久々知と七松






得意な間合いは掌一つ。
敵の急所を突けば距離なんてあってないようなものだ。
返り血は当然浴びるし、きっと人の命が消える瞬間も残っている。
そりゃあ寸鉄は殺すだけではなくて打撃や護身としても使うが、あいつのそれは打撃と刺殺、両方できるようになっていたはずだ。
みんな自分の得物を見つけるために一通りの武器を使ったことはある。
だが、近距離武器を選ぶ者はやはり少なかった。

残るのだ。
人を、殺した時の感触が。

闘うことが好きなあいつらでさえ、直接自分の力が伝わるその武器は選ばなかった。


「よし、そろそろいいな」


肉弾戦が得意な私達は、前線に配置されることがままある。
超近距離戦では大人数相手には向かない気もするが、それを感じさせないのが久々知だ。
ひらりと身軽に躱し、目視できないうちに急所に一突き。仲間の死を見届ける前に一突き。
私が剛だとするならば、久々知は柔。
正反対のようだが、仙蔵も驚くほど戦闘の相性は良かった。


「大丈夫ですか?」


大きな瞳に鋭い光を宿して、普段と変わらない仕草で小首を傾げる。
その顔や髪、服にも真っ赤な血がべったりとついているが、さして気にしていないようだ。
そして、それは私も同じ。


「あとは三郎達がうまくやるだろう。私達の仕事はここまでだ」
「はい。それじゃ、帰りましょうか。豆腐が食べたいです」
「ははは! 私もマラソンがしたいな!」
「これだけ動いておいてまだ動くんですか……先輩ってほんとに人間ですか」
「これだけ人を殺しておいて食べ物の話が出来るお前も、大概だけどな」


笑ってそう返すと、久々知は一瞬きょとんとして。
軽く噴き出すように笑った。


「っ確かに、僕もあなたのことは言えないですね!」
「そうだろう? こんな場所で飯の話をする奴なんて聞いたことがないぞ」









――
久々知と七松の根本はどこか似ているという話を書きたかっただけのもの。
あまりにも最近文章が書けないのでフォルダを漁ってきました。笑






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