幼児化ネタ

*やってみたかった幼児化ネタ





顔が見え始めた太陽に、枝に止まる小鳥たちがちゅんちゅんと囀り始める。
爽やかな風が、赤や黄色に色づき始めた木々を揺らす。
穏やかで平和な朝のひととき。

珍しく自室の布団で寝た文次郎は、これまた珍しく布団の中でまどろんでいた。
夜間鍛錬は勿論行ったが、徹夜明け(何徹したかは忘れた)だったため伊作にそうそうに寝るよう言い渡されてしまったのだ。
無視して鍛錬に行くと伊作に無理矢理寝かされそうな形相をされたので、ほどほどの鍛錬にしてすぐに寝た。伊作を怒らせると何をされるか分かったもんじゃないのは、経験上よく分かっている。

だが、そんな朝の幸せな時間はあっという間に終わる。


「せっ、せんぱああああああいい!!」
「うおっ、なんだ!?」


どたどたと上級生らしからぬ足音を立てて部屋にやってきたのは、一つ下の後輩。
しかも普段冷静に場をかき乱す変装名人、鉢屋三郎だった。
三郎の尋常ではない様子に文次郎も飛び起きる。
曲者か!? 曲者だな!? と三郎の胸倉を掴む文次郎に、三郎は慌てて腕の中に抱えているものを文次郎に見せた。


「見てくださいこれ! 雷蔵めちゃくちゃ可愛くないですか!」
「…………は?」


三郎に見せられたものは、五歳くらいの子供。
叩き起こされて既に混乱している文次郎は更に混乱した。

確かに雷蔵の面影はあるが、どういうことだ。お前の子か。
……いやいや、有り得ない有り得ない。
じゃあ弟とか……?
いや三郎の弟が雷蔵に似てどうする。雷蔵の弟だろ。
待て待て、それはどっちの弟でもいいがわざわざ俺に言いに来る意味が分からん。
てか今雷蔵って言わんかったかコイツ。

暴走している男と、混乱している男。
そこへ、さらなる爆弾を投下する男がやってきた。
見覚えのある二人の幼子を抱えて。


「あ、潮江先輩おはようございます」
「おう、久々知……その二人は……?」
「勘右衛門と八左ヱ門です」


絶句する文次郎を気にすることなく兵助は淡々とそうのたまい、未だ雷蔵を抱えて暴走中の三郎に嫌そうな顔を向けた。
ゴミでも見るような眼だった。


「おい、どういう……」
「あれ、立花先輩もですか」


説明してくれ、と言い掛けると三郎の声に遮られる。
意味も分からず三郎の方を向く。と。


「…………は……!?」


自分の同室が寝ている場所に眠る幼子。
どことなく仙蔵の面影があるような。
呆然としている文次郎を余所に、兵助と三郎は淡々と呟いた。


「六いのお二人は大丈夫だと思ってたんだけど」
「いやー、立花先輩も案外うっかりさんなんだな」
「は……!? えっ、はっ!? 待て! 仙蔵? これが?」
「はい。え、今更ですか?」


きょとんと首を傾げる兵助は天然だった。


「何人か幼児化してるみたいなんですよ」


今度こそ、文次郎は叫び声を上げた。





「もんじー、かたぐるましてかたぐるまー!」
「おい先輩をつけろ勘右衛門!」
「さぶろー、ほんとのかおみせてー!」
「わたしもみたいです」
「こればっかりはダメ! いやああ引っ張らないで! ほんとに! お願い!」
「うええええん!!」
「な、なくなちょーじ! わた、わたしがついてるぞ!」
「ええっ、ちょ、二人とも泣かないでくださいよ!」
「とめ兄ちゃん! これなんだー?」
「!? 待っ、八左ヱ門それ触るな危ない!」


文次郎の叫び声で幼子達が目を覚ましてしまい、留三郎と伊作の部屋は阿鼻叫喚と化していた。
この部屋に集まったのは他でもない。


「いや、ごめんねみんな」


元凶がこの人、泣く子も憐れむ不運大魔王だったからである。

困ったように頭をかく伊作に、六年勢で無事だった文次郎と留三郎はギッとおよそ下級生には見せられないような目で睨み付ける。


「謝って済む問題か!」
「そうだどうすんだこの状況!」
「大丈夫大丈夫、明日には戻ってるよ!…………たぶん」
「「おい!!」」


事の顛末はこうだ。

いつも通り薬の調合に勤しんでいた伊作は、新しく出来た薬を早速試して見たくなった。
だが自分で試すといろいろと問題が起きた時に対処できる人がいなくなる。
じゃあ他の人で試そう。が、誰がいいだろう。
四年生以下は実習で明後日まで帰ってこない。では五年生か六年生。
悩んでいると、医務室の木戸が吹っ飛んだ。
言わずもがな、体育委員長の仕業である。
実験対象が決まった瞬間だった。

「で、まあその場にたまたまいたのがこのメンバーだった……と」
「直後にはなんともならなかったから失敗かと思ったんだけど、時間差で来るとはねえ」
「のんびり言ってる場合ですか!? 完全にとばっちりじゃないですか! まあ雷蔵がこんな姿になったのは伊作先輩を褒め称えたいでぐえっ」
「こいつらが可愛いのは認めますが、本当に明日戻るんですか? 戻らないとか困るんですけど」

暴走仕掛けた三郎の首根っこを掴む兵助はさすがに冷静に友人の安否を案じている。
と思いきや。

「明日豆腐パーティーしようと思ってたので、大豆大量に仕入れちゃってて」
「伊作せんぱああああい何してくれてんですか早くこいつら戻してください私だけが餌食になるじゃないですか!!」
「餌食ってなんだ餌食って。腹いっぱい食わせんぞコラ」
「なんでだろう、セリフだけ聞くとツンデレ的セリフなのに」
「内容を知ってると三郎に同情したくなる……」
「合掌しないでください! 伊作先輩明日こいつらが戻らなかったら道連れですから!」
「えっ、ええ……! いや、兵助の料理は美味しいんだけど如何せん量がさあ……!」
「仕方ないですね……六年生の分も用意しますよ」
「伊作てめえ俺達まで巻き込むなこの不運大王が!」






――
飽きた。
フォルダ整理中なのですが、結構いろいろ溜まってました。
全部途中だけど。笑






×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -