無自覚文くく両片思い




文次郎は自分のことに対しては異常に鈍感だ。
自己理解が低いというか、自己分析が足りないというか。
その割に無自覚にいろいろしているので、こいつも可哀想だな、と文次郎と談笑している後輩を思う。

「私にですか?」
「ああ。お前、俺と身長同じだろ? だから丁度いいと思ってな」
「でも、いいんです?」
「三枚セットで安売りしてたから買ったんだが、こっち二枚は柄が一緒だろ? むしろ貰ってくれると助かる」
「……じゃあ、遠慮なくいただきます」

買ってきた服の処分に困っているのは分かっているが、同じ柄のものをやるとペアルックになることは分かっているのだろうか。しかも同じ委員会の先輩後輩とかではなく、他の同級生よりは関わることが多いというくらいの先輩と後輩がペアルック。
確実にいらぬ誤解を受けるだろう。
万が一誤解を受けなかったとしても、五年とペアルックは正直キツイ。私なら嫌だ。
五年も六年や四年とペアルックはキツイだろう。そう、兵助だってタカ丸と色違いの服を着るなんて嫌がるだろうに。

「じゃあ、好きな方を持っていけ」
「え」
「俺がこういうのに頓着しねえって知ってんだろ?」
「知ってますけど……」

選び辛いことさせないでくださいよ、と文句を言いつつも兵助は真剣に服を吟味する。
自分の好きな色ではなく、文次郎に似合う色はどちらかを選んでいるのだろう。殊勝なことだ。

「そんな真剣に悩まんでも……女子かお前」
「だって折角いただくんですから」
「そんなに大層なもんじゃねえだろ」
「そうかもしれませんけど……じゃあ、緑の方いただいていいですか」
「こっちか? 兵助には青の方が似合ってると思うが」
「そうですか? ……いや、でも緑の方が好きなので」

別に文次郎には緑も似合わないわけではないだろうに。

「まあ、兵助が気に入ったのならいいが」
「はい。ありがとうございます」
「いや、俺こそ助かった。また何かあったら頼むな」
「こういう得になることなら喜んで」

茶化してみせるが、損になることだってこいつは結局引き受けるのだろう。それは文次郎とは関係なく、こいつの性分の問題だ。
それを分かっているから、文次郎もバカタレ、と軽く言って笑った。

「四年の田村です。潮江先輩いらっしゃいますか?」

火薬の研究の片手間に文次郎と兵助の談笑にたまに混じっていると、三木ヱ門の声が聞こえた。
文次郎の返事を聞いて部屋に入ってきた三木ヱ門は、兵助がいたことに一瞬目を見開いた。そりゃあ、六年と五年が仲良くしているところなんてそうそう見ないから当然だろう。
その表情に気づいたのか、兵助は口元だけで笑って立ち上がった。

「帰るのか、久々知」
「ええ。委員会の話ならあまり聞かない方がいいでしょうし」
「真面目だなあ……。まあ、今回は助かった。また頼むぞ」
「いえ、こちらこそありがとうございました。立花先輩もお邪魔しました」
「ああ」

礼儀正しく去っていった兵助に、三木ヱ門は実習あたりの話だと解釈したようだ。兵助のことに言及することなく委員会の話を始めた。
四年にしてみれば、五年が六年の部屋に来て談笑したり、服を譲渡してもらったりするなんて思ってもみないのだろう。ましてや文次郎が兵助のことを名前で呼ぶ、なんて。

全く。これで無自覚なのだから酷な男だ。
……いや、分かっていて何も言わない私も大概酷なのかもしれないな。





――
アニメと原作で見て、文次郎が兵助を名前で呼ぶのは二人きりの時か六年がいる時だけだな、と思って。で、四年以下がいる前では苗字呼び。
これはもう、妄想するしかないな、と。
というわけで無自覚文次郎→←自覚はあるけど告げる気の無い兵助。
くっついたらくっついたでしんどくなるのは分かっているので発破をかけない仙蔵。
ついでに今更ながら私服ネタ&身長ネタを入れてみた。

長いこと放置してましたのでリハビリ中です。だからいつも以上に支離滅裂ですすみません!




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