世界の終わりに。

*現パロ、死亡描写有







世界の終わりに。







隕石の落下だとか、地中エネルギーの暴発だとか、はたまた宇宙人の総攻撃だとか。
理由はいろいろ錯綜していてよく分からないが、とにかく明日、地球が最期の日を向かえるらしい。
いつも偉そうにふんぞり返っている政治家や評論家が画面の向こうで焦っている。
それを見てようやく、周りの人達もそれが本当のことなのだと理解して慌て始めた。

怒号と悲鳴が飛び交う街中を歩きながら、世界の最期がどんなものなのか考える。
隕石の落下なら、大砲みたいにあちこち落ちてくるのだろうか。それとも地球よりもでかい奴が、一発ドカンとぶつかってくるのだろうか。
地中エネルギーの暴発なら一瞬で死ねるかもしれない。地球が散り散りになる様は見てみたい気もする。
宇宙人の総攻撃は、少し現実味がなさすぎるか。だが死ぬ直前に、長い間不明だった地球人以外の生命体の存在を知れることはなかなかに浪漫があると思う。
こんな世界に未練はない。常々吹っ飛んじまえと思っていたくらいだ。
自分が死ぬことに抵抗はない。常々消えてしまいたいと思っていたから。

「くそ、どけ!」
「!」

男に思い切り跳ね除けられてバランスを崩す。
あちこちで同じことが起きていた。もみくちゃになる男女とか、泣き喚く子供とか、動物の死体とか。
いつも隠している人間の本性はこういう時に現れる。
ああ全く、反吐が出そうだ。

「ねえ」

さっさと家に戻ろうと足早に歩いていると、突然腕を掴まれた。
面倒な人に捕まったかと慌てて振り返る。金でもせびられては厄介だ。
しかし、そこにいたのは。

「君、僕とそっくりだね」

自分が絶対しないような柔らかい笑みを顔に乗せた、自分と同じ顔の男だった。





「僕は雷蔵。君は……まあいいや。ねえ、ここで会ったのも何かの縁だし、最後の日を共に過ごさないかい?」

なんて不思議な口説き文句に落とされ、ついて行った先は地下のバー。
とはいえ既に潰れているのか内装はぐちゃぐちゃで、辛うじて寝泊まりできるような場所だ。昔は繁盛していたのか家具の質はかなり良さげだが。
雷蔵と名乗った男は、備え付けられている棚から二、三本酒瓶とグラスを取り出して持ってきた。

「酒は飲める?」
「嗜む程度には」
「じゃ、世界の終末に乾杯しよう」

皮肉の効いた言い回しに思わず笑う。
自棄になっているのかはたまたこれが素なのか、思っていたより面白そうな男だ。
もったいぶって掲げたグラスに自分のものを合わせると、軽い音が響いた。

「ここは僕の家なんだよ。昔ここで先輩が働いてて、店が潰れたんでそれを貰ったんだ。
元々違法の店だったから警察に見つかるとまずいけど、まあ地下にまで検閲に来ることは無いしね。そう考えるとなかなか上等な家だろう?」

朗々と語る雷蔵は上機嫌だ。人に聞いた割にかなり酒に弱いらしい。
どうやら雷蔵はアンダーグラウンドの住人らしく、仲間と共に窃盗をして金を稼いでいるようだ。盗みが専門だが、場合によっては殺人もするとか。
今時そんな賊の真似事をする奴らがいたのかと驚いたが、まあ職業などどうでもいい。
どうせ明日になればみんな死ぬのだ。

「君は変わってるねえ」

雷蔵がクスクスと笑う。
顔が似ているというだけで自分の家に赤の他人を連れてくる彼の方が変わっていると思うのだが。
しかも酒に弱いくせに飲むし、簡単に素性を言うし。
今更警察に突き出すようなことをする気はないが、それにしたって無防備というか。
明日までの命だと思うと自棄になってしまうものなのだろうか。

「そうかもねえ」
「……君、家族のところへ帰ったりはしないのか? 死ぬのに」
「君こそ」

透き通った丸い目で見つめられて視線を逸らす。
家族か。
家族の大切さというものはよく分からない。
絶縁するほど仲が悪かったわけではないが……互いに興味がなかったのだろう。
母が死んで父が不治の病に罹ったことすら、知ったのは葬式の後だった。

「そうか……死んじゃったのか」
「今更なんとも思わないけどな。君は?」
「……いないよ。一応、生きてはいるみたいだけど」
「一応?」
「情報屋の友人が教えてくれるんだ。別にいいって言ってんのにさ」

酒を煽って、拗ねるように背を向ける。完全な酔っ払いだ。
というか情報屋も存在するのか。彼の話が嘘でなければ、本当にドラマや漫画のような人生を歩んできたのだろう。
至って平凡な自分の人生が味気なく感じてしまう。

「窃盗団に情報屋ということは、殺し屋なんかもいるのか?」
「いるよ〜。ゴルゴみたいな人から不二子みたいな人まで」
「なら君らはさしずめルパンってところか」
「確かに僕らは三人組だね。とっつぁんはいないけど」
「仲間と会わなくていいのか?」
「会うもなにも」

雷蔵がくるりと振り返ると、同時にバーの扉が開いて三人の男が入ってきた。

「たっだいまー!」
「へーすけ連れてきたぜー!」
「ちょ、俺の話を聞けぇ!」
「……一緒に住んでるから」

賑やかそうな二人組と、真面目そうな黒髪の男。
彼らが雷蔵の仲間らしい。
くすりと笑って雷蔵が立ち上がる。

「おかえりー三人とも」
「ちょっと雷蔵! 用事があるなら電話してこいって」
「ごめん、でも折角最期の日なんだからさ、一緒に過ごしたいじゃない」
「そうだよね! やっぱおれら三人が一緒ならさ、兵助も一緒じゃないと!」
「そーそー! 俺ら兵助大好きだから!」
「調子いいなお前らは本当に!」

兵助と呼ばれた黒髪の男がどかりとソファに座り、目が合うと驚いたように雷蔵を見た。

「なんだ、最期の日まで仕事か?」
「あれ、ほんとだ。依頼人?」
「ああ、違うよ。ちょっと酒の相手をしてもらっていたんだ。みんなが来るまで暇だったからさ」

雷蔵の言葉に三人は納得して、適当にそれぞれソファに座ったり酒を取りに行ったりと自分達の行動を取る。
顔が似ていることに関しては誰も触れない。むしろそれが当然とでもいうように、自分に興味を持つ者がいなかった。
まさに類は友を呼ぶ、というか。変人の友人は変人、というか。

「つうか兵助、お前こそ最期の日まで仕事してたじゃん」
「あー、そういや仕事あるっつってたよね」
「え、こんな時まで仕事してたの兵助。何の仕事?」

自分と兵助という男のグラスを持ってきた、傷んだ髪の男がソファの背もたれに腰掛けた。
その話の内容に不思議な髪型の男と雷蔵も身を乗り出すと、兵助は面倒くさげに酒を煽る。
話から察するに雷蔵の仲間は髪が特徴の男二人で、兵助は別の仕事をしているらしい。
それでも裏社会の仕事であることは間違いないだろうけど。

「終末の理由をさ。お偉いさんがはっきり言わなかったから何かあると思って、いろいろ協力してもらって調べてたんだよ」
「ええ! なにそれ、超楽しそうじゃん!」
「人類最期の悪あがきって感じだね。熱い展開だなあ」
「んで、なんか分かったのか?」
「……どうせ死ぬのに、どうして調べる必要があるんだ?」

盛り上がる三人を見ていると、否定する言葉が口を突いて出た。
これはいけない。
しかし慌てて取り繕おうとすると、その前に不思議な髪型の男が笑う。

「そりゃあまだ生きてたいからだよ。おれ達はまだまだやりたいことが山ほどあんのさ!」
「ひゅーひゅー! かっこいいぜ勘右衛門!」
「バカみたいにポジティブだからな、バ勘右衛門は」
「ちょっ、兵助ひどい!」
「間違っては無いだろ。お前たちは馬鹿コンビなんだから」
「ちょっと待てお前達って俺もか!?」
「「他に誰がいるんだ」」
「そこでハモるなよ!」

どんどんと会話が流れていく。
取り繕わなくても誰も何も気にしていないようでホッと息を吐いた。
しかしここにいる人達はみんな、どうも生にポジティブらしい。まだ生きていたいなんてどうやったら思えるんだ。
やりたいことなんて、どうやったら見つかるんだ。

「ほら、もっと飲めって。そんな渋い顔してちゃいい酒も台無しだ」
「……いい酒って、安酒だろう」
「安酒でも美味い酒は全部いい酒なの! ほら飲め飲め!」

ゲラゲラと笑いながら、傷んだ髪の男が酒をグラスに注いでいく。
雷蔵や勘右衛門という男もそうだが、朗らかな笑顔からは到底窃盗や殺人なんてするような人物には見えない。
むしろそういう嘘や人殺しを嫌うようなタイプに見えるのに。

「なんで窃盗団なんかやってるんだ? そういうことをしなくても普通の仕事に就けそうなのに」
「ん〜? いや、俺と勘右衛門は雷蔵に拾われたクチよ。俺ら、元々はチンピラでさ。ある時ヘマして、バックにいたヤクザにボッコボコのズッタズタにされたわけ。そこを雷蔵に助けてもらったと」
「……そんな風には見えないな。あんたも、雷蔵と勘右衛門って奴も」
「そうかぁ? ……んー、でも、昔よりも今の方が生きてるって感じはするぜ」

グラスを傾けてにかりと笑う。
彼らの方がよっぽど暗い世界に生きているはずなのに、話を聞いていると自分よりも楽しく生きている気がするから不思議だ。
信じられる仲間がいて、ありのままの自分でいられる場所があって。
裏社会の人間の方が、表社会で生きている自分よりも人間くさいなんて。

「そりゃ、死にたくはないだろうな」
「出来ればな。けど反対に、今なら死んでも後悔はないと思う」
「後悔?」
「ああ。俺ら家族はいねぇけどさ。命を預けられる仲間がいて、美味い酒や飯を食えて、好きなことを全力でやってる。なかなか上々な人生だと思うんだよ」
「……そうか」

確かに上々な人生だ。
家族すら信用できず、酒や飯の評価は味ではなく値段、仕事を好きだとも思えなかった、そんな自分とは違って。

「なになに、何の話ー?」
「俺は今死んでも後悔しねーぜって話!」
「あっははは、くっさいセリフ好きだよね八左ヱ門」
「しっつれいだなーお前は!」

酒瓶ごと持ってきた勘右衛門がソファの後ろから傷んだ男の肩に腕を回す。
かなり酒臭い。どれだけ飲んだらこんな臭いになるのかと思うほどぷんぷんと酒の臭いが漂っている。
八左ヱ門もそう思ったのか、顔を顰めた。

「お前また飲みすぎな。兵助に怒られんぞ」
「だいじょーぶだいじょーぶ、最期なんだから兵助も怒んないよ」
「お前なあ」

呆れたように苦笑する八左ヱ門に、勘右衛門はケラケラと上機嫌。なんだか兄弟みたいだ。
そういえばこの二人は雷蔵と出会うより前から一緒にいたと言っていたか。

「あんたもちゃんと飲んでる? 最期なんだから浴びるように飲んどきなよ」
「ああ……そうだな」
「なーんだお兄さん、話が分かるねえ!」
「飲みすぎんなよー」

テンション高くバシバシと肩を叩いてくる勘右衛門に対して、八左ヱ門は苦笑して注意してくれる。バランスが取れている。
窃盗団と言えば聞こえは悪いが、彼らはみんな気が良い。
人間がこんな連中ばかりなら世界はこんなことにならなかっただろう、と無意味なことを考えた。

「あんたはなんか見てて楽しそうじゃないからさあ。最期くらい楽しんだ方がいいよ」
「……割と、楽しんでいると思うんだが」
「いや、心の底から楽しんでるわけじゃないな。おれは学は無いけどさ、そういうのは分かるんだから」
「勘右衛門、酔い始めると面倒なんだ。適当に流してやってくれ」
「あ、ああ……」

酔っているにしては、存外的確なことを言われている気がする。
楽しんでいないわけではない、が、心の底から楽しんでいるかと言われれば自分でもよくわからない。
本当の気持ちを隠しすぎて、最近では自分の感情もよく分からなくなっていた。
感じることはできるが、それが本当にそう思っているのか、建前でそう思い込んでいるだけなのか、と。
勘右衛門にはそれを見抜かれているのだろう。

「ま、でも『嘘から出た実』っつう言葉もあるしね。楽しいって上辺だけでも思ってんなら楽しいんじゃないか? 嫌だって一瞬でも思ったら出て行きゃいいんだよ」
「単純だな……」
「単純は得だよー? 幸せだって思える回数が他の人より多いんだからな。難しく考える奴よりよっぽど長生きさ。おれらみたいに!」

何が可笑しいのかケラケラ笑う勘右衛門。
辺りを見渡してみれば、安い酒を片手に眠りこける八左ヱ門と、八左ヱ門にちょっかいを出している兵助、それを見て笑っている雷蔵。
酒が入っているというのも勿論あるだろうが、みんなとても楽しそうだ。
この光景を見てあと数時間後に世界が終わるなんて、誰も思わないだろう。
そう思うとなんだか可笑しくなってきた。酔いが回ってきたようだ。

「確かに」
「だろー?」

はっきりと自分の感情がこうだと言えるわけではないが、久しぶりに楽しいと思えた気がした。





いつの間にか眠っていたようだ。ふと気付くと、外はすっかり真っ暗になっていた。
一瞬自分がどこにいるのか分からなくなって飛び起きる。
ソファの上で眠っている勘右衛門と八左ヱ門が視界に入り、ここが家ではないとようやく思い出した。

「起きたのか。水飲むか?」
「あ、ああ……すまない」

兵助はずっと起きていたのか、少し離れた場所にあるテーブルでパソコンを開いていた。
雷蔵はいない。トイレだろうか。

「今何時だ?」
「二時。そろそろ終わりの兆候が見えてきたよ」
「そういえば、終末の理由って分かったのか」
「分かってたらお前ら巻き込んで止めようと画策してたな」

パソコンを覗き込むと、映し出されていたのは地上。
今はもうみんな最期の時を過ごしているのか人っ子一人いなかった。
街は死んだように静かで真っ暗だ。人の動かない夜とはこんなに暗いものなのか。

「……雷蔵は?」
「もうすぐ帰ってくるよ」
「そうか」
「……こんな時だってのに、お前はずっと冷静だな」

何を語るでもなく、兵助はぽつりと呟く。

「君こそ」
「そう見えるか? 結構浮足立ってるよ、俺は」
「そうは見えないな」

肩を竦めて、兵助は傍らにあるコーヒーを啜った。
やはりずっと起きていたのだろうか。眠れなかったのかもしれない。
……いや、というより、この一大事に眠れる方が相当タフなだけだろう。
ぐっすり寝こけている勘右衛門と八左ヱ門を見ると、益々そう思う。

「……君も、生きていたかったかい?」
「そうだな。まだ死にたくはなかった」
「どうして」
「うーん……性分かな。昔から泥水啜って生きてきたから、相手が人間だろうが地球だろうが、ただで死んでやるか、って思ってしまうんだ」
「ああ……なるほど、往生際が悪いのか」
「ははっ! そう、生き汚いのさ。まあでも、もうやれることはやったから未練はない」
「……そこは粘らないんだな」
「精一杯の努力でどうしようもなけりゃ、あとは運に任せるだけだ。運も実力のうちってな」

笑いながら素っ気なく話すという器用なことをして、兵助はちらりと扉に目を向ける。
何かと思えば、数秒もしないうちに雷蔵が戻ってきた。
人の気配というものが分かるのだろう。さすが裏社会の人間だ。

「ただいま兵助、あれ、起きたのかい?」
「ああ、今さっき」
「一緒に終末の瞬間を見ようと思ってさ」
「そう。僕もお邪魔していいかい」

聞いておきながら返事は待たずに、雷蔵はするりと隣に座る。
ふわりと笑う顔も優しい声も変わっていないが、目元が少し赤くなっていたことが気になった。
兵助も気付いたように雷蔵を一瞥したものの、指摘することなく視線を戻す。

「俺の言った通りだったろ」
「……全く、君はお節介で困るよ」

皮肉を交わしてふと笑い合う。その笑みは互いに優しい。
話の内容は分からないが、とりあえず悪い意味で泣いたわけではなさそうだ。

「もう始まるの?」
「もうすぐだと思う。気温とか気圧が上昇してきてる」
「あ、本当だ。そういえば地上はカラスとか猫とか虫が異常に騒いでたよ」
「やっぱり動物は分かるんだろうなあ」

確かに少し暖かくなってきた気がする。パソコンの画面を見ると、真っ暗な街の中でいくつもの光る眼があった。猫やカラスだろう。
人間よりも野生に近い分、動物達は異常気象に敏感だ。

「……そろそろあいつらも起こすか」

おもむろに兵助が立ち上がり、勘右衛門と八左ヱ門を叩き起こす。

「起きろお前ら! 終末の瞬間を見るんだろ!?」
「ん〜……待って、あと五……いや十分……」
「……気持ち悪い……」
「勘右衛門起きろ! 八左ヱ門トイレ行け!」

三人の攻防戦を横目に見ながら雷蔵と笑う。緊張感の欠片も無い。
だからなのか、こういう時だというのに恐怖や後悔は微塵も感じられなかった。
死へのカウントダウンは、確実に迫ってきているのに。

「……久しぶりに、家族と話しをしたんだ」
「え」
「電話で、だけどね。兵助がうるさくてさ」

驚いて雷蔵と兵助を交互に見ると、雷蔵が小声で笑う。
ああ、家族のことを教える情報屋とは兵助のことだったのか。
お節介だと言っていたが、雷蔵の表情を見るに家族との対話はうまくいったのだろう。
まあ彼らの繋がりからして、兵助がうまくいかない再会をお膳立てするわけがないか。

「久しぶりに話したよ。ほんと、数十年ぶりくらい」
「……何の話を?」
「うん、いろいろ。元気か、とか最近うまくやってるか、とか」
「うん」
「母さんも父さんもさ、元気だって言ってたよ。電話してくれてありがとう、って」
「……」
「最期の時まで僕のことを忘れないって。生まれてきてくれてありがとう、ってさ。
……うん、電話して良かったよ。ほんとに最期になっちゃったけど、和解できてよかった」
「そうか……良かったな」

家族というものの良さはいまいちよく分からないが、和解できたのなら良かったのだろう。
微笑み返すと、雷蔵は少し困ったように苦笑した。
ようやく起きた八左ヱ門と勘右衛門が、兵助に今の状況を尋ねている声が聞こえる。
じんわりと汗ばんできた。地上でも、アスファルトの上に咲いている花が萎れていく。

「実はね。僕は彼らと違って、人類は滅びればいいと思っていた類の人間なんだ」
「え? そうなのか」
「そう。人間というものに嫌気がさして、いつ自分が死んでもいいかなって思ってた」
「……意外だな」
「兵助と出会ってからそうは思わなくなったけどね」

勘右衛門達がパソコンの前へ集まってくる。
どんどん熱くなってくる気温に、近づいてくる死を感じた。

「だからこそ君に声をかけた。君の雰囲気は、昔の僕によく似てたから」

地鳴りが響き始めた。
地上でも轟々と風が吹き荒び、何十階もあるビルが揺れている。
じんわりと掌に汗が滲んだ時、雷蔵に手を握られ、八左ヱ門に肩を組まれた。

「地球が滅んだら、魂ってどうなるんだろうね?」
「他の星に行くんじゃないか?」
「いや、幽霊となって宇宙を漂うかもしれない」
「それはそれで面白そうだよね。幽霊の星とかあるんじゃない?」
「幽霊の星!? なんかゲームみたいだな!」
「それより他の星に生まれ変わりたいよ、俺は」
「宇宙人になるのか……でも兵助目ェでかいから結構違和感ないかもな」
「お前にとっての宇宙人はグレイしかないのか」

これから死ぬというのに、四人は楽しそうに死後の話をする。
しっかり手を繋ぎ、肩を抱いて、死ぬ瞬間も、その後も、一緒にいるのだと確かめながら。

「お前はどう思う?」

勘右衛門が楽しげに笑いかけてくる。
地上はもう大嵐で、あちこちで水柱が上がり、建物には火が燃え盛っている。

「あ、死後の世界が無いとか、宇宙人はいないとか言うのは無しな」

八左ヱ門が眉を下げて笑った。
焦げた臭いが鼻をつき、パソコンの画面が消えて部屋も真っ暗になった。

「雷蔵に似てる奴が、そんな面白味の無い答えは言わないだろ」

兵助が挑むように笑った声が聞こえた。
地面が揺れ始め、物凄い轟音が辺りに響く。

「僕に似てるのは関係ないだろ? ねえ三郎」

雷蔵が優しい声で笑う。
私も不敵に笑い返した。

「ああ……今度は、もっと早く君達に会いたいな」

彼らの穏やかな笑い声が響く。
恐怖は無い。
緊張も、後悔も無い。
ただ安堵の気持ちに包まれて、私はそっと目を閉じる。


最期にふと、どうして雷蔵が私の名前を知っていたのかと考えた。







世界の終わりに。
(あなたなら、何をする?)







――
異常気象が立て続けに起こっている昨今、案外人類の終わりも近いのでは……なんてことを最近よく考えるようになりまして。
「今日を最期だと思って生きる」ということが、今の社会とても大事なことだなあと思います。
明日死ぬと思ったら、案外自分の中に残るものって少ないです。行動に移すことはとても大変ですが……自分もできているとは言えませんが!
それでも、大切なものだけは見失わないように生きてきたいですよね。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


修正 16.12.30



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -