いつだって全力

*キャラ崩壊?





五年生が落ち着いた学年だなんて誰が言い出したんだろう。
少なくとも僕らの前では落ち着いたところなんて見たことがない。
仲良しなのは確かなんだけど。


「ぎゃあああっ! ちょっ、痛っ! なに!? 勘右衛門枕に石入れたろ石!」

「あっははは! 三郎面! 面剥がれかけてる! あはははは!」

「おお……見事に歪んでるな」

「もう剥がしてしまえ! 直んねーよそれ!」

「ちょっ、おれそーいうの無理、怖……!」

「「お前が投げたんだろ!」」

「あはははは!」


何故こんな真っ昼間から枕投げしてるんだろう。
夏休みだから四年生以下はほぼ全員帰ってるけど、やること無いなら鍛錬しなさいよ君ら、何の為に残ってんの。


「……五年って下級生いなくなった途端ネジ外れるよな」

「だよねえ、いつもはぴしっとしてるのに」


留三郎と二人、屋根の上で並んでのんびり五年長屋の方を見る。
突如始まった五年生五人による組対抗枕投げ。眺めていると三郎が顔を直したことによってまた再開された。


「よっしゃ勘右衛門行くぞ!」

「おーっ!」

「おお、兵助が本気モードに入った……!」

「勘右衛門、お前ほんとに学級委員長……?」

「言わないで、悲しくなるから……」

「大丈夫、メンタル的なことは学級委員長の勘右衛門しかできないから」

「兵助! 好き!」

「うん俺も」

「メンタル的なことって何、攻撃?」

「よっしろ組もやるぞおおお!」

「おっしゃあああ!」

「ろ組も学級委員長じゃなかったなあ」

「言わないで、悲しくなるから……」


兵助と勘右衛門が抱き合いながら、八左ヱ門がろ組の志気を高める。ろ組の二人は三郎をフォローする気がないらしい。
三郎が寂しそうな目してる、なんだか見てるこっちが可哀想になってきた。


「だああっ! くそお! 勘右衛門の枕破いてやるからな!」

「えええっ! じゃあおれ雷蔵の枕やってみる!」

「やる方向か! じゃあ俺兵助のやる!」

「え、八左ヱ門高野豆腐出てくるよ!」

「何でだ!」

「何で雷蔵がそんなこと知ってんだ!」

「一回あげたことあるもん、ねえ?」

「うん、おいしかったー」


ぐるぐる回る三郎と勘右衛門の横で八左ヱ門が兵助の枕を漁っている。
にこにこ笑う二人の周りにはふわふわと花が舞い、お花畑があるようだ。
隣を見ると留三郎が口元を押さえてぷるぷる震えていた。少し距離を取ろうと思う。

つっこみ不在の五年生の会話は面白い、話がぽんぽん飛ぶ。
誰もつっこまないからこっちがつっこみたくなる時もあるけれど。


「勘右衛門の枕には煎餅入ってるよー」

「さっきから堅いのそれか……! っていうか何で割れない!?」

「すげえだろー!」

「すげえけど!」

「あ」

「あああ!? 兵助え!」

「破いちゃったのだぁ」

「のだぁじゃねえよどうすんだよこれ! お前俺に恨みでもあんの!?」

「……虫の恨みなら割と」

「ごめん」


そういえば兵助は何かと生物委員会に邪魔をされていた気がする、予算会議然り運動会然り。
真顔で淡々とやってるから本気なのかボケなのか分からなくて怖い。
八左ヱ門の口元が笑ってるからボケなのか。ボケで人の枕破いたのか。


「兵助すごいねえ……おりゃ!」

「のあああ! 雷蔵さんんん!?」

「うわ、風船割れたみたいに散り散りだ……!」

「雷蔵すげーっ!」

「八左ヱ門のはまだ直せそうだけど三郎のは無理だな、どんまい」

「やだもう何すんのこの子等は……!」


さめざめと泣く振りをする三郎には誰もフォローを入れない。いや、兵助のはフォローになるのか……?
散り散りになった枕の中身、白い羽がふわふわと舞う。ついでに出したのかぐちゃぐちゃになった白い布団の上に藍色五つ。

枕投げはいつの間にか枕破きに移行していて、まあいつの間にかっていうか兵助が原因なんだけど。


「ぐぬぬ……! 何で破いたんだ二人とも……! 全然無理なんだけど!」

「力の入れ方じゃない? こう、ぎゅっとやってぐっとやったらぱーんみたいな!」

「全然わかんねえー!」

「もー、そんなに破きたいなら武器使え武器!」

「寸鉄なら常備してるぞ」

「お前それで枕投げ挑んだのか!」

「あ? 普通だろ」

「いやああ! 私もう少しで兵助に刺されてた!」

「あははは!」

バカみたいなことを全力でやって、バカなことを言い合って、バカみたいに笑って。
今しか出来ないことを全力でやるくせに下級生には見せないんだから、要領が良いんだかどうなんだか。

それでも長期休みの度にそんなバカな後輩達を見るのが、実は密かな楽しみだったりして。


「もうやだ、何あいつら可愛い……! 混ざって良いかな……!?」

「……好きにしなよもう……」


とりあえず、雷蔵と兵助にはご愁傷様と言っておこう。





いつだって全力





この後、混ざりに行った留三郎が残り三つの枕を投げつけられるのは、また別の話。











――
楽しかった。
五年がボケで六年がつっこみという図に萌えます。たまにはこうやって六年に甘える五年生も可愛いじゃない…!
できるだけ兵助贔屓も直していきたいです、だって小説書けないんだもの。
因みに五年の中で一番ボケなのは兵助だと思ってます。

ここまで読んでいただきありがとうございました…!


修正 14.12.06



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