「リリーばあちゃんの陰謀の段」その後

*妄想過多





誤解していたことを謝り、喜三太にも手作りの豆腐を勧めて五人で一緒に食べることになった。
大量の豆腐が出てくると思った乱太郎ときり丸だが、出てきたのは適量の豆腐。
味は文句なしの兵助の豆腐。適量ならば文句などある筈もなく。
五人はその美味い豆腐に、舌鼓を打ちながら他愛もない話に花を咲かせた。

「久々知先輩は、どうしてそんなにお豆腐がお好きなんですか?」

乱太郎ときり丸、しんべヱが帰ったあと、自分から片付けの手伝いを買って出た喜三太はふとそんなことを聞いた。
ここに乱太郎、きり丸、しんべヱがいたら即座に顔を真っ青にさせていただろう。
兵助は他の先輩達に比べると優しく親しみやすい先輩だが、豆腐の話となると滝夜叉丸の自慢話並みに止まらなくなる。
兵助に自覚がある分だけまだマシなのかもしれないが。

「そうだなあ……」

だが兵助は、豆腐の話題にも関わらず珍しく静かな表情で話し始めた。
ここに兵助の同級生や彼の豆腐語りに巻き込まれたことがある者がいたらさぞ驚くだろう。
喜三太は噂程度にしか知らなかったため、驚くことはなかったが。

「実は最初は、豆腐なんてそんなに好きじゃなかったんだ」
「え? そうなんですか?」

驚いた喜三太に兵助は苦笑する。

「うん。嫌いというわけでもなかったけどね。……ああ、でも『豆腐小僧』と呼ばれ始めた頃は見るのも嫌だったな」
「ええ!?」

運動会のリレーのバトンが豆腐だったというだけで「豆腐小僧」と呼ばれるようになったことは喜三太も知っている。
しかし本人が嫌がっていたことや、豆腐自体そこまで好きでもなかったことは知らなかった。
目を丸くして兵助を見る喜三太に、兵助は頷く。

「今おれがこうなったのは、タカ丸が編入してきたからなんだ」
「はにゃ? タカ丸さんですか?」

突然出てきた名前に首を傾げるが、タカ丸が所属している委員会を思い出した。
火薬委員会の委員長代理は兵助だ。
しかし何故タカ丸と豆腐が繋がるのだろう。

「タカ丸は、敵を傷つけずにやる気だけを削ぐ戦い方ができるだろう?」
「……あっ、辻刈りのことですか?」
「そう」

タカ丸は敵の髪を変な髪型にして敵を戦意喪失させる戦い方だ。
確かに傷つけることはないが。

「敵に得物を悟られずに……要は、忍だと気付かれる前に敵を追い払うことができる。そういう表向きの武器があった方がいいと思ってね。それこそ、きり丸のいうように商売にもなるし」
「なるほどぉ〜」

先程のリリーへの対応はまさに豆腐を武器にした結果だ。
リリーは兵助どころか誰もスカウトせずに帰って行った。
忍が戦うのは最終手段。ある意味それは、忍らしい武器かもしれなかった。
もしかするとリリーは、兵助のそういう一面を見抜いたのかもしれない。喜三太の嘘なんて、きっと最初から気付いていたに違いなかった。

「あれ、でも、それなら学園の中では豆腐を作ったりしなくてもいいんじゃないですか?」

一年は組は時々とても鋭いところを突く。
同じクラスの学級委員長が言っていたことを思い出して、兵助は口元に弧を描いた。

「それは駄目だよ。今、やっと豆腐の声が聞こえ始めたところなんだ! その道のプロに認めてもらうには、毎日ちゃんと精進しないと!」
「へ? ……と、豆腐の声、ですか……?」

話しているうちにテンションが上がっていった兵助に喜三太は戸惑う。
そんな後輩に気付くことなく、兵助の目はキラキラと輝いていた。

「そう! 丹精込めて作った豆腐はね、どう料理してほしいか話しかけてくるんだ! 八杯豆腐がいいとか、肉豆腐にしてほしいとか! その声が聞こえた時、おれは豆腐と出会えてよかったって思えるんだ!」

この辺りで彼の同輩達や乱太郎達は逃げ出すのだが、喜三太は少し違った。
喜三太は辟易するでもなく、ドン引きするでもなく、兵助と同じように瞳を輝かせたのだ。

「それって、すっごくよくわかります! ぼくも初めてナメクジさんの声が聞こえた時、ナメクジさんと出会えてよかったって思いましたもん!」
「分かってくれるか!」
「はい!」

途端にきゃいきゃいとテンションが上がる二人。
残念ながらこの場にツッコミができる人物は不在だった。

「ナメクジさん達も、久々知先輩のお豆腐は絶対気に入ってくれると思いますよ!」
「そうか! じゃあ今度はお前のナメクジさん達にも豆腐を振舞うよ!」
「わあ! ありがとうございます!」
「ああ、どういう料理が好きか聞いておいてくれよ?」
「はいっ! 早速聞いてきます!」

嬉しそうに駆け出していく喜三太に笑って手を振る。
完全に喜三太が見えなくなったところで、兵助はちらりと背後を振り返った。

「何度誘われても、私は風魔には行きませんよ」

ケラケラと笑いながら建物の影から顔を出したのは、先程帰った筈の喜三太の高祖母、リリーだった。

「それは残念じゃ。なかなかの逸材だと思ったんじゃがの」
「風魔流に興味がないわけではないのですが、やっぱり私はこっちの方が性に合ってますから」

穏やかに微笑んだ兵助にリリーは豪快に笑う。

「それなら、とっとと良い豆腐屋になることじゃな。今度はあんな大量ではなく、お前のもてなしで食べてみたいぞ」
「? ……ああ、勿論です。今度はちゃんと、お客さんとしていらしてください」

普段から豆腐作りに精を出しているのは豆腐が好きだから、というだけではない。
もちろん豆腐が好きなことも先程喜三太に語ったことも本当だが、普段からああいう行動をしておけば外でも自然と同じ行動ができる。
付け焼刃の変装ではその道のプロにはあっさり見抜かれてしまう。そしてプロが見抜けるレベルのものを、忍が見抜けない筈がなく。
勿論変装が得意な三郎などは、普段から人を見ているので付け焼刃でもなんとかなるのかもしれないが、兵助はそこまで器用な方ではない。
流石その歳でもくのいちと言われるだけのことはある。おそらくこの人には、何もかもお見通しなのだろう。
もしかすると、学園長よりも喰えない人物かもしれない。

「今度はきちんと、私手製の豆腐料理を振舞います」
「楽しみにしておる」

最後の言葉をいう時には、既にそこにリリーの姿はなく。
兵助はひっそり苦笑を零した。







――
なんて妄想。
いや、やっぱり落乱のお年寄り達はなかなか凄い方々だと思うのですよ。お茶目で人騒がせだけど強か、みたいなね。
あと、昨日のタカ丸の戦いっぷりと今日の兵助のリリーさんの対応がなんかちょっとだけ似てるなあと思ったり思わなかったりしたので、実はこういう経緯で普段から豆腐作るようになったら面白いなあと。
この二人は良い意味でお互い影響されていればいいなあと思います。

それとどうでもいいのですが、プロの料理屋さんは本当に食材の「こういう料理にして!」みたいな声が聞こえてくる方もいるみたいです。
動物や植物も愛情をこめたら声が聞こえるとか気持ちがわかるとかいいますし、案外在り得る話かもしれませんね。
兵助にそういうスキルを付けたのは単純にギャグなんでしょうが、それだけ愛情込めて作ってるんだなあとなんか妙に納得してしまいました。食堂のおばちゃんも聞こえたりして。

それにしても、やっぱり出番の多い子達は書きやすい。
イメージしやすいせいか、勝手に動いてくれますね。特に一はは伊達に主役じゃないです。さすが。




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