楽しい新年会の段妄想裏話
豆腐関係のよしみで、兵助はよく食堂のおばちゃんの手伝いに駆り出される。
近年稀にみる大雪でほとんどの生徒が学園に留まることになった今年の冬は、特に駆り出される回数が多かった。
今日も。
「雷蔵は図書当番だってさ」
「八左ヱ門も委員会らしいよ」
「えっ、この寒空の中何逃がしたん」
「違う違う、大雪が怖いから生物小屋の補強すんだって」
「あーそゆことね。ちなみに三郎は雷蔵の手伝いだってさ」
「手伝いじゃなくて邪魔だろあれは」
「だよねー」
割烹着を着て野菜を切る兵助は手慣れている。そんな兵助にちょっかいを出しに来た勘右衛門は、食堂でおばちゃんに淹れてもらったお茶を啜りながら他の五年生の話をする。
要するに暇なのだ。
「焔硝蔵は大丈夫なわけ?」
「んな柔じゃない。危なそうなとこは用具に頼んだし」
「うは、さすが。先輩使い荒いなー」
「……変な言い方しないでくんない」
嫌そうな表情をする兵助に勘右衛門はうひひと笑った。天然なのか確信犯なのか分からない。
「食満先輩忙しいねー。二日前くらいには潮江先輩と勝負初めしてたってのに」
「あの日はみんなはしゃいでたからねー」
「おれらもね」
「ね」
特に滝夜叉丸は凄かった、と勘右衛門が言うと、兵助も彼の衣装を思い出したのか軽く噴き出した。アイドルの涙ぐましい努力は聞く分には面白い話だった。
「しかし兵助の豆腐ってば後輩に大人気だったねえ。確かに美味しいけど」
「なに、不満かい勘ちゃんよ」
茶化しつつも、少しだけ眉を潜めた兵助に勘右衛門は慌てて首を振る。
「兵助の料理の美味さが後輩達にも知れ渡ってて嬉しいんだよ。おれらや先輩は知ってたけどさ」
「……どしたの勘右衛門、照れるじゃないか」
「だったらもー少し喜んでおくれ兵ちゃんよ」
「喜んでるよ?」
苦笑する勘右衛門にきょとんとしつつ餅を用意し始める。
かまくらではしゃいだ日に焼いて食べたが、この準備はおそらくアレだ。
勘右衛門のテンションが上がり、思わず立ち上がった。
「なになに、今日お雑煮?」
「そ。手伝う気になった?」
「え〜、仕方ないなー」
けらけらと笑い合っていると、大勢の気配と足音。
「ネズミってなんだろーなあ」という声が聞こえてくる。
兵助と勘右衛門は顔を見合わせた。
***
「お雑煮めっちゃ喜んでたね」
「餅お土産にしてったしね」
『ネズミ』が帰った後で、五年生と六年生は苦笑を零す。
戦闘も流血沙汰もなく。ある意味これが一番忍らしい対応の仕方だったのかもしれない。
「まあ、美味しかったもんね、お雑煮」
ふわりと雷蔵が微笑んだ。つられて五年生も微笑む。
「なんてったっておれらが手伝ったからね!」
「嘘つけ、勘右衛門はどうせ味見しかしてないだろ」
「ご名答」
「あっさり認めるんだなそこは」
「兵助お疲れー」
「雷蔵も図書当番お疲れさん」
きゃっきゃと笑い合いながら片付けをしている五年生。
六年生は無言で視線を交わす。
「五年、これから水鳥観察に行くが一緒にどうだ?」
仙蔵が愉快気な笑みを見せると、五年生はちらりと互いの顔を見合わせた。
『水鳥』。勿論そのままの意味ではなく、酒のことだ。
三郎がにやりと笑った。
「いいですね、年初めに綺麗なもん見るのも」
「だろ?」
「お弁当作っていきましょうか?」
「いいねえ、頼むよ」
「楽しみー」
適当な言葉遊びをしつつ、五年生と六年生は笑い合う。
景気付けに一杯、たまにはこの二学年で酒宴も悪くない。
今年もよろしくお願いします。
――
やっと正月スペシャル見ました。
とりあえず兵助の行動がいちいち良かった。雪景色では鍋作ってるし新年会でも雑煮先生によそってあげてたっぽいし。嫁か。良妻か。
しかし豆腐をどこから出したんだ、とつっこんだの私だけじゃないよね。
でも、一番萌えたのは文次郎が兵助に「聞かれたんなら教えとけ」って言ったとこだったり。
信頼されてるよねーいいねー。テンション上がった。こう、当然のように交わされるこういう会話がツボだったりします。
楽しかったですスペシャル。
今更ですが今年もよろしくお願いします。相変わらずマイペースにやっていきまーす。