後輩が増えた後輩について

*羽丹羽くん委員会匂わせ(出ません)







火薬委員会にもう一人編入生が入った。
いつの間に勧誘したんだ!とか、人手が入って羨ましいな!とか、ずるいぞお前!とか。
言ったことは嘘ではないが、言わなかったことは一つある。







「久々知いるかっ!?」

食堂に勢いよく入ってきた土井先生に、一角に座っていた久々知が返事をして駆け寄る。こそこそと話して内容は分からないが、委員会のことなのだろう。
見るともなしに見ていると、土井先生が久々知に鍵を渡しているのが見えた。

「って、生徒だけで活動すんのか」
「なに?」
「いや……」

思わず呟いて、伊作に怪訝な目で見られてしまった。誤魔化したが、まあ同室だし、六年忍やってるし、ということで何も言わなくても普通に俺が何を考えているのかバレた。
忍者ってこういう時凄く嫌だ。

「兵助か。大丈夫そうだけど、なんなら様子見に行く?」
「……いや、そういうの嫌がるだろ五年生は……」
「そんなの適当に理由つけたらいいだろ。君は用具委員会なんだし、焔硝蔵の修補するぜ〜とか言ってさ」
「いきなりそんなんしたらすぐバレるわ」

溜息を吐くと、伊作も冗談だったのかまあだろうね、と言って自分の膳に意識を戻した。

「普通に聞いても大丈夫ですって言いそうだしね。まあでも無茶と無理の判断はできる子だから、本気でまずかったら誰か頼ると思うよ」
「まあそうだろうけどな」
「留三郎は何がそんなに心配なわけ?」
「いや、そんなに心配してるわけじゃねえんだけどな」
「はあ?」

意味が分からないと顔に書いてある伊作に苦笑する。積極的に関わる方ではなかったにしても、久々知とはもう四年の付き合いだ。伊作が言うことも分かるし、俺自身そうだと思っている。
ただほんの少し、自分の経験からして気になっただけで。

「編入生が二人もいるのって、すげえ大変なんだろうなと思ってよ」

用具委員会に編入してきた四年生が入ったのは、ついこの間のことだ。なんでもかんでも面倒を見るわけではないし、入ってくれて助かった点は大いにある。だがやっぱり委員会の雰囲気は変わるし、古い忍術しか知らない守一郎には、委員会を通じて教えることが山ほどあった。
今は随分と守一郎のお陰で助かっているが、右腕だと思うのはやっぱり作兵衛だし、阿吽の呼吸ができるのも作兵衛だ。

それを考えると、忍術の知識がからっきしな編入生を二人も受け入れることになった火薬委員会は本当に大変なんじゃないかと思った。ましてや編入時期もバラバラだし、そもそもが久々知は六年生でも委員長でもないのだ。

「まあ、僕らが五年生の時今の兵助と同じことできるかって言われたらできないよね、誰も」
「……そうだろうな」

火薬委員会は、何をやっているのかよく分からないと言われている。
在庫確認しか仕事がないから暇で楽な委員会だと、委員達自身が言うこともある。
だが。
そもそもの硝石の仕入れから火薬の調合、授業で使う焙烙火矢や煙玉の製作、研究、調査、火薬免許試験での試験監督やサポート、実習等での他学年のサポート。そして火薬を狙う者から火薬を守り抜くこと。
俺が知っているだけでも、火薬委員会の仕事はこれだけある。もちろん毎回じゃないから、暇だというのも嘘ではないのかもしれない。
だが五年生でそれだけのことをこなせていたかと言われると、途端に俺達は黙り込んでしまうだろう。

五年生は、忍になることを決めた者達だ。
四年生以下はまだ、礼儀作法や紙の上での忍術を学ぶことが多い。実習もないわけではないが、まだまだ軽い。
だが五年生は、覚悟を持った者達だ。得物を見れば分かるが、全員ではないかもしれないが、あいつらのうち何人かは既に人を殺しているだろう。そういう覚悟が、五年生にはある。
だからこそ一番勉学に身が入る時期だし、委員長代理も任せられる。俺達六年生も、五年生のことは可愛い後輩と思うと同時に、うかうかしてられねえと思う程信頼している奴らだと思っている。

その上。
今の代の火薬委員会は、久々知を除けば四年生一人、二年生二人、一年生一人。顧問は土井先生だが、このうちの一年生と土井先生はよく補習や実習で学園からいなくなる。
おまけに四年生と二年生一人は編入生。久々知は実質、二年生一人と一年生三人を抱えているようなものだ。

そして土井先生不在時に火薬で何か事故でも起これば。
その責任は、委員長代理の久々知の肩にかかる。

五年生が抱える責任の重さではない、と言った教師がいたらしい。

それでも土井先生は久々知を右腕だと認めているし、他の先生方も見守りながらも認めている。俺達自身、火薬委員会の委員長代理は久々知にしか務まらないと思っている。
久々知がそれを理解しているのか知らないが。

けれど、だからこそ心配もしているのはきっと俺だけではない。
ただでさえ多忙な五年という学年。常に気を張らなければいけない委員会。それでも久々知は、優秀と呼ばれる名を落とさない。
それがどれだけの精神力と努力の上に成り立っているか。考えるだけでも目眩がしそうだ。

「……あいつは、無茶はするが、無理はしないやつだぞ」

ぼそりと呟かれた声に振り返る。
後ろの席に座っていた文次郎が、ちらりとこちらに視線をやった。

「自分の限界も分かってるし、仲間を頼ることも知ってる。だからあんだけ趣味に没頭できる」
「……豆腐小僧」
「食堂のおばちゃんに提供するだけじゃ飽き足らず、糂汰味噌まで作り出して、食堂のメニューまで考え始めやがった。おまけに委員会で出すおやつも作ってる」
「……いや、すげえな」

そんな時間が一体どこにあるのだろうか。いくら要領がよくたって、一日の時間はみんな平等なのに。

「だから心配いらねーってんだよ。繊細なところもあるが、基本的にあいつはアホほど図太いんだよ」

全部好きだからやってんだ。豆腐作りも、勉強も、委員会の業務も、編入生達の世話も全部、あいつに言わせてみれば同じことだ。

「……知ったように言うじゃねえか」

やきもきしていた気持ちが落ち着いていくのを認めたくなくてそんな悪態を吐けば、文次郎は鼻で笑った。

「知ってんだよ」






――
何が書きたかったっつったら、火薬委員会かつ五年生でそれができてる久々知ってすごくない?という話でした
火薬委員会の業務は原作やアニメでやっていたことを集めているので公式だと思います
あ、製作は名言されてなかったかも。でも焙烙火矢の貸し出しとかはやってるし、アニメのopで火薬は作ってたと思うので公式ってことにしてほしいです ダメ?
でもいくら人手が足りないって言っても、編入生二人も受け入れるってかなりしんどくない?と思うのですよ。良い子だし助かるのも事実だろうけど

食満先輩も編入生を受け入れた委員会なので、まあ苦労とかは他より分かるんじゃ無いかなーと思って ほんとは久々知と対話させたかったんですけどね 久々知って絶対苦労してないから……るんるんで委員会で出すおやつ作ってるからたぶん……
で、六年の中ではたぶん一番久々知のこと分かってるっぽい潮江に登場してもらいました この二人の絡みはまたじっくり練りたい所存

では、ここまで読んでいただきありがとうございました。


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