お祭り

*視える系の話





お祭りは元々、神様への感謝だとか霊魂を鎮めるだとかって目的があるのさ。
だからねえ、童よ。
衿の合わせが反対の人がいても、それを指摘してはいけない。
お面をつけている人の、素顔を見てはいけないよ。
もしもそれを破ってしまったら――

あちら側へ連れて行かれてしまうからね。





「馬鹿馬鹿しい。幽霊や妖なんているものか」
「おや、立花先輩は信じていらっしゃらない」
「そういうお前は信じているのか、鉢屋」
「いいえ。いたら愉快だとは思いますがね」
「そうか? まあ存在しようがしまいが邪魔をすれば叩き潰すだけだが」
「怖い怖い」


祭囃子が遠くに聞こえる森の中。
三郎と仙蔵は他愛もない話をしながら仲間達の帰還を待っていた。
こんな話題になったのは、三郎がふと友人に教えられた言葉を思い出したからだ。
その友人も祖母に教わったと言っていたが、仙蔵はその話を一蹴した。


「そもそも神仏を信じていないのに幽霊だ妖だを信じろと言われてもな」
「そうですけどね。枯れ尾花とかってのもありますし」
「柳の錯覚、まやかしだろう」
「あれ、でも潮江先輩と食満先輩はそういうの見えるんじゃありませんでしたっけ」


どんどん出てくる否定の言葉に、三郎は仙蔵の級友の顔を思い浮かべる。
そういえば二人は祭の話を教えてくれた友人と同じ班だったか。


「視えるとは言っていたがなあ」
「友人の言葉を信じていないようで」
「お前も信じていないだろう、久々知の話」
「さすが先輩、なんでもお見通しですね」
「……久々知もよくお前にそんな話をしたものだ」
「兵助は話の種として出しただけですから」
「で、その種は育ったのか」
「ええ、季節外れの怪談話に」
「相変わらず仲が宜しいことだな」


三郎がからからと笑った。
その話をした兵助も視えると言うが、どうか。





「あーあーあー来てますねいろいろ」
「ああ見たくねえ」
「悪いのはあんまりいないんじゃねえか」
「そうみたいですけど」


兵助と留三郎、文次郎は当のお祭りの中にいた。
三人とも幽霊も妖も視える性質なため、そういうものが視える度に背筋が粟立つ。


「なんでわざわざ祭を選んだんですか文次兄さんの馬鹿あああ」
「馬鹿とは何だ馬鹿とは」
「まあ、そういうのから面白い話を聞く時もあるしな」
「普段あんなに喧嘩してるのになんで今回は受け入れてんですか、雨降らせたいんですか」
「あんだけ行く前に喧嘩すんなって言ってきた奴に喧嘩売られてんだけど」
「落ち着けへー」


さすがに男三人……ではむさ苦しい且つ違和感もあるので、兵助は女装中だ。
傍目から見ると仲のよい兄妹か幼馴染みの関係に見えるだろう。


「とりあえずなんか食うか」
「そうだな、ほら兵ちゃん、奢ってやるから機嫌直せ」
「留兄さん、こういう時だけちゃん付けしてぇ……」
「で、何食う?」
「……綿あめ」
「はいはい」


ぽんぽんとむくれる兵助の頭を叩き、留三郎が爽やかに綿あめの屋台に並ぶ。
残った文次郎と兵助はあちこちの屋台を眺める。
特定の人とすれ違う度に感じるぞわぞわとした気配は消えない。
こういうところだし仕方ないと思いつつも、兵助は知らず知らず腕をさすった。


「大丈夫だとは思うが俺らから離れるなよ、へー」
「はーい」
「不安だなあ……」
「あたしからしてみれば、兄さん方が射的だ金魚すくいだで喧嘩にならないか不安ですよ」
「さすがにそんなことはしねえよ」
「どうだか。兄さん方、すぐ喧嘩するんですもん」


腰に手を当てて怒る振りをする兵助に、文次郎は苦笑で返す。
綿あめを持ってきた留三郎が、きょとんと首を傾げていた。





――
幽霊騒ぎに巻き込まれる系の話にしようと思ったんだけど続きが全然思いつかなかった。
でもセリフの言い回しとかが気に入ってるのでこちらに。
一応、兵助が影響されやすいとかそういう設定もあったんですけどねー。笑






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