君に愛を

*ヤクザパロ
*ちょっとだけ性的暴力





ろくでもない父親だった。
仕事には行っていたものの、帰ってきたら酒を飲み、暴力を奮う。
俺を庇ってくれた母親は、俺が小学校を卒業する頃に耐えきれず出て行った。
父親の暴力は俺一人に集中し、早々に育児放棄。元から家事をしているところなんて見たことがなかったから期待はしていなかった。ある程度のことは自分でできたし、幼馴染みの雷蔵や三郎の家にお世話になることも何度かあったから不自由ではなかった。
それだけなら良かったのに、高校に入ってすぐの頃、父親は俺で性処理をするようになった。所謂性的虐待だ。
大切な人とする筈の行為は、ただ気持ち悪かった。
最初の頃は何度も吐いて、学校に行けなくなったこともある。けれどこればかりは幼馴染みにも言えず、かなり心配をかけたと思う。
そんな生活にも慣れた、高校三年の夏。

父親は、とうとう俺を手放した。

それだけなら良かった。特待生で入ったから学費も一般生よりは安いし、バイトでやっていけないことはない。雷蔵達の両親も少し援助してくれるらしい。
あの汗ばんだ気持ち悪い手で体中を弄ばれる事もなく、理不尽に暴力を奮われることもない。
万々歳だった。
万々歳だと、思っていた。

「久々知兵助くん?」
「……は」

学校帰り、雷蔵と同じバイト先にいつもの三人で向かっている途中でドレッドの男に声をかけられた。
雰囲気や声の調子こそ軽いものの、身につけたスーツやアクセサリーは高価そうなもの。
一目で裏の世界の人間だと分かった。
あからさまに怖がる俺達に、その男は困ったように眉尻を下げて笑う。

「ごめんな、怖がらせるつもりじゃなかったんだけど……こんなナリじゃ仕方ないか。久々知兵助くん、その黒髪の子であってるよね?」
「……兵助に何の用だ」

俺達を庇うように立って、男を睨みつけるのは三郎で、雷蔵もどこか剣呑な雰囲気を醸し出している。
そんな二人に男は苦笑を深め、何の反応も出来ない俺を真っ直ぐに見た。

「まあ見た目で分かると思うんだけど、おれの組織って金貸しやってんのね。で、君のお父さん、うちから借りパクしちゃったまま逃げちゃってさあ。──君が保証人になってんのよ。意味分かる?」
「……は、あ?」
「はあっ!? 兵助は未成年だろ!」
「でもなってんだもんよー、仕方ねーじゃん」

三郎が噛みつくようにぎゃんぎゃん騒いでも飄々と受け流す。
流石にやばいかも、と頭の中で警鐘が鳴り始めた。
ああもう本当にろくでもない父親だ、漸く平穏を手に入れられたと思ったのに!

「で、まあ、学生だし返済の目処は立たねえだろ? だから……まあ、手っ取り早く言うと身体で払えってことだな。君顔綺麗だし、イケると思うよ?」

びくりと体が震えたのがわかり、雷蔵がそれに反応したことも感じ取れた。
またあんな気持ち悪い思いをしなければならないのか。

「っざけんなよ!」

怒鳴ったのは俺ではなく三郎だった。
だっ、と地面を蹴ったかと思えば、男に殴りかかっていく。俺の腕を掴んだままの雷蔵が、息を呑んだ音が聞こえた。

「喧嘩っ早いなあ。君には関係ないだろ」
「アホぬかせ! 大事な親友売られそうになってんのを黙って見送る馬鹿がどこにいる!」

三郎の言葉も、雷蔵の温もりも、純粋に嬉しいと思ってしまった。
ろくでもない家に生まれ、ろくでもない育ち方をした俺を、それでも親友だと、大事だと言って庇ってくれる。
大事な二人を巻き込んじゃだめだ。

「……三郎、もういい」
「兵助っ」
「良いわけあるか! お前っ、」
「良い。……借金って、いくらですか」

表情を変えない俺に目を丸くしていた男は、俺の問いに少し思い出す素振りをしてから答えた。
その金額はとてつもなかったけれど、返せないわけではない。幸いというべきか、男相手にあれこれすることにはもう何も感じなくなっていたし、何よりこれ以上二人を巻き込みたくはないのだ。
深く息を吸い込んで、俺は男を見つめ返した。

「何をしてでも……返します」
「兵助!」
「お前!」

二人の咎めるような声と視線に、微笑みを返す。
心配するな、という気持ちを込めて。……まあ無理だろうけど。

「全部終わったら、帰ってくるよ。それまで……待っててくれる?」

二人を見つめてそう告げると、二人は俺の目を暫く見つめて、がしりと俺の手をそれぞれ掴み「当たり前だろ!」と叫んだ。
その声に、決意と心配が滲み出ていて、ああ申し訳ないなあ、と今更思ったりして。

「行こうか。返すまでの生活は保証するよ」
「っ兵助、いつまでも待ってるからな」
「無茶、しちゃだめだよ、本当に……っ!」

泣きそうな声の二人に俺まで泣きそうになりつつ、なんとか抑えて微笑む。
「ありがとう」は次に会えたら言うよ。だから待ってて。
その言葉を飲み込んで、男の背中に視線を戻した。

「ごめんな」
「……は?」

男に連れて行かれた事務所は、まあよくドラマや漫画なんかで見るような造りと大体似たようなもので、黒スーツの男達よりも高価そうなものばかりの調度品の方が怖い。
組長室とでもいうのだろうか、一番質の良い部屋に通され、これまた高価そうな皮のふかふかのソファに座らされて待つこと数分。
部屋に入ってきた、黒スーツの男達とも俺をつれてきた男よりも格段上の立場であろう男に、開口一番言われた言葉がそれだった。

「若頭、突拍子無さ過ぎ!」
「んなこと言ったってよお右の字、こんな若い子にんなことやらすのって酷じゃねえ? 俺心が痛えよ」
「アホかぁっ! おれだって心痛えわこの子の親友の言葉がずっとおれの心に突き刺さってんだよ! でもこの子つれてこいっつったのアンタだろ!」
「うう、そうだけどよぉ……」

……なんか、良い人達っぽい。
ドレッドの男も、無表情だったのは三郎の言葉が痛かったからなのか。
若干目が点になりつつ、二人の間に割って入る。
とりあえず話を進めてもらいたい。

「あの、……俺、大丈夫ですよ? ……慣れてますし」

俺の言葉に、今度は二人が目を点にする番だった。

「……え、な、慣れてる……って」
「……不可抗力ですけど、まあ何度か経験ありますし、今更別に何とも」

ドレッドの男の言葉に淡々と返すと、二人は眉を顰めて顔を見合わせた。
……経験無いって言った方が良かっただろうか? いやしかし、こんなことで嘘ついてもどうにもならないし。

「……ごめん、因みに、相手は?」
「……父ですけど」

何故謝るのだろう、と思いながらそう返すと、若頭と呼ばれている男が俺の肩を勢い良く掴んだ。
余りの勢いに思わず顔が歪み、それに気付いたのか少しだけ力が弱くなる。
男はとても真剣な顔をしていた。

「俺が言えることじゃないけど、そんな、自分のことをどうでもいいみたいに言うもんじゃねえ。何もかも諦めたみてえな顔すんな。嫌なら喚けば良い、叫べば良い。何もかも受け入れる必要は、ねえんだぞ」

なんて矛盾。受け入れたかった平穏をぶち壊したのはあんたらだろうに。
あまりにも真剣に合わないことを言うものだから、思わず笑ってしまった。
自嘲が含まれているのは、彼に対してなのか、彼の言葉に絆されそうになった自分に対してなのか。
そんな俺の笑みを見て、何を思ったのか男はまたしても突拍子の無いことを言った。

「よし分かった、今日からお前、うちで雑用係として働け。金は出す」
「は?」
「おっ、若頭ナイスアイデア! そうしなよ兵助! 体売るより全然良いよ!」
「は、あ……」

かくして。
何故か若頭である八左ヱ門さんと、彼の補佐である勘右衛門さんに気に入られたらしい俺は、体を売ることなく借金を返済することになったのだった。











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よし○と見ながらふと思い浮かんだヤクザパロ。
ハチと勘ちゃん名前あんま出せなくてごめんね…!
でも楽しかったよ!久々につらつら書けました。
このあと、兵助ははっちゃん勘ちゃん呼びになります。かつ、数年後双忍が組に兵助取り返す為に入っても楽しいね。
気が向いたら数年後とか書こうかなーと思ってます。
余談ですが、未成年が保証人になるのは違法みたいなので弁護士か警察か通せば借金返済しなくても良くなるみたいです。適当!笑

ではでは、ここまで読んでいただきありがとうございました!


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