恋の色






今日は休日で、珍しくお互い予定が入っていなかった。
大抵いつもはどちらかに委員会やら実習やら課題やらがあってどちらかの部屋で過ごすことが多かったので、「たまには団子でも食いに行かないか?」と照れたように笑った食満先輩に同じように照れて笑ってしまった。

「久々知、悪い。待ったか?」
「いえ、今来たところですよ」
「そっか、じゃ、行くか」
「はい」

正門の前で待ち合わせ。
久しぶりに先輩の私服を見て、少しだけドキッとしたことは秘密。
小松田さんに見送られて、俺達は学園を出た。

「こうやってのんびりするのは久々だなあ」
「六年生はお忙しいですもんね」
「お前もだろ? 聞いたぞ、この間の実習で三郎から札を取ったらしいじゃねえか」
「あー、でも結局三郎達の班には負けたんで、もっと精進しないと」
「真面目だなー。凄いと思うけどな」

他愛もない話をしながら町へ歩く。
学園にいる間はあまり二人きりだけの時間って取れないから、こういう何気ない時間でも凄く嬉しいと思う。
学園では他の六年生とか勘右衛門達が邪魔しに来るんだよなあ。それはそれで楽しいんだけど。

「そういえば、どこの団子屋さん行くんですか?」
「町で評判の団子屋があるんだとさ。当然しんべヱお墨付き」
「あはは! それなら絶対美味しいですね!」
「だろ? そういえばこの前、委員会でさあ……」

後輩達の話をする時の先輩は少しだけ、いつもよりもテンションが上がる。
あ、あと潮江先輩の話をする時も。ちょっとテンションの方向が違うけど。
後輩が可愛いというのは俺もよく分かるので、嫉妬は無い。ただ、俺の話もこれくらいテンション高く話してくれていたらいいなあ、とは思う。
だって、凄く後輩を大切にしていることがよく分かるから。

「……予想以上に混んでるな」
「ですねえ……」

しんべヱお墨付きの団子屋は長蛇の列で、入るまでにかなり時間がかかる。
もしかしたら並ぶだけで午前中は潰れてしまうかもしれない。
食満先輩が少しだけ迷ったのが分かった。

「あー……半日潰れそうだし、また落ち着いてからにするか?」
「うーん……僕は、先輩と一緒なら並ぶのもいいですよ?」
「……。……なら、並ぶか」

口元を手で覆った先輩が目を逸らして列の最後尾に向かった。
照れているのだと分かり、俺も笑いながら隣に並んだ。

「お前はほんと、天然誑しすぎて怖いな……」
「天然誑しって何ですか。先輩だって後輩誑しなくせに」
「後輩誑しってなんだよ。俺にはお前だけだっての」
「僕だってそうですよ」
「お前、誰にでもそういうこと言いそう」
「怒らせたいのか怒られたいのかどっちですか」

怒った振りをすると、先輩はすぐに悪い悪いと言って笑った。
確かに勘右衛門達にはよく「好き」っていうけど、それは先輩に対する「好き」じゃない。
それは先輩も分かっているので本気で言ったわけではないのだろう。こっちも本気で怒ったわけじゃないし。
それでもあんまり気分は良くない。と、内心少し拗ねていたら、気づかれたのか先輩に頭を撫でられた。
くそう、完全に後輩扱いだ。でもそれだけでまあいっか、と思っちゃう自分……!

「……ずるい。先輩ずるい」
「おーおー、先輩ってのはそういうもんだ」

先輩はケラケラと笑った。
ほんとにずるい。





「っ、先輩、豆腐団子なるものがあります!」
「おー、頼め頼め」

なんとか昼までには店に入ることが出来た。
結構ゆったりした席で、満席だけどぎゅうぎゅうになっている印象は無かった。
あの長蛇の列さえ見ていなければ長居したくなるような雰囲気だ。

「なんか全部美味しそうに見えてきますね……」
「だよなあ。あ、なあ、この餡蜜半分こしねえ?」
「先輩ナイスアイデア……!」

甘いものは結構好きだけど、如何せん腹に入らない。
勘右衛門なら大量に飯を食べた後でも「甘い物は別腹!」とか言って団子十皿くらいはペロリと平らげそうだけど、俺は無理だ。

「小平太ならバクバク食えるんだろうけどなあ」

先輩がぽつりと呟いた言葉に思わず笑う。
同じようなことを考えていたようだ。
そして確かに七松先輩ならバクバク食べられそうだ。きっと勘右衛門の比じゃない。

暫くそんな話をしていると、ようやく団子と餡蜜が来た。

「うまっ!」
「……! しんべヱお墨付きなだけありますね」
「だな」

豆腐団子は普通の団子よりも柔らかめだけど、とてももちもちしていて適度な噛みごたえがある。かかっているタレがまた甘すぎず、これは「甘い物は別腹」と言う気持ちも分かる。
先輩と半分こした餡蜜も、たっぷりの餡子に白玉と寒天。沢山の果物が乗っていて、彩りも綺麗だ。甘い餡子と果物の爽やかさも絶妙に合う。
評判通りの味に、俺と先輩は少しの間無言で食べ続けた。

「……ん?」

豆腐団子の最後の一つを食べ終えた時、ふと顔を上げると見慣れた顔が見えた。

「先輩、あれって……」
「ん? ……あ」
「ですよね?」
「だなあ」

主語がなくても分かる会話。
視線の先には、先輩の直属の後輩である作兵衛と、保健委員会の数馬がいた。
向かい合って座る二人は、友人同士にしては甘い空気を放っていて。だけど、会話の端々や仕草からは緊張感が漂っていた。
ああ、俺達もあんな頃があったなあ。

「可愛いー」
「初々しいなー」

先輩と顔を見合わせて笑い合う。
今でこそ二人でどこかへ行くことも慣れたけど、付き合い初めの頃は小松田さんに見送られることすら恥ずかしかったっけ。
当然、勘右衛門達に知られることも凄く抵抗があった。絶対からかわれるって分かってたし、案の定からかわれたし。
その気持ちが分かるから、声はかけないでおこうかとひそりと二人で笑った。
隠していてもバレる時はバレるのだ。
だからそれまでは知らなかったことにしておいてあげよう。

「しかし、あいつもなかなかやるなあ」

優しい目で後輩をちらりと見て、食満先輩が柔らかく笑う。
作兵衛のことだろう。

「先輩は知ってたんですか?」
「んー、なんとなく好き同士なのかなーとかは思ってたけどな。そういう関係だったってことは知らなかったよ」
「へー、でも善法寺先輩は知ってそうですよね」
「……否定はできんな」

善法寺先輩は他人のそういうのには敏いから。
先輩はお茶を啜りながら微妙な表情を浮かべる。そういえば、最初に俺達の関係に気づいたのも善法寺先輩だったっけ。
先輩の表情から察するに、恐らく俺達がバレた時のことを思い出している。

「お前がいないところで俺がどんだけお前のこと聞かれたか」
「善法寺先輩って女子みたいなところありますからね」
「そうそう。あいつこういう話すぐ食いつくからな」
「あはは!」

実は俺も医務室に行った時によく先輩のことを聞かれる。
先輩のどこが好きなのか、とか先輩とどこまでいっているのかとか、付き合いだしたきっかけとか。
……ほんとに女子みたいだな善法寺先輩。

「お前も聞かれたら適当にはぐらかせよ?」
「はーい」
「つうかさ、この後どこ行く?」
「どうします? 本屋とか?」
「あ、そういえばお前この前髪紐切れたって言ってなかったっけ」
「ああ! ……よく覚えてましたねえ」
「そりゃあな」

残りの餡蜜を食べながら話していると、いつの間にか作兵衛と数馬はいなくなっていた。
まさか町中で鉢合わせることはないと思うけど、ちょっと気を付けて行こうかと二人で笑った。
後輩の恋は、茶化すんじゃなくて見守ってやりたいからね。







「……食満先輩と久々知先輩、すっごく仲良さそうだったね」
「まあ、話聞いてるだけでよく分かるぜ、顔がまるで違ェし。用具と火薬で一緒に仕事する時も、よく目ェ合わせてるし」
「そうなんだ。……い、伊作先輩もあの二人の話よくするんだよ! それだけでも、お互いのこと凄く大事にしてるんだって分かるなあ」
「確かになあ」
「うん……」
「「…………」」

……自分達もあんな風になりたいな、なんて。

(言えねェおれのヘタレ……!!) (言えるわけない……!)









――
初富数。っていうか、短編では初他カプ?
実は結構好きな二人、というか、三年の中では数馬が一番好きです。
だが富松の口調が分からん。アニメのべらんめえ口調っぽくしたかったんだけど、おかしくは無いだろうか。

ああ、あとなんか調べたら室町時代に餡蜜とか甘い団子とか無かったみたいです。
けどまあ落乱らしく「うそやで〜」ってことで一つよろしくお願いします。

久々にほんわりした話を書いた気がします。
ここまで読んで頂きありがとうございました。







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