雨の日



ツイてないと思う日が、たまにある。
本で指を切ってしまったとか、分からない問題で当てられてしまったとか、些細な、でも嫌だと思うことから始まって、そんなことが何度か続くのだ。
そして、それは大抵が雨の日に起こる。
湿気の所為で髪は爆発するし、ただでさえ気が滅入るというのに更にツイてないとなると、僕の機嫌は頗る悪くなる。

「あー、雨やまないかなあ」

今日もそんな日で、朝から好物の入ったA定食は僕の直前で売り切れ、課題を忘れていて先生には怒られ、挙げ句の果てに委員会の当番中に三郎の所為で大声を出してしまい久作に怒られる始末。
伊作先輩の不運が移ったんじゃないかと思うくらいツイてない。
そんな委員会から長屋へ帰る途中、昼までは小雨だった雨が本格的な土砂降りになっていたことを知る。
道理で髪が酷いことになってしまう訳だ。

「この雨は当分やみそうにないなあ」

笑いを含んだ落ち着いた声に振り返れば、資料を抱えた兵助がいつも通りの変わりにくい表情で立っていた。
そういえば今日は委員長会議があると中在家先輩が仰っていた。その帰りだろう。

「委員長代理は大変そうだね」
「腐るなよ」

笑いを含んでいたことに少しだけ苛立ちを含んだ嫌味で返すと、僕らだけにしか分からない苦笑を交えた表情に変わる。
元々表情が変わりにくい兵助だが、僕らの前ではそれが顕著になる。気が抜ける程表情が変わりにくくなるらしい。よく分からない。

「相変わらず、雨の日は機嫌悪いな」
「分かってるならからかうなよ」
「からかったつもりはないんたけど、ごめんな」

分かりづらい苦笑でもって、兵助は素直に謝る。
兵助が悪い訳ではないけれど、兵助は自分が悪いと思ったら即謝ることができる。
そういうところは僕らの中では誰も真似できない、凄いところだと思う。
そして素直に謝られれば、兵助が悪い訳ではないと分かっている僕には罪悪感が生まれ、且つ些細なことに苛立っていた自分が情けなく感じてくるのだ。

「……いや、僕も悪かったよ。八つ当たりだ。ごめん」
「雷蔵って本当に機嫌が悪い時には俺にしか当たらないからな。それだけ信頼されてるんだと思うと嬉しいよ」

……それは、ちょっと無意識でした。
けれど確かに兵助の言う通り、図太そうで案外繊細な三郎や、額面通り受け取ってしまう八左ヱ門や、面白がって火に油を注ぐ勘右衛門にはこんな風に八つ当たりなんてしたことないなあ、と思う。
八つ当たりだと理解していて、それをさらりと受け流してくれる、兵助はこういう時本当に対処が上手い。
そしてその素直さに心がゆるゆると解ける感覚は、僕以外にも感じたことがある筈だ。

「……兵ちゃんってやっぱり凄いよね」
「ん? ありがとう?」
「あはは、まあ分からなくて良いよ」
「うん……?」

曖昧に笑う兵助に笑い返す。
僕の表情からもう不機嫌ではないと理解したのか、兵助も微笑んだ。

雨はまだざあざあと降り続けている。
湿気も僕の髪も酷く、三郎の髪を見る度に嫌気がさすのは毎度のこと。

けれども少なくとも今は、穏やかな心境のまま。


(ああやっぱり、兵助は凄いなあ)










――
好きです魚座コンビ。
雷蔵さんだって人間だもの、八つ当たりくらいするさ。でも人を傷つけてしまうから、基本はしないように心がける。
こういう時にしか爆発しないから、兵助は態と怒るようなことを言う。毎度のこと。
勘ちゃんは兵助や後輩相手だと真面目に対処するけど上級生相手には不真面目なイメージが。相談とかなら真面目に聞いてくれるけどね。
精神的な強さのイメージは、
強い 雷蔵≧兵助>勘ちゃん>八左>>三郎 弱い
なイメージ。
雷蔵と兵助はほぼ対等だけど、自己理解は雷蔵さんのが長けてるのでその分ちょっと強い。ガス抜き自分でできるタイプ。
兵助はそのへん下手かな。でもため込んでることすら気付かなそうな。悪口言われても受け流す。うちの兵ちゃんはあんまりストレス感じない子なイメージ。等身大。
勘ちゃんと八左は迷った。でも八左は“生死”云々には慣れてても悪口言われることとかには慣れてないような。生物委員会〜の段で、結構全部背負い込むタイプなイメージが。
勘ちゃんはのらりくらりかわしてそうな分、正面きって好きな子にキツいこと言われるとずーんとするタイプかな。と。でも立ち直りは早そう。
三郎は落ち込んだら一番面倒な子かと。ネガティブの固まり。そして女々しい。一週間くらい引きずりそう。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!



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