知らない知りたい

*何人かが既にプロ忍
*むしろ捏造しかない




有名な城には忍がつきものであるが――この城では、殊その数が多かった。代々名君と呼ばれる城主はその実、代々臆病で慎重な性格であったからである。
幾代にも渡って築き上げられてきた俊傑の忍衆達は、いつしか四つの部隊に分かれ、四獣になぞらえられるようになった。
知識が豊富で知謀や謀略に秀でている「玄武」、穏やかながら薬物の扱いには右に出るもののない「青龍」、戦闘に特化している傑人「白虎」、そして――最年少の年若い頭領でありながら、諜報や暗殺の成功率は十割を誇る「朱雀」。
この四部隊が仕えているこの城には鼠一匹入られない、正に「難攻不落」の城なのである。





――五年生が挑んだ実習では、未だかつてない程の危機が訪れていた。
方方から上がる煙と赤い炎、あちらこちらで鳴り響く金属音と銃声、嫌なくらい鼻につく火薬と鉄の臭い。
容赦なく襲い掛かる敵の忍達に、五人は焦りながらも互いの背中を確かめあう。
そんな中、戦場と化した広い庭の中央で、敵の忍組頭と思われる人物が声を上げた。

「――正体を現せ、忍衆『朱雀』の若き頭領よ! さなくばまとめて殺す!」

その言葉に、ざわりとそこにいる者全員の肌が粟立つ。
敵ですらも動けなくなる、それはまさしく殺気であった。

「……そんなことをしてみろ。お前達のその首、全て掻き斬ってやろう」

地を這うような低い声がそこに響く。
声を発した青藍の少年を見た者は、それぞれ驚愕、困惑、悲哀、歓喜を顔に浮かべた。
喜色を浮かべた忍組の組頭は殺気を直に当てられているにも拘らず、卑下た笑みで少年を見つめる。

「二年ぶりだなァ、朱雀。相も変わらず『朱雀』の名に恥じぬ美しさよ」

少年は何の感情も顔に出さずただ睨み付けた。
そんな空気を断ち切るように、困惑を声に乗せたのは彼の同輩。

「へ、兵助……?」

その言葉に、少年ーー久々知兵助は、我に返ったように周囲を見渡した。
困惑や驚愕を隠せないまま己を見つめる四対の目に、兵助は諦めたような自嘲の笑みを微かに零す。

――ああ、もう、戻れない。

兵助はすぅと息を吸い込むと、今まで以上の殺気を出し声を張り上げ、組頭を見据えた。

「――テングダケ城忍衆『朱雀』が頭領、久々知兵助! 『朱雀』頭領の権限を以て、『王狼』組頭のお命頂戴仕る!」

今まで見たことのない兵助。
困惑しながらも、彼をよく知る四人は感じていた。

あの兵助が、
感情の起伏が少なく、自分のことに鈍感なあの子が、

悲しんでいる。


「随分生ぬるい環境にいたものだな! 腕がなまっているのではないか!?」
「お前に言われたくない!」

キン、キン、と金属音が響く。
最早、二人以外に動く者はいなかった。
周囲の忍達も、四人も――その光景に見入っていた。

「朱雀」の名は、忍の知識があまりないタカ丸ですら知っている程有名だ。
そんな有名な組織の、まさか頭領が、どうして忍術学園に。
そんな疑問は皆抱いている。
それでも、

それでも。それ以前に、兵助は、仲間だ。

「兵助! 他の忍は任せろ!!」

叫び、近くにいた忍に刀を刺したのは三郎。
驚愕や困惑で動けない同輩達を尻目に、次々と刀で敵を切り裂いていく。
互いに背を向けているため、顔は見えないものの困惑しているであろう同胞に、三郎は苦笑を零した。

「一人で背負い込むな」
『俺にくらい、吐き出せよ』
「!」

それは、未だ自分達が紫紺の制服を身に纏っていた、一年前の話。
鉢屋衆の次期頭領であることを気に病み、独りで涙を流していた三郎に兵助がかけた言葉だった。
あの時も二人は背中合わせになって話したものだ。
同じクラスでも、同じ委員会でも、ましてや同室でもない。対極の位置にいる二人は、誰にも見せられない弱みを唯一見せられる理解者であった。

そんな二人が面白くない勘右衛門。

「おれにも任せとけ、兵ちゃん!」

滅多に呼ぶことのなくなったその愛称に、思わず噴出したのは八左ヱ門だ。

「よし、さっさと片付けて帰ろうぜ!」

そして、最後に穏やかに微笑んだのは雷蔵。

「全く、手のかかる同胞だよ、お前は」

クスクスと笑う四人に、兵助は苦笑を漏らした。
――全く、適わないったらない。

「…………任せた」
「応!!!!」

兵助の降参したような、少しだけ不貞腐れたような声音に四人は笑いながら返事を返す。
力強い返事であった。



四半刻もしないうちに、その死闘は幕を閉じた。
兵助曰く、『王狼』のレベルは「下の下」らしい。なかなかに凄惨な闘いをした四人が「あれで!? お前どんだけ強いんだよ!」と驚いたのはまた別の話。

「頭領!」

さて帰るか、と四人が踵を返すと同時に聞き覚えのある三つの焦った声。
えええええ……!? と困惑の中に驚きすぎて若干疲れたような表情を交えて、四人は兵助を横目で見た。

「あ? え、どうした仙、留、三木」

少しだけ驚いたような兵助の言葉に、四人はやっぱりか! と思いながらゆっくり前に向き直った。
そこには六年生の立花仙蔵、食満留三郎、そして四年生の田村三木ヱ門がほっとした様子で兵助を見つめていた。

「え、兵助さん……?」
「ん、もう隠す必要もないな。仙と留、三木も朱雀だ」
「滝と喜八郎、タカ丸もな」

付け足されたような仙蔵の言葉に、五年生は絶句する。
新たな事実が発覚した。
四年生は全員朱雀だったのか。
「嘘やん……」

思わず地元の方言が出てしまうのも仕方ない。

「もーおお、全部吐けよ、お前! 帰ったら!」
「え、えぇー……」
「よしそうしよう兵助、私も全て吐こう」
「よしよし、勘ちゃんも秘密全部暴露しちゃう!」
「わかった僕も吐く!」
「え、なに皆何かしらあるの……? 秘密とかないの俺だけ……?」

忍になるのだから仕方ないといえば仕方ないんだけどさ! と複雑そうな表情の八左ヱ門に、「お前のそういうところが好きなんだよおおお!」と四人が抱きつくのはいつものことで。

いやいや、全て暴露するのは忍になる者としてどうなの、とつっこみたい留三郎と三木ヱ門を横目で見ながら、仙蔵は我が子を見るように目を細めた。
自分よりも年下の頭領が、任務をこなしていくうちに感情すらもなくなっていくのを間近で感じていた。
忍術学園の内情を把握しておくことも必要だと提案したのは仙蔵だ。少しでも良い気分転換になればと提案したのだが、ここまで良い結果が出るとは。
彼の学年が仲良しと呼ばれる学年でよかったと思う。

余裕が生まれれば、また斬新な作戦を練って我々を驚かせ、楽しませてくれるだろう。
優秀な頭領補佐は弟のように可愛がっている己の頭領の変わり様を、嬉しそうに見つめていた。













――
支部や他のサイト様でたまに見かける兵助最強設定が滾った結果こうなった。
実は五年より兵助と付き合い長いんだぜ的な他学年が好きです。ああ楽しや。それにしても文才が無ければ画力もタイトルセンスもない。誰かくれ。いやください。

見目麗しい子達と兵助を絡めるのが好きなようで、他にも祓い屋久々知とか考えてるんだけど、そのうち書こうと思いつつ…云々。
しかしそろそろくく受けが書きたい。

そんな感じで、ここまで読んで頂きありがとうございました!




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