年のはじめの大勝負


スコーンと良い音が鳴って、おおー!と歓声と拍手も聞こえてくる。
毎年正月になれば誰かが始める羽根つきの音。場合によっては独楽だったり凧上げだったり。
さて今年は誰が遊んでいるのかとそちらへ向かえば、「へーすけかっこいー! 三郎の負け!」と尾浜の声。
兵助と三郎か。見応えがありそうだ。

「あー! だから顔剥がすなよ! ずるい!」
「剥がせるんだから剥がすだろ! 君相手にずるいもなにもない!」
「落書きのたんびに剥がしてたらおれがめちゃめちゃ弱く見えるだろ!」
「剥がすなって理由それか!」

ぎゃーぎゃーと喧嘩しながらスコンスコンと熾烈な争いは続く。なまじどちらも動体視力も身体能力も高いものだから、なかなか決着がつかないようだ。
きゃっきゃと観戦している後輩達の中、笑いながら見学している留三郎の隣に座ると、よおと声をかけられたので手をあげる。

「どんな感じだ?」
「さあ。俺が見てる限りは十対十。でも俺が来る前からやってるみたいだから」
「随分と白熱しているんだな」
「さっき勘右衛門が飽きてきたから、芸術部門で勝負はじめた」
「なんだそれ」

あれあれ、というように留三郎が兵助の方を指差す。ちょうど、くるりと宙返りしながら羽根を打ち返すところだった。
なるほど。
対する三郎は、くるりと逆立ちをして一度ぽんと羽根を打つと立ち上がり、羽子板をくるんと投げる。そして落ちてくる羽子板を受け取りざま、しゅんっと落ちてきた羽根を打った。お見事。

「はい三郎の勝ち! 兵助の負けー」
「ぬがー!」
「ふははは! よーし来い!」
「もう顔真っ黒じゃないのおれ!」
「だいじょぶだいじょぶ、まだ書くとこあるよ!」
「あーおれも三郎みたいに顔重ねとけばよかった」
「……このために重ねているわけではないからな?」

確かに兵助の顔は落書きだらけで、三郎の顔は綺麗なまま。だが足元には何枚もの落書きされた顔が落ちている。
……まあ、今さら、誰も雷蔵の顔であることには何も思わないだろうが、さすがに落書きされた顔が何枚も落ちていれば驚くぞ。下級生が。

「……というかさっき三郎二回打ったよな?」
「芸術点は三回まで打っていいことになってた」
「細かいな」
「一回だと幅が狭まるっつって勘右衛門が」
「……あいつはなんというか、要領がいいな」

自分はぬくぬくと半纏に身を包んで審判をして、顔も綺麗なままちゃっかり一番楽しい席にいる。五年で何かするときは大抵そうだ。時々巻き込まれて振り回されてもいるようなので、五年生はバランスが良い。
……そういえば、その五年の二人はここにはいないのか。彼らの委員会の後輩達や、他の学年の子達はいるのだが。
ぐるりと見回すと、ちょうどその二人の声が聞こえてきた。

「おーい! 食堂のおばちゃんがお雑煮つくってくれたぞー!」
「三郎と兵助も食べよー!」

半纏を羽織って走ってきた八左ヱ門と雷蔵は、兵助達以外にもたくさんいたことに驚いて、すぐに笑って「みんなも一緒にどう?」「先輩方も食べましょ!」と言った。良い後輩達だ。留三郎と顔を見合わせて笑う。

「わあ、兵助真っ黒〜」
「三郎その顔回収しとけよ、こえーよ」
「へーい」
「あっは、兵助すげー顔なってる」
「んむむ……」

雷蔵に濡らした手拭いで顔を拭われる兵助にそれを笑う勘右衛門、一緒に顔を拾う三郎と八左ヱ門。五年生は新年そうそう仲良しだな。

「今日の雑煮はまた久々知手伝ったのか?」
「はいー、朝のうちに。おばちゃん一人で全員のお雑煮作るのは大変ですからねえ」
「なるほど、そうやって食堂のおばちゃんをたらしこんだわけだな」
「人聞きが悪い!」

そんなことしてません!と喚く久々知をからかいつつ、ぞろぞろと食堂へ向かう。
いつの間にやら食堂には先生方も他の奴らもいて、それぞれにこにこと雑煮を食いながら雑談していた。

「尾浜先輩! 一緒に食べましょー!」
「雷蔵せんぱーい!」
「今行くー!」

後輩達に呼ばれて軽く手を振って答えた勘右衛門は、こそこそと五年生で話し合って私達にニヤリと笑いかけた。

「先輩方! お雑煮食べたら五年対六年で歌留多大会やりますからねー!」

毎年の恒例行事は今年も健在か。
勘右衛門の言葉に後輩達は「見に行く?」「歌留多なら避難しなくてもいいかなあ?」「チケット売れるかな……」「やめときなよ……」「楽しそう!」「おれらはおれらでやろっか?」「いいねえ!」などなど好き勝手にざわついている。
もちろん、私達に反対する理由もなく。

「今年も私達が勝つがな」
「ムカつくー!」
「今年こそ勝ってやりますー!」
「先輩方の悔しがる顔見たーい!」
「誰が見せるか!」

ぎゃあぎゃあと叫ぶ五年にニヤリと返す。

今年も騒がしい一年になりそうだ。






ーー
関西は、15日まで、松の内!(一句)
というわけで明けましておめでとうございました。本当は元旦、少なくとも三が日のうちには……!と考えていたのですが、別ジャンルのゲームコラボが始まってしまってひたすら回しておりました。(推しはこなかった)
なんだか今年は忙しい年になりそうな予感。

ちなみに鉢屋と久々知の羽子板で尾浜が審判・落書きされた兵助と三郎(顔がたくさん落ちている)ってのは、昔あった忍たまゲームのお正月限定イラストから。ゲームはやってなかったのですがイラストは見られて、これはネタにしたい!となったので。

ではでは、今年はもう少し賑やかせたらいいな!と思います。今年も宜しくお願いします。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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