となる組同士の諍いが段々なくなっていった。

彼をよく知る後輩はこう語る。

「人をよく見てて、長所をすぐ見つけられる方ですから。
分からなかったら下級生にも恥ずかしげもなく聞かれますし、その後きちんと褒める。勿論叱られることも多いですが、あの人が面倒な先輩だと言われないのはそんな部分が大きいと思いますよ。誰かを喜ばせるのがお好きな方ですから、偶のお豆腐パーティはまぁ、ご愛嬌ってヤツですよね」

無表情で物言いがキツイと取られがちだった久々知兵助は、雷蔵や三郎と仲良くなり少しだけ物腰が柔らかくなって表情も増えた。更に八左ヱ門や勘右衛門とも仲良くなり、お茶目と愛嬌も身についた。

成績優秀で眉目秀麗、火薬委員会の委員長代理で教師や六年生からも一目置かれている。真面目で時々辛辣な言い方もするけれど、兵助は今も、

「みんなが友達になってくれたから、今の俺はここにいるんだ」

と言う。
そんな彼だからこそ、周りは彼をぐずぐずに甘やかしたくなるのだろう。










――
という、簡単な兵助の一年の時の妄想。いろいろ考えたんですけど、やっぱり兵助はこんな子かなあ、という。
嫌がらせや悪口もあんまり気にしない。けど、自分が周りからどう見られてるのかわかってる。ぽけーっとしてるように見えて案外周りをよく見てたらいいなあ。

では、ここまで読んでいただきありがとうございました!



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