一歩

*捏造過多





初めて火薬委員会の活動に出た時、「ああ合わないな」って思った。下級生達や土井先生は優しくしてくれるけど、久々知くんだ。
あまり好きなタイプでは無かった。”忍び“に対して真髄に向き合う姿勢や、あの何でも見抜くような大きな目がおれが考えなしに学園に来たことを責めているようで。
それに久々知くんもおれのことをあまり好きではなかったようで、おれが何かを尋ねる度に少しだけ眉を顰めた。まあ、考えようともせずに尋ねるおれも悪かったのだけど。
お互いそんなだったからおれと久々知くんの溝はどんどん深まるばかりで、正直委員会を辞めようかとまで考えたこともあった。久々知くんもその方が喜ぶだろう、と思ってたから。
それに、暫く活動しても火薬の点検ばかりで何の面白味も無い委員会だった。同級生の子達は皆委員長が六年生で、話を聞く限り楽しそうなのが伝わってくるのにおれは何一つ楽しくなくて、何でこんなこんなに地味なんだろう、とまで思っていたくらい。

だけど、それは違った。

上級生合同の実習に参加した時、おれは火薬委員会を知った。
立花先輩や田村くんみたいな火器を得手とする人や、普段火薬委員会を地味だとか何してるか分からないと馬鹿にしていた人まで、皆が皆火薬を必要とするのだ。
久々知くんは最後まで表立って行動することは無かったけど、焙烙火矢を即興で作ったり田村くんの薬込み役をしたり、皆をサポートする為に人一倍働いてた。
おれは久々知くんの補佐の役割を貰って、一応指示されることはやったのだけどどう考えても久々知くんが一人でやった方が早いと思った。
「久々知、今回も助かったよ」
「久々知先輩、的確な指示、ありがとうございました」
実習が終わった後、久々知くんはたくさんの人にお礼を言われていて。仕方ないとはいえ、惨めだった。
なのに、久々知くんは言うんだ。
「タカ丸さんがいてくれて助かりました」
その言葉に、……溜まっていた物が一気に吐き出たって言うのかな?
兎に角、何かが切れた。
「おれがいない方が良かったでしょ」
「は?」
久々知くんが怪訝な顔を向けるけど、それでも口は止まらなくて。
「おれがいなくたって久々知先輩一人でさっさとやっちゃえるじゃない、おれなんて放っとけば良かったのに。ていうか、邪魔なら邪魔って言ってよ。何でおれを補佐なんかにしたんだよ、ついてくるなって言えば良かったのに」
「……すみません」
おれの言葉を遮ったのは久々知くん。本当に申し訳なさそうに謝られて、おれは同情されたのだと思った。
「なにが」
だから思わず反抗的な態度をとってしまったのに、久々知くんはいつも通り冷静で。
「――確かに貴方の言う通り、貴方は一年よりも経験がないからいない方が早く終わる作業も多い」
ぐさり、と心に刺さった。
久々知くんなら否定してくれると思ってたから、あんな卑屈な態度を取った。だけど久々知くんは否定するどころか、どんどん辛辣な言葉を投げかけてくる。
今思えば、おれのその“甘え”が分かっていたんだろう。
「だけど、俺が卒業した時、火薬委員会を纏めるのは貴方です。俺が四年で委員長代理になったとはいえ、普通なら六年生が兼任するものなんです。それを四年になった三郎次に任せる気ですか? 六年生の貴方がいるのに」
「っ――!」
その言葉で漸く理解した。
久々知くんは情けとか仕方ないからとか、そんな理由でおれに仕事をくれていたわけじゃない。普段から厳しかったのも、おれが嫌いとか苦手とか、そんな理由じゃない。
自分が卒業した後のことを考えて、おれが最低限のことだけでも出来るように実践で教えてくれていたんだ。
徐々に後悔に染まり始めると、それを理解したのか久々知くんは困ったように頭を掻く。
「……タカ丸さん」
「……何?」
少しだけ声音が優くなり、顔を上げると久々知くんはおれの顔を正面からじっと見つめていた。正直怖い。
「すみません、何かと説明不足でしたよね、俺……。これからはちゃんと話します」
そういわれて、気付いた。
久々知くんに見つめられて怖いのは、見透かされそうで怖いと思うのは、おれが久々知くんに対して後ろめたい気持ちがあるからなんだってこと。
久々知くんは少しだけ目を伏せて続ける。
「火薬委員会ってご存知の通り人手不足でしょう? だから貴方が入ってくれた時は本当に嬉しかったんです。でもすぐに、俺のことが苦手なんだと気付きました。年上の後輩ってことで俺もちょっと持て余してしまうところがあったんで、その所為かなってのは薄々分かってたんですけど……やっぱりどう扱って良いのか分からなくて。でも火薬委員会に残ってくれるのなら、ゆくゆくは貴方が取りまとめることになる。その時、俺が何も教えてなかったら困るのは貴方だし、一番長く在籍している三郎次だと思うんですよね。……すみません、本当に、もっとちゃんと話しておけば良かった……」
段々俯いて暗くなっていく久々知くんに、おれは慌てて頭を下げた。
全部全部おれが悪かったってことを、伝えなければ。
「いや、おれの方こそ! 聞きもしないで勝手に卑屈になって、先輩の気持ち無碍にするようなこと言ってごめん!」
「え、や、タカ丸さんが謝る必要はどこにも無いじゃないですか」
ああ、この先輩は本当に優しいのだ。
本当に何も知らなかったんだなあ。
「……おれのことさ、呼び捨てで良いよ。あと敬語も無しで」
「へ……?」
「おれ、後輩だもん」
にこりと笑うと、久々知くんはぽかんと口を開けておれを見ていて、少ししたら少しだけ頬を染めてはにかんだ。
「……ありがとう。でも年上なので敬称はつけるよ、タカ丸さん」
「……分かりましたよ、久々知先輩」
「……それも無しにしよう」
久々知くんの言葉に頷けば、難しい顔をして黙り込んでしまった。
首を傾げると、久々知くんは何かを思いついたようににこりとおれを見て笑った。
「俺に対しても敬語は無しで、あと先輩付けなくて良い」
「えぇ!? 先輩なのに!?」
「年上から先輩って呼ばれるのむず痒かったんだよな」
「えええ!?」
驚くおれに久々知くんは悪戯っぽく笑う。
「だって貴方は人生の先輩でしょ、タカ丸さん」
その時の久々知くんの表情といったら。
慈しみの籠もったような、愛情が混ざったような。おれに母親はいないのだけど、ああ母親ってこんな感じなのかと錯覚してしまうような表情だった。
「ありがとう、久々知くん!」
そうしておれはやっと、火薬委員会に入れたような気がした。






「──と、まあ、これが、兵助くんと仲良くなったきっかけ? かな?」


いつものようにへにゃりと笑うと、尾浜先輩が突然立ち上がった。
そして


「うおおおお! 何だ火薬良い子ばっかかへーすけずるい! うちのも良い子ばっかだけど! へーすけえええ!」


と、目の前の医務室に向かって突然訳の分からないことを叫びだした。中から「うるっせえ!」と善法寺先輩の叫び声が聞こえる。怖い。
兵助くんは只今肩の矢傷の定期検診中だ。


「まあアレは放っといて、確かに兵助も斉藤さんも良い子だよねえ」

「へ?」

「……兵助、ちゃんと話せたんだな」


今は廊下で兵助くん待ち。
たまたま医務室の前通ったら四人が座ってて、どうせなのでおれも一緒に待ってる。
ほんと仲良しなんだなあと思う。


「何言ってんだお前等、兵助は後輩指導に関してはどの委員会よりもちゃんとしてるぞ。委員長会議でいっつも指導の仕方先輩から聞かれてる」

「え、それってすごいことじゃないの?」

「そうですよー、兵助は凄いんです!」

「「何故お前が威張る」」

「あはは!」

「何? 俺の話?」


ゆっくり障子を開けて、へーすけくんが出てきた。
「肩は?」と尾浜先輩が聞くと「順調」と兵助くんは目元を緩ませて、皆あからさまにほっとした表情になる。


「タカ丸さんどしたの? 何か用?」


おれに手を差し伸べて微笑む兵助くんの手を取りながら、おれもつられて微笑んだ。


「んーん、兵助くんの自慢話してただけ!」

「は?」

「そーそー! もー兵助ったら凄いよね!」

「な! 俺も見習わねーと!」

「「「ほんとにな!」」」

「揃って言うなよ!」

「だってお前委員長代理じゃん」

「だったら三郎もだろ!?」

「うちの子は甘えたりしません」

「くっ……級長め……!!」

「……結局なんの話してたんだか」


段々逸れていく話題につっこむ気は無いのか、兵助くんは苦笑しながら前を歩く四人を見ていた。
そんな兵助くんに、何となく今言いたくなった。


「ねえ、兵助くん」

「ん?」


あと二年間も無いけれど、おれはもっともっと頑張ろうと思う。頑張らなければと思う。
いつまでも兵助くんや三郎次くんに頼ってられないよね。


「おれ、火薬委員会に入って良かった。」


だから、これからもご指導お願いします!









――
何だろう、このタカ丸さんの動かしやすさ…!
本当は六年と兵助を書きたかったのに、自重しないあいつら…!!泣
兵助…というか、火薬委員会の過去を早く書きたいなあと思いつつ書けない。
書きたい話は山ほどあるんですけど…どうも…。

ちょこっと解説しますと、タカ丸さんと兵助くんは最初お互い苦手だといいです。正反対のタイプなので。
兵助はそれを理由に虐めたり追いやったりはしないんだけど、自分を嫌ってる人にわざわざ近付くほど強くもない。年が近いから尚更。
タカ丸さんも最初に「苦手」と決めつけてから近付こうとはしなかった。
結局はお互い一歩足りなかっただけの話。
最初は先輩呼びだと私が嬉しい。では、ここまで読んでいただきありがとうございました!



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