久々知と五年

*ちょっと血の表現有り








風を切る音がした。
一瞬遅れてぱたぱたと血が舞い散る。
顔に、髪に、身体にかかるその血を拭いもしないで、
しなやかに、ひどくつめたく。
月の光を浴びて。
藍の衣は返り血で真っ赤に染まっていたけれども、
それでもなお、
うつくしいと思った。

「お見事」

揶揄ってみれば、ふと息をついて。
少しだけ困ったように笑って。

「なにしに来たんだよ」

なんて。

「いやあ、珍しくお前が前線に出たいっていうからみんな心配しててよ」

お迎え? と聞いてみたら、今度こそ軽く噴き出した。
赤に塗れた黒髪が揺れて月の光に煌めく。

「なんだそれ。総指揮殿も過保護だな」
「あいつは過保護だぞー、ことお前に関しては」
「馬鹿言え、相方には負ける」

そうは言うけれども、こんな大事な忍務であいつに司令塔を押し付けるなんてお前らしくないんだから。
誰だって心配になるよ。
今のお前の笑みを、あいつらに見せたいと思う程度には。

「なんかあった?」
「漠然としてるなあ。
そりゃあ、おれだってむしゃくしゃする時くらいあるとも」

ケラケラと笑う。
なあ、いくら拭ったって、その赤は消えやしないよ。
だってもう既にお前が真っ赤なんだもの。

「ん?」
「さすがに顔の血は落とさないと、下級生のトラウマになるぞ」
「はは、ギンギン鬼とどっちが怖いかな」
「どっこいどっこいだな」

そうか、と一言。
持っていた手拭いで拭ってやれば、ありがとう、と呟いた。
ちらちらと黒に赤が混じる。

「ほら、さっさとあいつらんとこ戻るぞ」
「うん」
「みんな心配してんだよ」
「うん」
「早くしねえと第二陣の迎えが来るからな」
「うん。……ふふ」

零れるような笑いに自分の顔が歪んでいたのは分かっていたけれども、なに、と訊いた。
そうしたら、こいつはひどく満足そうに。
うれしい。
おれっていがいとあいされてんだな。
なんてのたまうもんだから。

「いたっ」
「阿呆言ってろ、馬鹿」

どっちだよ、なんて抗議は聞き流して。
きっと帰ったら、あいつらにも怒られるんだろうけれど。
また、満足そうに笑うのだろう。
月の光に照らされた、
しびとのように、つめたくうつくしい笑みで。

「帰ろうか」

ああ、月が明るい。






――
たまにふらっとなんか嫌なこととかがあって危険な忍務で前線に出たがる久々知と、死ぬんじゃないかと心配になる五年。
大抵竹谷がお迎え係。

どんだけ人殺したって傷つけたって気持ちのもやもやは解決しなくて、結局帰ってからめっちゃ心配しつつ迎えてくれる仲間に救われるっていう。





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