委員会対抗、タカ丸争奪戦……?
*タカ丸さんが少々キャラ崩壊かも
学園に入って暫くすると、いろんな人にどこの委員会に所属しているのかと尋ねられることが多くなった。
っていっても、まだどんな委員会があるのかすら把握出来てないんだけどなあ……。
委員会対抗、タカ丸争奪戦……?
滝夜叉丸くんは体育、綾部くんは作法、田村くんは会計。
とりあえずその三つの委員会があることは分かった。
『今日中に委員会を決めること!』
普通の課題とは別に、特別おれにだけ課された宿題。
今日中ってそんな無茶な……と思っていたら、さっきから四年生三人の委員会アピールが凄い。
「我が体育委員会は委員会の花形です!
委員長の七松先輩は明るくて後輩達を引っ張っていってくれるとても頼りになる先輩ですし、三年生の三之助、二年生の四郎兵衛、一年生の金吾もとても良い子達で、そしてそれを支える私! 滝夜叉丸が……」
「会計委員会は各委員会の予算を取りまとめる重要な委員会なんです! 予算会議では委員長の潮江先輩を中心に我らが大活躍するんですよ! 後輩達もみんな真面目な子達で、なんてったってこの忍術学園のアイドル、三木ヱ門がしっかりサポートを……」
「……作法委員会も絡繰り好きで優秀な子達が集まってますし、委員長の立花先輩はとても優秀な方です」
喋る量はそれぞれだけど、皆自分の委員会が大好きなんだなあってことがよく分かる。
でもどうせなら、他の委員会も知りたいなあ。
自分のことだし、ちゃんと自分の目で見て決めないと!
「斉藤タカ丸!!」
「へぇ!?」
「七松先輩!」「潮江先輩!」
「そうか、お前が斉藤タカ丸か!」
突然教室に入ってきたのは六人の先輩。深緑だから六年生か。
どうやら各委員会の委員長らしい。早々におれを見つけるとそれぞれ笑う。
「「是非とも我が@*&#委員会に来い!」」
揃ってるけど何委員会か全っ然聞き取れなかった。
思わず吃驚して固まっていると、茶色い髪の先輩が苦笑しながら首を傾げた。
「どこの委員会も人手不足なんだよねえ」
「まあダントツは火薬だけどなあ」
「そういや久々知と八左ヱ門は来ねえのか? 三郎は来ないと思っていたが」
「さあ? 何か作戦でも練ってるんじゃないのか?」
「五年は仲が良いからな!」
五年生は仲が良いのか。メモメモ。
……んん? じゃあ話から察するに六人以外の委員会は五年生が纏めてるのかな?
きょとんとしたおれに助け船を出してくれたのは滝夜叉丸くんだった。
「タカ丸さん、委員会は全部で九つあるんですが、ここにいらっしゃる先輩方が纏める六つの委員会以外は五年生がまとめてらっしゃるんですよ」
「ああ、そうなんだ」
「はい。体育、会計、作法、図書、保健、用具の他に、火薬と生物、あと学級委員長委員会というものがあります」
「学級委員長委員会?」
「その名の通り各クラスの学級委員長が集まる委員会です。活動内容はこれと言ってないですが、生徒の手本にならないといけないので貴方は無理でしょうね」
「え!? え!?」
「……学級委員長委員会委員長代理の鉢屋先輩です」
なんか突然天井から降ってきた!
と思ったら学級委員長委員会の先輩だったらしい。
びっくりしたー……と思ってたのはおれだけで、六年生はおろか四年生も誰一人驚いてなかった。
……うう、なんか地味にショック。
「三郎、久々知と八左ヱ門はどうした?」
「あー……それが、八左ヱ門の方はまた生物の毒蛇が逃げ出しまして……」
「毒蛇!?」
「タカ丸さん、日常茶飯事です」
「え、そうなの……」
三木ヱ門くんが苦笑する。
すごいなあ、毒蛇が逃げ出すのが日常茶飯事なんだ。
「兵助の方は、伊助と三郎次が喧嘩したとかでそれを止めに行きました」
「久々知って何かと不運だよね」
「お前が言うな……」
そういえばさっきから外が騒がしい気がする。
教室の中も充分騒がしいけど。
「まあ来ないのなら好都合。斉藤、作法はこれから生首フィギュアを管轄に入れようと思っている。幾らでも髪結いの修行が出来るぞ」
「はあ!? なんだそれ、フィギュアは用具の管轄だ!」
「だからこれからと言っているだろう」
「ああ!?」
「ちょ、辞めなよ二人と、もっ!?」
「ぬああ! てめぇ伊作! 俺巻き込んで転けんな!」
「うう、ごめんよ留三郎……」
「巻き込まれ不運め」
「あ゛ぁ!?」
「何だよ!」
「タカ丸! いけいけどんどんに裏裏山までマラソンに行こう!」
「委員長それは無茶です!」
「ふへへへ!!」
「あああ、あまりの騒がしさに中在家先輩が怒ってらっしゃる……!!」
「タカ丸さん、穴掘り行きませんか?」
個性豊かだなあ。
収拾つかなくなってきちゃったよ……と苦笑していると、鉢屋先輩が「カオスの極みだ」と呟いていた。
全力で同意する。
「……タカ丸さん、今のうちに兵助と八左ヱ門……じゃなくて、火薬と生物を見に行って下さいよ。そろそろ毒蛇も見つかったと思うんで」
「え? でも……」
「ここは私がなんとかしておくので大丈夫です。委員会を決めるのはあいつ等に会ってみてからでも遅くはないでしょう?」
「……久々知先輩と竹谷先輩には私もお世話になっているので、会ってみるべきだと思います」
鉢屋先輩の言葉に渋っていると、綾部くんがそう言った。
あまり人を寄せ付けないタイプの綾部くんがそこまで懐いてるなんて珍しい。
それならば、とおれは鉢屋先輩に頭を下げて教室をでた。
*
どこにいるんだろう? ととりあえず歩いていると、案外早く見つかった。
名前を呼びながら何かを探している、……生物委員かな?
見ていると、藍色の装束の生徒がおれに気付いた。
「あ、斉藤タカ丸さんか?」
「うん、そうだけど……」
「もう委員会決めました?」
「いや、まだだけど……」
「良かったー! あ、俺んとこは生物委員会です。しょっちゅうこうやって散歩に出かけた生き物達を探すんですけど……」
途中から全く竹谷先輩の言葉が入ってこなくなった。
何故って……何なのあの髪。ぼっさぼさっつーか焼けて傷みまくってる……!!
気になる……!
「……でもちび達は可愛いですし」
「竹谷先輩」
「あ、はい?」
「トリートメント、してる?」
「は?」
ぽかんとしている竹谷先輩の髪をがしっと掴む。
見てらんないよこんな髪! ああ毟りたい!!
「あり得ない! 何でこんな髪になるの!?」
「髪!?」
「土井先生以来だよ! 毟って良い!?」
「良いわけないでしょ何言ってんです!?」
「あ!」
くそ、逃げられた……流石五年生。
次会ったら只じゃおかないんだから。
なんて、少し殺気立っていた時だった。
「すみません、久々知先輩……」
「すみません……人員確保のチャンスだったのに……」
「もう良いよ、今回は諦めよう。三人だけど、去年と比べたら大分楽になったんだし」
二つの幼い声と一つの低い落ち着いた声。
つられて振り返って──目を見張った。
「それより、今日の分の委員会は終わったし三人で何か食べに行こうか」
穏やかに微笑む細身の姿。
そよ風に遊ぶ夜空色の、長く艶やかな髪。
……もしかして、これが一目惚れってやつ!?
(※違います)
「……あ、タカ丸さん!」
「あ……伊助くん」
伊助くんにつられて、黒髪の子がおれを見た。
長い睫毛に縁取られた吸い込まれそうな漆黒の瞳に、癖はあるけど手触りの良さそうな真っ黒の髪。
(美人……)
思わず見惚れてしまった。
「ああ、編入生か。もう委員会は決まった?」
「へ……あ、ああ! いや、えっと、六年生があの、喧嘩始めちゃって……まだ……」
うおおおれかっこわるい!
しどろもどろになりつつ説明すると、三人は顔を見合わせた。
ん? と三人を見ると、伊助くんがにっこり笑っておれの手を引っ張った。
「じゃあ火薬委員会に入りませんか?」
「へ?」
「今火薬委員会ってこの三人しかいないんです! 入ってくれたらすごく助かるんですけど……あ、ぼくは二年い組の池田三郎次です」
反対側からも手を引かれる。
変わった髪色だなあ……じゃなくて!
この三人って、一年と二年と五年だけってこと?
うわあ、大変だあ……。
「こら、斉藤さん困ってるだろ?」
その一言で、二人は素直に「すみませーん」と離れる。
「……火薬委員会は、何をする委員会なの?」
「え……そうですね、火薬の管理です。毎日火薬の点検と在庫確認をして……実習なんかがあると火器を使う生徒の手伝いをしたりします」
「地味ですけど、重要な委員会なんですよ!」
「何やってるかわかんないなんて言われますけど、大切な役割なんです!」
「……こんなんでいいんかい? なんて揶揄されますけどね」
あ、先輩の目が死んだ。
「ああっ久々知先輩っ! ぼくらはちゃんと分かってますから!」
「そ、そうですよ! 火薬委員会をバカにする奴は火薬に泣くんです!」
二人が必死で宥めてる。
二人とも、先輩のこと大好きなんだなあ。
「楽しそうだねえ、火薬委員会」
「「え」」
「そりゃあもう! 三郎次先輩はちょっと一言多いですけど、久々知先輩は優しいですし先輩手作りのお豆腐はとっても美味しいんですよ!」
「え、豆腐作れるの!?」
「え、ええ、趣味で……」
美人で料理上手って!
完璧じゃない!?
「すごーい! おれも食べたい!」
「え、はい、それは別に構いませんけど」
「じゃあタカ丸さん火薬委員会に入るんですか?」
「うん、入る入る!」
「え、良いんですかそんな簡単に決めて……」
「そうですよ、嬉しいですけど……」
「嬉しいなら良いじゃない? それにちゃんと考えて決めたよ」
六年生のいるところは騒がしくて疲れそうだし、鉢屋先輩のところは無理、竹谷先輩のところは論外。
それにこの穏やかな空気に混ざりたい。
「……じゃあ、えっと、よろしくお願いします……?」
「「よろしくお願いします!」」
「うん、よろしくね!」
かくして、四年は組斉藤タカ丸、この度火薬委員会に入ることが決定致しました!
おまけ
「というわけで、斉藤はうちに入りました」
「え……うっそ、いつのまに」
「まあ火薬なら仕方ないな」
「一年と二年だけだったからな……良かったじゃねえか」
「でも元髪結いでしょ? 力無いんじゃない?」
「私達と同い年ならそれなりにあるんじゃないのか?」
「にしても年上の後輩だろ?大変だなあ」
「……ちゃんと後輩として接するんだぞ」
「はい、ありがとうございます!」
「六年生って兵助に甘いよね」
「今更だろ」
「まあ僕らもだけどね」
――
勘右衛門の時みたいにタカ丸さんも争奪戦してるんじゃないかなーと思ったらこうなった。
この数ヶ月後、倦怠期になります(「一歩」参照)笑
では、ここまで読んでいただきありがとうございました。
修正 14.12.06