決意の朝

*うっすらそれぞれの実家捏造





珍しく今年は積雪が少なく、生徒達の多くがそれぞれ実家へ帰っていた。いつもは学園に残る上級生達も、今回の冬休みは家族と共に年を越すことを選んだ。
除夜の鐘を聞きながら蕎麦を食べ、新年の挨拶をしたらば初日の出を見て、初詣へ行く。鏡開きをして、お節や雑煮、おしるこを食べて。兄弟や友人と、かるたやたこあげ、羽根つきをして。中には屠蘇を飲む者や、書き初めをする者も。
そうして団欒を過ごした後、また一年頑張ろうと学園へ戻ってくる。

とはいえ、学園に戻ってきても上級生は特に気を張ることもなく。
六年生などは早速暴れ回って小松田に苦言を呈されていたし、四年生もあちらこちらでそれぞれの正月の過ごし方を自慢しては下級生に顔を顰められていた。
さてその間の五年生、というと。


「「かんぱ〜い!!」」


五年長屋の一角、はしゃぎ声や笑い声が響く。
五年生五人は、全員が揃って意味深な笑みを交わすとすぐに久々知と尾浜の部屋に集まった。何故二人の部屋かといえば、虫や仮面の視線を感じない部屋がいいとの尾浜の必死の提案があったからだ。部屋の住人達は何が嫌なのか理解していないようだったが、とにかく久々知と尾浜の部屋に、帰園そうそう集まったのだった。


「なんかあんまり久しぶりって感じはしないよねー」
「冬休みって短いしねえ」
「家にいようと学園にいようとすることは変わらんしな」
「おれ、動物達が心配すぎて家にいても落ち着けなかった……」
「職業病か」
「職業じゃねーし!」


さすがに新年そうそう木下先生の拳骨をいただくのは御免なので、甘酒で乾杯。つまみは兵助印の豆腐に始まり、それぞれが実家から持って帰ったものを持ち寄った。蜜柑や餅や菓子が大半で、何故だか昆布や大根や白菜まである。(余談だが、それを見た瞬間尾浜が「食堂のおばちゃんに持って行けよ!」と突っ込んだ。)


「しっかし、おれはもうこの冬休みで、つくづく相方に浸食されていることを痛感したね」


久々知が作った湯豆腐をつつきながら、尾浜がしみじみと言う。何を言いたいのか理解したのか、不破はニコニコと微笑み、鉢屋と竹谷は曖昧に笑った。久々知だけがきょとんと首を傾げる。
そんな相方を見ながら尾浜も笑った。


「豆腐の味の違いがわかるようになっちゃって。この豆腐は水が少ない、この豆腐は豆が悪いって口出しして、母ちゃんに怒られたよ」
「わかるー!」
「おれもそれやったわー!!」


尾浜の言葉に不破と竹谷が杯を鳴らす。鉢屋も声こそあげなかったものの、同意するようにクククと笑っている。
同室者に影響されることはどの学年でも度々あるが、五年生は尚更だ。久々知の豆腐に限らず、全員が変装を見抜くことに慣れていたり、虫の種類にやたらと詳しくなっていたりする。
誰かが家に帰る度に出す話題なので特に反応することもなく、久々知も同じようにふふ、と笑った。


「おれも家にいる間、ずっとお前達のことばっか考えてたなー」
「おっ、それ告白? おれら大好き?」
「大好きですけど何か?」
「うははは、おれもお前ら大好き!!」
「僕もみんな大好きだよー!」
「おれも大好き!」
「甘酒で酔ったんか君ら……」


ぎゅうぎゅうと抱きつき合う四人に、鉢屋は呆れたように苦笑する。蜜柑を剥こうと手をかけた時、ぐいっとその手は不破に引っ張られた。蜜柑がゴロリと天板に落ちる。
声をあげる間もなく鉢屋も輪の中へ入れられ、ぎゅうぎゅうと押し詰められた。相変わらずだと思いながら、それが心地良いことを自覚して、また笑った。

上級生になると、実家の話はそうそうしなくなる。いくら仲間といえども、できない話や、したくない話がある。その、秘密を持つ家柄の筆頭が鉢屋だ。
忍衆の一族だという噂はある。家柄の噂は、鉢屋に限らず、四年の平や、他にも何人か有名な家名の者にはついて回った。それを肯定するか否定するかはその者により、平は肯定し、鉢屋はずっと無言を貫いている。
不破にすら話したことのない家の話を、けれどこの友人達は誰も聞いては来なかった。今だって、自分から話すことはしても、誰も、誰かに休み中はどうだったか、なんて質問はしない。
だからこそ、鉢屋は彼らと共にあることを選んだのだ。


「卒業後の話をつけてきたよ」


おしくらまんじゅうを受けたままの姿勢でぽつりと零す。
寸の間、痛いくらいの静けさに包まれた。
だがそれも一瞬。


「あ、実はおれも」


律儀に手を上げて発言した久々知に、ふつりと緊張の糸が霧散する。
竹谷と尾浜がすっと身体から力を抜き、後ろに倒れた。自然、抱きしめ合っていた三人は二人の上に乗っかる。


「兵助のせいで気が抜けたー!」
「さすがすぎる兵助ー!!」
「兵助って最強だからねえ」
「え、何が?」
「「これだから天然は!!」」
「それ貶してる? 褒めてる?」


久々知のきょとんとした表情に、竹谷と尾浜はきゃーと笑いながら再び三人を抱きしめた。不破も楽しそうに、両脇の久々知と鉢屋を抱き寄せる。

鉢屋が噂になる前から、四人は鉢屋が重いものを背負っていると知っていた。入学前から持っていた天才的な変装の腕と忍としての豊富な知識に鉢屋が忍の一族であることは明白で、実家から手紙が来たときや長期休暇後の鉢屋の様子が、無邪気に両親と接する子供ではなかった。
だから全員鉢屋の発した言葉の重みに息を呑んだ。

鉢屋の言葉は、家を捨てた、ということと同義なのだから。


「ってことは、本格的にいろいろと決めなくちゃね」
「だね! でも懸念事項は大体突破できたし、あとは……」
「実力の底上げ?」
「あと人脈を広げるとか?」


重みを知りながら、軽く話を進めていく四人に鉢屋は薄く微笑む。だから彼らが好きなのだ、と胸中で呟いて。


「それは当然だが、今から名を売っておくのも良いと思うぞ。卒業してから信頼を売っていくのは少し博打が過ぎるだろ」
「確かに。でも個々だったらお前とか兵助とか、結構名前売れてるよな」
「確かに豆腐関連の知名度は高いと思うけど……」
「いやそっちじゃなくてね」
「そっちも有名だろうけど」
「お前が風魔にスカウトされかけたの、知ってるんだからな」
「あ、そっちか」
「本当にマイペースだな君は」


友人達の呆れたような苦笑に、久々知は笑ってのそのそと起き上がる。こたつの上の湯豆腐を取りながら、あれこれと考えを巡らせた。
その様子を見ながら四人もそれぞれ、またこたつに入り直す。甘酒はすっかり冷めていたが、冷めても美味しいので問題はない。


「俺達の名前を売るなら、これからの忍務は五人で受けた方がいいよね」
「そうだな。木下先生と学園長先生に話をつけておこう」
「よし! じゃあもう一度乾杯しますか!」
「甘酒で乾杯ってのもアレだけどね」
「ていうか何回乾杯するんだ」


そう言いながらも、五人はもう一度杯を満たす。しかし今度は、大声を出すことなく、揃って静かにかちりと音を鳴らした。

彼らと深く関わらない生徒や教師が見れば信じられないほどの軽さで、五人は重い決意をかわす。
家を捨て、後ろ盾を捨て、信頼も知名度も無いところからのスタート。人が聞けば愚かだと言うだろう。それも、みんな分かっている。

冷えた空気が部屋に入り込む。
天気は曇天。分厚い雲から今にも雪が降ってきそうだ。
先行き不安な未来を暗示しているようにも見えるが、それでも誰も、そんなことは言わない。

温かい甘酒と湯豆腐と、甘い菓子。
分け合って、笑い合って。不安などお互いに吹き飛ばせ。
そうして生きていけばいいのだ。

五人はこの日、未来を共に生きていくと決めたのだ。








――
雷蔵さんが武器を決めた理由を見たときから、私の中で五年生五人が卒業後も一緒にいることは決定事項になりました。
いやでもあながち妄想ではないと思ってます。だって卒業したらバラバラになるのに、五人のバランス考えて武器選ぶとかしなくない!?(視野が狭くなるオタク)

しかし書くの久々すぎていろいろ怖い。見逃してください。ごめんなさい。
雷蔵さんの武器決定理由はもうちょっと詰めていきたいです。といいつつ何年も経ってるんですけど。もう読みたいって言ってくださった方来られてんのかもわかんないよ。すまねぇ……
今年はもうちょっと文章書けたらいいなあと思います!(あとがきに抱負を書くな)(すみません)

では、ここまで読んでいただきありがとうございました!




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