江戸パロっぽいもの







からんころんと下駄を鳴らして白い石畳を歩く。
着流しの袖には腕を通さずに棒のついた飴を咥える。昔馴染みにいつも注意されていたことを思い出した。
数年ぶりに戻ってきたこの町で、昔馴染みはまだ手妻のような美しい飴細工を作っているのだろうか。

「尾浜じゃねェか」

突然かけられた声に振り向くと、よく昔馴染みと二人していろんなものを奢ってもらった先輩が立っていた。
かつては火消し見習いだったこの人も、今ではすっかり貫禄ある風貌だ。

「お久しぶりですねえ、先輩」
「なんだァ、てっきりどっかでのたれ死んじまってたと思ってたぜ。元気そうじゃねェか」
「先輩こそ、まだ火消し続けてらしたんですね」

互いに軽口を叩き合い、ふと顔を見合わせて笑う。
再会の挨拶は実にあっさりと終わった。

「兵助は元気ですか?」
「なんだ、まだ会ってないのか? 相変わらずだよ。ああでも最近、弟子が出来たんだ」
「弟子!? あの兵助が!?」

昔馴染みの成長っぷりに驚く。
職人の割には人当たりがよくて人好きする性格だが、昔馴染みは弟子を取るようなタイプではなかったはずだ。
先輩がケラケラと笑った。

「なんでも、毎日のように押しかけてきて断り切れなかったんだと。俺も何度か会ったことがあるけど、面白い奴だったよ」

まァ自分の目で見てみろや。
背を向けてひらりと手を振る先輩に軽く頭を下げて、とりあえず飴屋に行ってみることにした。
もう少し久しぶりの町を堪能するつもりだったが、意外と頑固な昔馴染みを押し切った弟子とやらを見てみたい。

「よお、兵助! 久しぶりだな」

記憶と寸分違わない藍染めの暖簾を潜ると、記憶よりも少しだけ成長した昔馴染みの姿があった。

「勘右衛門! 帰ってきてたのか」
「つい今しがたな。それよりお前、弟子を取ったんだって?」

野次馬精神丸出しの自分に、昔馴染みは苦笑する。
相も変わらず砂糖の甘い匂いがした。

「食満先輩だなー、そういうこと言うのはー……。弟子じゃないよ、ただの後輩」
「後輩?」
「飴の作り方を教えてほしいって言うから、少しの間だけ教えてるんだ」
「ああ、なんだ。まあ、確かにお前は弟子を取るような感じじゃないもんなあ」
「俺はまだ弟子を取れる程の器量じゃないよ。飴のことを教えるだけでいっぱいいっぱい」

柔らかく笑う昔馴染みに笑うと、丁度奥から一人の男が出てきた。
金髪にヒョウ柄の派手な着物を着た軽薄そうな男だ。
客だろうかと思っていると、男が昔馴染みを見て笑う。なんだか気の抜けるようなふにゃりとした笑み。

「兵助くん、仕込み終わったよぉ」
「ああ、お疲れ。勘右衛門、こいつがその後輩。タカ丸、こいつは昔馴染みの勘右衛門だ」
「ああ、話には聞いてます。斉藤タカ丸です」

職人という言葉と全く正反対の風貌に思わず目を見開いた。
同時に、こういうはでやかなタイプを嫌う傾向のある昔馴染みが店に置くなんて、とも考える。
昔馴染みが丸くなったのか、この男が存外見た目通りではないということなのか。
そういえば先輩が、毎日のように押しかけていたと言っていたか。

「タカ丸はおれの一つ上なんだが、既に手に職もあるのに突然飴に興味を持ったんだと」
「へえ、面白い人だな。前は何を?」
「髪結いをしてました。祖父と父とが結構有名で、割と稼ぎは良かったんですよ」
「へええ、稼ぎは良かったのに飴の世界に入ったのか?」

世の中には変わった奴もいるもんだと、突然思い立って日本を歩き回った変わった男が思う。
金髪の男はへらりと笑った。

「だってなんか、やりたいなって思ったらさ。やらないと。向いてるかどうかなんてやってみなくちゃ分からないし」

面白い男だ。
昔馴染みは苦笑を零した。

「思い切りの良さがお前に少し似てると思ったらつい雇ってしまった。けど、お前よりも素直で真っ直ぐな奴だよ」
「あれ、それっておれが嘘つきでひねくれてるってこと?」
「何か違うか?」
「兵助酷い!」

笑い合う自分と昔馴染みを、男は微笑ましそうに見ている。
成程、見た目に反して中身は意外としっかりしているようだ。確かに自分とは違う。

「そうだ! 店が終わったら三人で飯でも食べに行かないか? 積もる話もあるし」
「ああ、いいな。お前がいない間に七松先輩がうどん屋を開いたんだ。意外と美味しいんだよ」
「へええ! いいじゃないか、そこ行こう。七松先輩にも会いたいしな」
「タカ丸もそれでいいだろ?」
「あ、うん……でも、おれも一緒に行っていいの?」
「「なんで?」」
「……あ、いいならいいんだ。一緒させてもらうね」

少しだけ困ったように笑う男に、昔馴染みと顔を見合わせて首を傾げた。
後に自分達が似ていると言われたのだが、なんとなく納得がいかなかった。








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