その手を

*捏造過多



「――るさん、タカ丸さん」
「ん〜……、……ん!?」


聞き慣れた声が耳元で聞こえ、夢ではなく現実だと気付いたおれは勢い良く上半身を起こす。
そこにいたのはおれの委員会の年下の先輩、へーすけくん。しっかり制服を着てて(頭巾はしてないけど)、思わず朝なのかと外を見る。
だけど外からの光は未だ細い月明かりで、寝過ごした訳では無いようだ。
何でここにいるの、と尋ねようとした瞬間、へーすけくんは無表情のまますっと人差し指を立てて唇にあてた。


『上級生ならこの話し声でも目を覚ましてしまう可能性がある。詳しい説明は後でするから、取り敢えず制服に着替えて焔硝蔵に来てくれ』


聞こえてきた矢羽音に頷きで返すと、へーすけくんはすっと音もなく消える。恐らく、先に焔硝蔵へ行ったのだろう。

何をするのか疑問に思いながら、おれも出来るだけ音を立てないように着替えて焔硝蔵へ向かった。


「へーすけくん?」
「ああ、入ってきてくれ」


焔硝蔵の扉を少しだけ開いて中を伺うと、へーすけくんの声が聞こえた。おれからは何も見えないけど、へーすけくんからはしっかり見えているらしい。


「よく一人でここまで来れたな」
「そりゃ、流石に毎日通ってるんだから覚えるよ!」
「ははっ、ごめんごめん」


へーすけくんの声は優しく耳に落ち着いて、どこか人を安心させる。
何も見えないことに少しだけ不安だったおれの緊張もその声に解されていく。


「まだ目ぇ慣れない?」
「うーん、影はなんとなく見えてきたんだけど……」
「じゃあもうちょっと待とうか」
「うん……ごめん」
「何が? ……ああ、じゃあ今のうちに説明しとこう」


のんびりとマイペースに話を進めるへーすけくん。
無関心なのか天然なのか、相手が望む距離感を保ってくれるへーすけくんのこういうところが好きだ。


「今からすることは例え委員会の後輩や同級生であっても他言無用だ。……といっても、五、六年生は知ってるけど」
「え、そんな重大なことなの?」
「うん、俺達が一つでもミスすれば死者が出る可能性もある」
「えっ!」


なんだか急に重くなったよ……。
驚くおれに、へーすけくんは少し笑ったようだった。


「まあ火薬を包むだけだから気負わなくても大丈夫だよ。……今日の明け方に、先生方と五年六年の選抜チームが任務で学園を出るんだ。それに火薬が必要だから俺達が準備するってわけ」
「ナルホド……。……ん? 選抜って、へーすけくんは選抜チームじゃないの?」


へーすけくんが学年で一、二を争う成績だってことも、五年生だけのチーム戦は総指揮を務めてるってことも、おれは知ってる。
「兵助は万能型だから何でも満遍なくこなせるぞ」って土井先生が言ってたからどんな任務でもへーすけくんが選ばれないわけないと思うんだけどなあ。


「俺も選抜チームだけど、俺の分の仕事はもう終わったし」
「……? 終わった?」
「うん」


にこりと笑ったのが分かる。
大分目が慣れてきたみたいだ。


「五、六年生の合同チームの時、もしくは先生方の任務のお手伝いをする時。俺は大抵皆のサポートに回る。さて、今回の俺の仕事は何でしょう」
「ええっ?」


悪戯っぽく笑うへーすけくんの言葉に、思わず変な声を出してしまう。
だけどそんなことより、ええっと、サポートで先に出来る仕事だよね? なんだろう……


「ヒント。忍びにとって最も大切なものは情報である」
「……あ! 情報収集……いや、嘘の情報を流す……とか?」
「タカ丸さん、偽言私語の術……せめて情報操作って言ってくれ……」
「えへ、ごめん……正解?」
「まあ、うん。両方正解。ちゃんと覚えとけよ?」
「う、はーい……」


こういうところは厳しい。
それにしても、情報収集も情報操作もやっちゃうなんて流石へーすけくんだなあ。かっこいい!


「重要な役目だよねえ」
「まあね。俺の情報次第で此方側も相手側も動きが決まるわけだし……ってまあ、俺一人じゃないけど」
「でもその役目を任されてるってことは信頼されてるんだよね。流石だなあ」
「はは、俺がそういうの得意なだけだよ。……よし、そろそろタカ丸さん手伝って」
「はぁい」


話しながらずっとへーすけくんは手を動かしていた。
それが何をしているのか分からなかったけど、暗闇に充分慣れた目はそれが火薬を包んでいるのだと分かった。
おお、またしても重要な役目だ。


「ん? てか、これおれがやってもいいの?」
「すっごい今更……まあ本来なら俺一人でやるべきなんだけど」
「だよね?」
「この仕事って、例えば六年生だけで行われる任務や先生方だけの任務の時でも俺達火薬委員会がするんだ」
「……え、そうなの?」
「うん、内容までは聞かされないけど。で、内容が内容だし、実習はともかく任務に行くのは極秘事項だから下級生には任せられないだろ? タカ丸さんは編入生とはいえ上級生だしそろそろ仕事にも慣れてきたからこっちの仕事も経験させとくべきだと思って」


こういう時、へーすけくんは先輩なんだなあと実感する。
後輩の教育っていうか、そういうのちゃんと考えてるんだよなあ。
おれもしっかりしなくちゃ。


「へーすけくん、おれ頑張るよ!」
「おう。じゃあこの火薬包んで。やり方分かる?」
「うん!」


決意が伝わったのか、へーすけくんはふわりと微笑んで仕事をくれた。

へーすけくんが卒業したら、今度はおれが三郎次くんに教えることになるのか。……三郎次くん嫌がりそうだけど。
そしたら、今度は三郎次くんが伊助くんに。伊助くんがそのまた後輩に。
そっかあ。


「俺は、初めて後輩が出来てからまだ二年も経ってないけど、あと二年もしないうちに卒業するからさ。教えられることは今のうちに教えておきたいんだよ」
「そっか……うん、じゃあ、ちゃんとへーすけくんの話聞いとかなきゃね!」


そう返すと、へーすけくんはきょとんとする。
……ん? おれ何か変なこと言ったっけ? と少し焦っていると、へーすけくんはゆるりと目を細めた。


「そうだな」


まだまだ君から教わることはたくさんあるよ。
だからありったけのことを、おれ達に教えてね、先輩。











――
終わり方が分からない。なんか、とりあえず兵助を笑わせとけばいいやみたいになってる。
途中で出てきた術の名前は伊賀流のサイトさんで見つけたので真に受けないでください。ちらっと見ただけなので。
忍術学園って何流?

火薬委員会とか五年生は出番少ない分妄想のし甲斐がありますね。絶対兵助は裏方系得意だと思う。
総指揮の件は52巻より。五年オンリーの時だけ総指揮とか良いと思います。兼謀略とか。基本的に五年はオールマイティーな子が多い気がする。
そして火薬は情報の扱いに手慣れてる気がする。

それにしても、ほんとこのコンビ書きやすい。
書きたいネタはいっぱいあれど、みんなが自重してくれなくていつもてんやわんやになります。→削除。
特に六年生。
でも書きたいので頑張ります。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。



修正 14.12.06



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