火薬と三之助

*面白いくらいにオチも意味もない






どうしてこうなったのかは分からない。気付いたら、というしかない。
ただ一つ言えることは、巻き込まれているということだけだ。

「すみません、次屋先輩」

おれの服の裾を握る伊助に苦笑する。
体育委員でちょっと遠出をしただけのはずが、気付くと七松先輩達がいなくなっていた。
どうやらまた迷子になったらしい。あの人達は何故かよく迷子になる。
だから先輩達を探していたのだが、何故かいた伊助と三郎次に慌てて引っ張られた。

「どうせまた迷子になったんでしょう」
「ああ、先輩方がな」
「いや、そうじゃなくて……まあいいですけど」

呆れたように溜息を吐く三郎次。
何かしたかと思ったが、こいつはいつもこんな感じなので気にしないでおく。

「というか、ここはどこなんだ?」

目の前に見えるのは合戦場で、戦の様子をよく見渡せる高台の草陰の中にいる。
でもどこの合戦場なのか、そもそもどうしてこの二人がここにいるのか。
そういう意味を含んだ質問に、伊助と三郎次は顔を見合わせて黙り込んだ。
聞いてはいけなかったか。
この二人ということはおそらくどこかに久々知先輩とタカ丸さんもいるのだろう。
とすると、何をしているのかはさっぱり分からないが火薬委員会の活動中なのかもしれない。

「……もしかして、おれ、邪魔してる?」

そう尋ねると、今度は伊助がぶんぶんと首を横に振った。

「そんなことはないですよ!」
「ただちょっと、久々知先輩にどう伝えようかと思ってるだけです」
「やっぱり久々知先輩いるのか。タカ丸さんも?」
「いえ、タカ丸さんは……」
「タカ丸さんは宿題が残ってたのでお留守番です」

三郎次を遮って伊助がにこりと笑う。
そう言えばそんなことを滝夜叉丸先輩が言っていたような気がする。タカ丸さんが大量に宿題を出されてそれを教えるからどうのこうの、早く委員会を終わってほしいとかどうのこうの。
迷子になったから結局教える時間は無いかもしれない。

「おい、人の話を遮るなよ」
「だって三郎次が口ごもるから」
「先輩をつけろ先輩を。ったく、ほんといつまで経っても生意気だなお前は」
「三郎次先輩だって他の先輩からしたら生意気ですー」
「なんだと!」

何故か突然喧嘩が始まってしまった。
うちの四郎兵衛と金吾は仲が良いので新鮮な感じがする。
かといって三郎次と伊助の仲が悪いというわけではないけど。
むしろ二人はこの言い合いを楽しんでいるようで、すごく仲が良いようだ。
というか火薬委員会は顧問も含めて仲が良いと思う。よくイベントとかやってるし。
そういえば火薬委員会がピクニックしているところを見て七松先輩もやりたがったことがあったなあ。結局ただの登山になったけど。

「お待たせ……って、三之助?」
「わ」

考え事をしていたせいで久々知先輩が降ってきたことに気付かなかった。
三郎次と伊助も驚いたようだったがすぐに先輩に笑いかける。
順応性が高い。うちの金吾だったらもっと驚いていただろう。

「おかえりなさい先輩」
「予定より早かったですね」
「ああ、ただいま。ところでなんで三之助がいるんだ?」
「「迷子です」」
「……今頃七松先輩達が必死に探してるぞ」

呆れたように苦笑する久々知先輩におれも苦笑を返した。

「ぼくも必死に探したんです」
「……次屋先輩の場合は動き回らない方がいいと思います」
「え? なんで?」

首を傾げると、三人は困ったように顔を見合わせる。
久々知先輩がちらりと周囲に視線をやってから、おれの肩に手を置いた。

「とりあえずお前は伊助の手を放すなよ。伊助、頼む」
「はぁい。次屋先輩、よろしくお願いしまーす」
「ああ」

何故かはよく分からなかったがまあいいか。
この場所で先輩の指示が間違っているなんてことは無いだろうから。
伊助としっかり手を繋いだことを確認して、久々知先輩が頷く。

「これからここを抜けるけど、戦場の中ってことを忘れるなよ。殿は俺が務めるから、三郎次は先導を頼む」
「はい」
「三之助はちゃんと三郎次の背中を見て、伊助の言うことをちゃんと聞くこと。伊助は絶対に三之助を放さないこと。いいか?」
「はい」
「分かってますよ」
「次屋先輩は無自覚ですからねえ」

伊助がやれやれという感じに苦笑する。委員会が終わった後の滝夜叉丸先輩みたいだ。

「よし、行こう」
「はい」

久々知先輩の指示で駆け出した三郎次。
ついて行こうとしたおれよりも先に、伊助がおれの手を引いた。
何故か三郎次が急にどこかへ行ったように見えたのだが、伊助にはちゃんと三郎次の行方が見えていたようだ。
付き合いの長さだろうか。

「……あ」

伊助と一緒に走っていると、後ろから久々知先輩が何か見つけたような声を出した。
そして慌てて先頭を走る後輩の名前を呼ぶ。

「三郎次――」
「いけいけどんどーん!!!」
「ぎゃあああ!!」
「……間に合わなかったか」

森の中から猛獣のごとく出てきたのは、我らが体育委員長。
久々知先輩が気付いたのは体育委員の面々だったようだ。
おれを含めて伊助も三郎次も全く気付いてなかったようだから、やっぱり五年生って凄いんだなあと思う。

「七松先輩、出てくる時はもっと静かに」
「火薬委員! 三之助が世話になったなあ!」
「……無理ですよね分かってました」

盛大に溜息を吐いて苦笑を零す先輩に、四郎兵衛と金吾と一緒に来た滝夜叉丸先輩が声をかける。
どうやら吹っ飛ばされた三郎次を回収していたらしい。目を回した三郎次を抱えていた。

「久々知先輩、うちの先輩が申し訳ありません!」
「ああ……いや、ああいう人だってのは分かってるから。それより三人ともお疲れさん」
「ありがとうございます……」
「どこ行ってたんですか、先輩方」
「……お前が迷子になったんだ! いい加減理解しろお前は! 全く!」

声をかけると滝夜叉丸先輩はいつものようにくどくどと説教をしてくる。
が、相変わらず何の話をしているのか全く分からない。どうしておれは怒られているのだろう。
訳が分からないのであっちこっちを見ていると、久々知先輩と七松先輩が真剣な顔で何やら話していた。

「……戦が、……で」
「ああ……、……城か?」
「……です。……が、……銃を……」
「なに? ……火薬、……か」
「三之助! 聞いているのか!」

二人の話の内容を聞こうと聞き耳を立てていると、滝夜叉丸先輩がおれの顔をぐりんと自分の方へ向ける。痛い。いつも七松先輩にぐりんと回されている金吾の気持ちが分かった気がする。

「……先輩方の邪魔をするな」

かと思えば突然声を潜めてそんなことを言う。
まあところどころ聞こえてくる単語でなんとなく分かっていたけど。

「やっぱり、情報交換中ですか」
「だろう。近々先輩方だけで実習があるようだから、それも兼ねていたんじゃないか」
「火薬委員会の実習か忍務かだと思っていたのですが」

そう返すと、滝夜叉丸先輩は目を細める。
伊助と気を取り戻した三郎次が金吾と四郎兵衛と話しているのを確認して、もう一度声を潜めた。

「火薬の忍務には触れるな。碌なことにならないぞ」

その真意はよく分からなかったけれど、滝夜叉丸先輩は火薬委員会に得体のしれない何かを感じているようだ。
まあ分からなくもない。

たぶんおれは、知らないところで利用されていたのだろうから。







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