来年も貴方と。
*年齢操作
桜の精を見た。
入学した日、舞い散る桜の木の下に立って桜を見上げていた人。
青藍の制服に身を包み、腰までたゆたう黒髪が風に揺れていた。
恋をしたと自覚したのは大分後のことだけど、今思えばきっと一目惚れだったのだろう。
「兵助さんは桜みたいですね」
「……また突拍子もないことを言うなあ。何の話だ?」
”久々知先輩“が”兵助先輩“になる頃には既に彼への恋心を自覚していて、告白したのは彼が卒業した時。
あの時この人が真剣に受け止めてくれなければ、僕らはこうやって縁側で団子を食べることすらかなわなかっただろう。
『お前が卒業する時、一度だけ会いに行く。もしもその時今と同じ気持ちなら、俺はお前の気持ちに応えよう』
あれからかれこれ五年。
今隣に彼がいるというだけで、僕の気持ちは分かるだろう。
「僕が入学した時のことを思い出してました」
「随分と前の話だ」
「あの時、桜の下に佇むあなたを見つけたんですよ」
「ああ、そういえば。……確かに、誰かの視線を感じていたんだ。あれはお前だったか」
「思えば、あの時から既にあなたに惚れてたんですよねえ、きっと」
ふふ、と笑えば「長い片思いだ」とあなたも笑う。
そんな些細なことが幸せだと言ったら、あなたはどんな顔をするんだろうか。
六年間の思いが実って四年。
一緒に住み始めて二年。
兵助さんが怪我で忍びを辞めて、代わりに豆腐屋を初めてから一年。
何度も季節は巡って、同じ景色を見るけれど。
そこにあなたがいるのといないのとでは、こんなにも違う。
「……でも、そうだな」
兵助さんは団子を一口かじると緩く口元に弧を描いて僕を見た。
「色々あったけれど、俺はお前と恋仲になれて凄く幸せだよ。三治郎」
本当に綺麗に笑う人だ。
儚くて、神秘的で、それでいて凛としていて。
満開に咲き誇る桜のようだ。
「──僕もですよ、兵助さん」
五年目の春。
今年もまた一年よろしくお願いします、と言うように桜色の唇に口付けた。
――
兵助受けで見たことないの書こう!と思って三ちゃん選んだんですが…なんか三ちゃんじゃなくても良かったですね。
でも最近ばたばた系のが多かったので、落ち着いた雰囲気は楽しかったです。
ここまで読んで頂きありがとうございました!