幸福のベルが鳴る

*現パロ
*女装








「絶対こっちがいいですって!」
「こっちも綺麗だよお!」
「だったらこっちも綺麗に見えますよ!」
「いやいや、シンプルが一番だって!」
「でも折角の日なんだから豪華にいきたいじゃないですか!」
「先輩にはこっちの方が映えますってば!」


いろんな種類の白いドレスを持ってぎゃいぎゃいと騒ぐタカ丸さんと三郎次と伊助に、勘右衛門は笑って三郎は苦笑する。
後輩の本気度合いに、俺はちょっと呆れた。








幸福のベルが鳴る








友人である兵助と雷蔵は恋人同士だ。
二人は同性としてのしがらみや葛藤、お互いの未来への引け目から散々遠回りをした。身を引こうとしたことだって数えきれないくらいある。
男女間の恋愛よりもずっとスローペースで想いを深めた二人は、紆余曲折を経てようやく恋人関係になった。
二人は贔屓目なしにすごくお似合いだと思う。妬む隙もないくらい互いを大切にしていて、兵助のことを好きだった女の子が二人を見て「幸せになりやがれ!」と諦めた話はちょっとした伝説だ。


最初は、二人を祝ってやりたいという純粋な気持ちからだった。
恋人同士になっても、法律は二人の結婚を許してくれない。あんなにお互いを思い合っていても、世間は恋人同士だって理解してくれない。
だからせめて、俺達だけでも。
そう勘右衛門と三郎に言ったら、二人はノリノリで今回のことを計画した。
つまり、結婚式を挙げるのだ。
変なところで気を遣う二人だから、どうせプロポーズだってしていないんだろう。絶対に二人とも一生一緒に添い遂げるつもりのくせに、いつかお互いが心変わりしても後腐れなく別れられるように将来の約束はしないのだ。
自分が心変わりする可能性は、お互い微塵も考えていないのに。俺から言わせれば馬鹿だ。どっちも。


ちょうどタイミングよく、近々兵助の誕生日がある。だからその日に決行する予定。
ウェディングドレスを着せるあたり悪ノリの方向に進んでいる気もするけど、まあ祝いたいという気持ちは本物だからそこは目をつぶってもらおう。
ちなみに雷蔵がウェディングドレスを着る案もあったけど、タカ丸さんが兵助を着飾りたい! と断固譲らなかった。高校時代からそういう願望があったらしい。


「ウェディングドレスならやっぱプリンセスラインかなあ? ふわっとしてて可愛いし。でも兵助くんならマーメイドラインも似合うと思うんだよ」
「確かに、身長的には綺麗なラインが出せそうですけど……でも久々知先輩ならミニ丈も可愛いと思うんですよねえ」
「シンプルにAラインも有りだと思うんだよなあ。先輩の綺麗さが引き立つだろうし」
「うーん……。ブーケとかベールとかも選ばなきゃだし、どうしようね」
「ブーケはともかく、ベールはロングにしたいんですけどミニ丈なんかだとショートの方がいいですよね。いっそミドルくらいのがいいのかなあ。外でやるんですもんね?」
「うん。でもやっぱりそのドレスに合ったベールが一番だろ」
「それにサッシュベルトとかヘッドドレスもいろいろあるからね。ほんとは白無垢も着せたいんだけど、お金的に無理だからなあ」
「だからこそいろいろ着てもらいたいんですよねー……もういっそお色直ししちゃいません?」
「あ、いいね! 更に幅広がるし!」
「やりたいですね!」


楽しそうにあれこれ提案する兵助の後輩達。
ノリノリなのはいいけど凄い話になっていくので、慌てて遮る。


「待て待て! 二着も三着も費用出せねえぞ! レンタルでも高いし他にもいろいろ費用かさんでんだから」
「あとミニ丈はさすがに着てくれないんじゃないかな……?」
「ていうかまずドレス自体を着るかどうかじゃないか?」
「そこは、可愛い後輩達が頼むんだから着るだろー」
「ま、タカ丸さんがトータルコーディネートするってんだから、突っぱねられんか」
「うん、完璧な花嫁さんにしてあげるからね!」
「不破先輩の方もぼくらが世界一の花婿に仕立て上げますから大丈夫ですよ!」
「最高の結婚式にしますからね!」


勘右衛門と三郎と顔を見合わせて、呆れるような嬉しいような複雑な笑いを浮かべる。
兵助が愛されてることに喜べばいいのか、自分達よりも楽しそうなことに呆れればいいのか。
いや、結局嬉しいことには変わりないんだけど。


「雷蔵の服は?」
「もちろん万全ですよお! タキシードかモーニングかフロックコートにしようか迷ったんですけど、やっぱりフロックコートの方がかっこいいかなって。シルエットも綺麗だし」
「襟もフォーマルなピークドラペルにしたんですよ。フロックコートに合わせてネクタイはアスコットタイです。不破先輩に似合うと思います」
「うん、何言ってんのか正直わかんないけどありがとう!」


勘右衛門の言葉に苦笑する。
三人とも服飾とか美容系の学校に通っているので適任だと思ったから頼んだけど、予想以上に準備してくれてたらしい。
会場の準備と雑用は三郎と勘右衛門の後輩達に頼んだし、会場の飾りつけはうちの後輩、料理は雷蔵の後輩と先輩だ。
さすがに式場は借りれないというか下手に目立つと会社とかいろいろ面倒なんで、別荘とかあんまり人が来ないけど豪華な場所を頼んだ。無理な注文だと思ったけど、三郎と勘右衛門の後輩はあっさりとその条件を飲んだので、やっぱりこの二人の後輩だなあ、と苦笑した。


「さて、じゃあそろそろ私達も準備しようか?」
「だな。勘右衛門、行くぞー」
「はいよ。じゃああとは頼むね!」
「「はーい!」」


レンタル店を三人で出て、次の準備へ向かう。
準備は着々と進んでいる。


**


今日は兵助の誕生日。
つまり結婚式サプライズ当日。
前もって兵助と雷蔵には“兵助の誕生日会するぞー”と連絡してある。
予定では、昼前に兵助の後輩達が兵助を拉致連れて行って完璧な花嫁に準備することになっている。
で、俺達のすることは。


「らいぞー! 行くよー!」
「えっ? 行くってどこ……ちょっと!?」


朝一で雷蔵強襲。
じゃなくて、新郎の準備だ。服は向こうで伊助達が準備してくれているので、身綺麗にして連れて行く。
でも、それより先に。


「結婚指輪買いに行くよ!」


朝っぱらから突撃したせいでまだ若干寝ぼけていた雷蔵は、勘右衛門の言葉に大きく目を見開いた。


「は? え、なに? どういうこと?」
「とにかく早く行こ!」
「早く雷蔵準備しろ! 行くぞ!」


ボサボサの髪でパジャマ姿の雷蔵を三郎と二人がかりで綺麗にして(勘右衛門はサボってた、三郎に叩かれてた)、外出できる頃には雷蔵もすっかり目が覚めていた。
見るからに戸惑っていて何度も聞いてきたけど、そこは適当にスルーして。
三人で探した、男同士の指輪を買っても変な目で見られなさそうな店(要は穴場)に雷蔵を連れて行った。


「うわ、こんな種類あるんだ結婚指輪って」
「すげえなあ……雷蔵、どれにする?」
「あ、名前とかメッセージとか入れられるってこれ。いいんじゃないか?」
「え、ええ……?」


俺達に理由を問うことを諦めたらしい雷蔵は、ガラスケースの前であれこれ言う俺達にうんうんと唸り始める。
朝一にしたのはこのせいだ。二人を繋ぐことになる大切な物を急かして選ばせたくなかったし、俺達が焦って決めることにならないように。
雷蔵はいつもいろいろと迷うけれど、決めたことは絶対に最善なんだ。
ちなみに雷蔵も兵助も、指輪を一つ二つぽんと買えるくらいには稼いでいる。確かな筋からの情報だ。


「わ、これシークレットストーンだって」
「へー、内側に石入れるんだ。オシャレだなー」
「石言葉か。黒が決意・敬愛で、赤が感謝・守る……」
「てかこの黄色とか赤いのもダイヤモンドなのか。白いのしか知らねえわ」
「おれも。てか石言葉すら知らなかったし。花言葉の親戚?」
「似たようなもんだ。あ、ダイヤモンド以外の宝石も選べるじゃないか」
「ほんとだ」


雷蔵が悩んでいる間、いろいろと見て回ってみる。
店員は優しそうなおじさんが一人レジのとこに立っていて、俺達をニコニコ見守ってるだけで話しかけてこない。
こりゃ穴場にもなるわな。


「……決めた」
「お」
「どれどれ?」


雷蔵が決めたのはきっちり一時間後。
やっぱり朝一で強襲という俺達の判断は間違ってなかったな、と視線でお互いを褒めつつ、雷蔵が決めた指輪を覗き込む。
シンプルにダイヤが埋め込まれていて、両縁の部分に小さな丸い粒が一周施されている(ミル打ちっていうらしい)ものだった。
なんというか、凄くオシャレだ。さすが雷蔵。


「すみません、これください。メッセージって入れられますか?」
「はいはい、できますよ。三十分ほどかかりますが宜しいですか?」
「大丈夫です」


レジのところに立っていたおじさんがニコニコと対応する。
なんと入れるのか気になったけれど、こそこそと話されたので聞き取れなかった。残念だ。


「お、兵助の方も動き出したみたいよ」
「おお。じゃ、ぼちぼち向かうか」
「だなー」


スマホを見ながら言う勘右衛門に、指輪を受け取った雷蔵を見やる。
その横顔は何かを決意しているようにも、緊張しているようにも、浮足立っているようにも見えた。
まあ指輪買わせたし、これから何をするつもりなのかなんとなく分かってんだろうなと思う。
三郎を見ると、ニヤリと笑われた。


「さ、じゃあ行くか」


雷蔵を連れて、結婚式場へ。


**


庄左ヱ門と彦四郎が用意したのは海が見えるコテージのような場所だった。小高い丘みたいなところにあって、周りには人もいない。
外で簡単な式をしてそのままパーティになだれ込む算段だと話したせいか、いくつかあるテーブルの飾りつけは凄く豪華で、溢れんばかりの花と、誰がこんなに食べるんだというくらいの料理が山のように盛り付けてある。
誰かが作ったのか、小さなウェディング・ベルみたいなものもあった。その後ろに真っ青な海と、真っ青な空が映る。良い配置だ。
しかし力の入りようが半端ない。二人の人徳か。


「や、庄左ヱ門に彦四郎」
「すげえいいとこだねえ!」
「でしょう?」
「ちょっと伝手があったので!」
「あのベルはお前達が?」
「はい! 虎若と孫次郎が作ろうって言いだして!」
「こういうのはかかせないかと思ったので……」
「さすがに今回は三治郎のカラクリも止めましたのでご心配なく」
「ぶっ飛んだりするのは作る気なかったんですけどねえ」
「そういう問題じゃないと思う」
「な、中在家先輩……その恰好は……?」
「……司祭だ」
「あのベル作っちゃったんで、やっぱりほしいなってきり丸が言って」
「超特急で借りてきたんですー」
「意外と無いもんで、怪士丸とおれと能勢先輩で必死に探し回ったんスよ!」


外には既に俺達の後輩達と先輩が揃っていて、雷蔵は中在家先輩の恰好に苦笑した。この状況で何をするのか分からないほど、雷蔵は鈍くない。
そんな中、コテージから伊助が顔を出す。


「あっ、不破先輩! 来てください!」
「わ!?」
「いってらっしゃーい」
「かっこよくしてもらえよー」


伊助に引っ張られる雷蔵を見送って、それぞれ顔を見合わせた。


「よし、中在家先輩、スタンバイお願いします」
「分かった……」
「あー、わくわくしますね!」
「だねー」


ウェディング・ベルの下に中在家先輩が立つ。
司祭の恰好が妙に様になっているせいか、本当に結婚式みたいになった。ベルを作った俺の後輩達と、司祭の服を探し出した後輩達を褒め称えたい。


「準備整いましたあ!」


コテージから伊助と三郎次が出てきて、扉を開ける。
みんなで一斉にそっちを向くと、雷蔵が苦笑しながら出てきた。
見慣れない服装のせいか、髪型のせいか、なんというか凄く。


「うわー! 雷蔵先輩めっちゃかっこいいっす!」
「伊助達凄いな! 雷蔵のスタイルとか雰囲気とか凄くよく分かってる!」
「髪型も……さすがタカ丸さん……!」
「雷蔵先輩らしさを出した上でキマってるってのが凄いな……。凄くかっこいいです」


シルバーのタキシード(なんたらコートだっけ?)を着た雷蔵は、新郎って感じで華やかでピシっとしてるけど雷蔵らしい穏やかな感じもちゃんとあって。髪型もいつものような適当な感じじゃなくて、ちゃんと整髪剤でピシっと整えられてる。
とにかく、三郎と後輩達が言うように雷蔵らしくかっこいい。


「当然です! さ、不破先輩もスタンバイですよ!」
「中在家先輩の前に立っててください」
「あ、う、うん……」


苦笑しつつ中在家先輩の前に立った雷蔵は、先輩にも似合ってると言われて照れている。
伊助と三郎次はみんなの様子に当然だというように不敵に笑って、頷き合った。


「それじゃあ、皆さんの準備も出来ましたし早速始めましょうか!」


声を張り上げる二人はとても嬉しそうに、ゆっくり扉を開けた。


「花嫁さんのご登場です!」


そこに立っていた兵助を見て、式場は一瞬静まり返る。
長く、裾がふんわりとしたドレス。白とピンクの花冠があしらわれたベールは、背中くらいの長さで風になびいていた。その手に持つのは、淡いピンクと白のブーケ。ブーケと花冠の柔らかい印象と。ウィッグなのか腰のあたりまでの長さになっている黒髪と、あんまり見ない長袖のドレスが、なんだか凄く神秘的な印象になって。
元々綺麗な顔立ちだとは思ってたけど、完璧に化粧されているせいか。


「やべえ……兵助、超綺麗なんだけど」


勘右衛門の呟きに全力で頷く。
衣装のせいか、花のせいか。昔絵本か何かで見た、花の妖精を思い出した。
そこいらの女の人よりも綺麗かもしれんぞ兵助。化粧マジックか。
兵助の顔立ちがいいのか、タカ丸さんの腕がいいのか。どっちだ。


「お前らさあ……先に言えよ。いきなり女装させられて、びっくりするわ」
「うっわあ兵助喋んないで! その見た目で声低いとかすげえギャップが!」
「なんか混乱しそう! 凄いなお前!」
「張ったおすぞお前ら」


じろりと三郎と勘右衛門を睨んだ兵助はすぐに苦笑して、見蕩れている雷蔵に視線を移した。
雷蔵はハッと我に返って柔らかく笑う。
びっくりするくらい、優しい笑顔だった。


「兵助、似合ってるよ」
「あんまり嬉しくないなあ。雷蔵も、凄く似合ってる」
「ありがとう」
「いちゃつくのは後! 始めようよみんな!」


二人の会話を遮って笑うタカ丸さんの言葉に、みんなでベルの周りに集まる。
結婚式と言っても厳格なことはしない。ごっこみたいなものだ。
だけど、これは紛れもない結婚式なのだ。
タカ丸さんにエスコートされて雷蔵の隣に立った兵助は、雷蔵と顔を見合わせて笑った。


「よし! じゃあ中在家先輩、やっちゃってください!」
「……。……聖書の朗読から、した方がいいのだろうか」
「お、覚えてるんですか?」
「いや……、だが、調べたら出てくるはず……」
「調べましょうか?」
「え、えー、どうする?」
「い、いるか?」
「有った方がいいかな?」
「……最初からグダグダじゃないか」
「さっき司祭役決定したらしいからねえ」


笑いながら言う二人に先輩と後輩達が苦笑する。
いやだって、そもそも結婚式の段どりとかイマイチよく分かってないんだから仕方ないというか。ある意味俺ららしいと我ながら思うけど。
どうしようかと一瞬勘右衛門と三郎と視線を交わしてから、三郎が笑った。


「無くても大丈夫でしょう。この二人はどう頑張っても幸せになる未来しか待ち受けてませんよ」


その言葉に兵助は少し驚いたように目を丸くして、雷蔵は穏やかに微笑んだ。
三郎は雷蔵に執着じみた愛情を持っていたから(家族愛とか友愛の類だけど)、兵助も含めて幸せな未来だと言ったことが意外だったんだろう。
だけど三郎は、きちんと俺達のことも好きだから。案外仲間想いなんだぞ。
そう思ったのは俺だけじゃないらしく、勘右衛門と後輩達も楽しそうに笑った。


「じゃあ、誓いの言葉から! 先輩、お願いします」


声を上げると、中在家先輩が頷いて真剣な表情になる。
兵助と雷蔵も真面目な表情になって、前を向いた。


「……雷蔵」
「はい」
「お前は兵助を生涯の伴侶とし、健やかなるときも病めるときも、喜びのときも悲しみのときも、富めるときも貧しいときも、死が二人を別つまで、愛し合うと誓いますか?」


雷蔵はちらりと兵助を見て、穏やかに微笑む。


「はい、誓います」


先輩が頷き、兵助に視線を向ける。


「兵助」
「はい」
「お前は雷蔵を生涯の伴侶とし、健やかなるときも病めるときも、喜びのときも悲しみのときも、富めるときも貧しいときも、死が二人を別つまで、愛し合うと誓いますか?」


兵助はふと目を伏せて、じっと先輩を見つめた。


「誓います」


先輩は二人を交互に見て頷く。
そして少しの間黙り込んで。


「……指輪の交換に移ろう」


あ、先輩次何言えばいいかわかんなくなったな。
みんな思っただろうけど、誰もなにも言わなかった。さすがにね、それくらいの空気は読めますよ。


「あ、指輪の交換って、僕一つしか買ってないんだけど。プロポーズさせられるんだと思ってたから」


懐から指輪を取り出した雷蔵は、目を丸くしている兵助に困ったように笑った。
だけど心配することなかれ。
なんのために俺達が長い時間で準備したと思ってるんだ。
兵助をちらりと見ると、兵助は優しく目を細めた。


「実は俺も、雷蔵に指輪買ったんだ」


隣に立ってたタカ丸さんが恭しくその指輪を取り出す。タカ丸さんが従者みたいになってる。
驚いた様子の雷蔵に、兵助は悪戯っ子みたいな笑みで俺達を見た。


準備期間の間、ドレスのレンタルをタカ丸さん達に頼んだ後。
俺達は兵助の家に直行した。
もちろん、指輪を買わせるために。
男女間なら、指輪は男が買うもんだと思う。これから夫婦となって、妻となる女を、家族を、守り抜いて生きる決意みたいなもんだと。そして女も、夫となる男を、家族を、支えて守って生きる覚悟を、それを受け取ることで確かめる。
だけど同性同士はそうじゃない。たぶんどっちもお互いを守りたいだろうし、支えたいだろうと思った。
まあ一言でいってしまえば、どっちか一方に指輪をプレゼントされたら男としてのプライドが傷つくんじゃないかと思ったのだ。
だから俺達は、兵助にも雷蔵にもお互いのために指輪を買わせたってわけだ。
かいつまんで説明すると、雷蔵は顔を綻ばせた。


「そうか……。兵助、僕らは愛されてるね」
「うん、そう思うよ」


嬉しそうに二人で顔を見合わせて、二人はお互いに、お互いのために買った指輪を交換した。
兵助が選んだ指輪は雷蔵同様シンプルだけど、一か所に斜めのラインが入っていて、そこにダイヤが埋め込まれているもの。二人ともセンスがいい。
形は違うけど、お互いが一番お互いに似合うと思ったものだからこれが一番いいと思った。


だけど、兵助が雷蔵に指輪をはめられたあと、すぐにん? という顔をして指輪を外した。それから内側を見て、目を見開く。


「マジか……!」
「へ?」
「どしたの兵助?」
「ま、まさか気に入らなかった……?」
「あ、や、違う違う! ただびっくりして!」
「びっくりした?」


きょとんとした孫兵の声に兵助は頷いて、首を傾げる雷蔵に指輪を見るように促した。そして内側を指さして。
覗き込んだ雷蔵は、目を丸くしてから嬉しそうに笑った。


指輪の内側には、赤いダイヤと“with you.”という文字。
示し合わせたように、全く同じものが埋め込まれて、刻印されていた。
凄い。男女のカップルだってこんなにうまくはいかないだろう。


「わあ!」
「こんなことってあるんだ……!」
「え、話し合ったわけじゃないよな?」
「うん、雷蔵驚かせようと思って黙ってたし」
「僕だってさっき決めたばかりだよ」
「だよな」
「じゃ、ほんとに奇跡ですね!」
「てかもう運命ッスよここまでくると!」
「凄いなあ……」


和やかになりつつある空気に、中在家先輩が咳払いをして姿勢を正した。
おっと、結婚式の最中だってこと忘れてた。俺達も慌てて居住まいを正す。


「では……誓いのキスを」
「はい」


兵助と雷蔵が向かい合って、照れたように笑った。
そしてそのまま、触れるだけのキス。
その途端。


「おめでとー!!」
「「おめでとうございます!!」」
「「わあ!」」


勘右衛門と後輩達が大声を張り上げて、いつ用意したのかフラワーシャワーを散らした。
赤、ピンク、白……色とりどりの花が二人の上に舞う。


兵助と雷蔵はその中で、今日一番の最高の笑顔を見せた。


今の日本じゃ同性同士は結婚できないし、カップルだって公言するのも勇気と周りの理解がいる。
同性同士は異性同士よりもずっとずっと辛いことがあるだろう。
だけど、この二人ならきっと大丈夫だと思えた。何があっても乗り越えていける。
俺達だっているんだから、この二人は絶対に幸せになるんだ。


誰がなんと言おうとも、今日、兵助と雷蔵は結婚した。








――
長い!
最初は兵助のウェディングドレスにきゃっきゃする火薬が書きたかったんだけど……
ていうかドレスといいタキシードといい付け焼刃知識丸出しですみません!もうちょっと専門用語しゃべらせたかったけど限界だった……わけわからんかった……
でも衣装とか指輪とかいろいろ見るのは楽しかったです。今あんなに種類あるのね。
あ、ちなみに赤いダイヤの石言葉は作中にあります。なんか一番この二人っぽいかなーと思ったので。
あとしょうもないっていうか私だけが楽しいというか、小ネタというかこだわりなんですが、行間の数字を、縁起がいいとされている二と八ばかり使いました笑。自己満足!


ともあれ、ひたすら幸せな話を書くのは楽しかったです。
ここまで読んでいただきありがとうございました!




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