かっこいい久々知が書きたかった

*流血、殺人、怪我描写
*書きたいところだけ散文






立花と七松、久々知は必死に山の中を駆けていた。
追ってくる敵の数は底知れず、増え続けているようにも思う。
三人はそれぞれ腕の中にいる怯えた様子の三年生を抱えなおす。
この子達だけは、守ってやらねば……!



三人は忍務の帰りだった。
五年と六年の組み合わせと言えど、三人とも成績優秀者として名高い。
少々の怪我はあるものの、比較的無事と言える状態で忍務を完遂した。
さて、あとは帰るだけ。と息をついたところで――七松が三年生の悲鳴を聞きつけた。
そこは最近、物騒な山賊が出ると噂になっていた場所。
五年の調べで、その山賊が元抜け忍の集団であるところまでは掴んでいた。
近々教師か上級生かで山賊退治をしなければならないなあと話していた、その場所だった。
三年生の悲鳴を聞きつけた七松の言葉に、立花と久々知もすぐに動いた。
七松の五感は自分達の中では一番鋭い。ならば、後輩の声を聞き違えるはずもない。
とはいっても、やはり元忍び。忍び込むのは骨が折れる。
加えて忍務帰りで、万全の状態とはいえない。
仕方ない、と三人は強硬策に出た。

その結果が、この現状である。



「しっかり捕まれよ、三之助!」
「は、はい!」
「藤内もだ。久々知、上げるぞ!」
「はい! 左門、頼むからちゃんと捕まっててくれよ」
「「はい!」」


七松の言葉に、立花と久々知も全力で続く。
とうに三人とも体力も肺も限界だ。
それでも、逃げなければ。
報いは三年生を帰してから、ゆっくりすればいいのだから。


「っ、やっぱり抜け忍なだけあるな……!」
「ほとんど変化なしか……」
「仙蔵、どうする。このまま帰るわけにも行かんだろう」


記憶が正しければ、今日は他の五年や六年もほとんど実習やらなんやらで学園にはいないはず。
そんな状態でこいつらをそのまま連れて帰ってしまえば、確実に下級生に魔の手がいく。
七松に問われ、立花は考える。
今ここでの最善の策。
後輩達を助けるためには、どの道が正しいのか。
答えは明白。


「久々知、三年生三人だ。持てるな」


自分達が残って足止めをすること。
しかし、立花は一つ忘れていた。
久々知……否、一つ下の学年の、頑固さを。


「いえ、私が残ります」
「――だめだ。力量がありすぎる」
「だからこそ。戦闘は私達の十八番ですよ」
「久々知……!」


息が上がりつつも飄々と返す久々知に、立花は眉を寄せる。
七松も険しい目を向けた。
だが、久々知も引き下がらない。
口の端を釣り上げる。


「失礼ですが、先輩方は私達のために死ぬ気ではありませんか」
「そ! んな、ことは……」


無いとは言い切れなかった。
後輩達のためになら死ねる、とは本気で思っていることだから。
無言になった立花に、久々知はふと人を安心させるような笑みを見せた。
それが、前の二人に届いていたかは分からないけれど。


「私は必ず生きて帰ります。――だから、」
「くくっ」
「せ、せんぱっ!」


左門を七松に放り投げた、と気づいた時には久々知の足は止まっていて。


「しばし、先輩方の背中を私に預けてください」


凛とした声が六年二人に届いた瞬間、眩い光と轟音が辺りを包んだ。
閃光玉。
立花と七松は目を見開いて、顔を見合わせて苦笑を零す。


「最初からこうするつもりだったんだろう」
「まったく、大したものだよあいつは」


背後から聞こえる金属音に、振り返りそうになる身体を叱咤して。
二人は三人の三年生を連れて駆け出した。


「先輩、久々知先輩は……!」
「あんな数、一人じゃ……!」
「も、戻ってください!」


腕の中で必死な声を出す三人の後輩に、二人の先輩はふと笑う。


「あいつは出来ない約束はしないよ」
「あいつが生きて帰ると言ったんだ。それなら大丈夫」


三年生は絶句した。
あまり、話しているのを見たことがない五年生と六年生だけど。
こんなにも、信頼しているのか。
そして。
忍びになるためには、こんな覚悟もしなくてはいけないのか。

六年生二人の腕は、震えていた。


「「任せたからな」」


それでも、前だけを見据えるその眼差しの、なんと強いことか。





***





一人残った久々知は、閃光玉で視界を奪われた者から的確に襲撃していった。
手の内はまだ使わない。
苦無で充分だ。


「貴様……!」


急所の場所なんて見なくてもわかる。
唸るように手を伸ばしてきた男の頸に一閃。
次に、心臓を一突き。
無駄に苦しめるのは、もう少し余裕が出てからでも構わないだろう。
三年生とはそんなに関わりがあるわけではないが、大切な後輩には変わりない。
三年生を怯えさせた罰は、しっかり受けて貰わねば。

苦無の柄で頭を殴る。
更に二人の男を葬ったところで、久々知はまずいな、と思考を切り替えた。
敵がそろそろ視力を取り戻し始めている。


「っく!」


突然――背後から打たれた八方手裏剣を避ける。
棒手裏剣を打ち返すと、一人に当たったようだ。
しかしそれで終わる筈もない。


「!」


木の上から、刀を振りかぶった男が下りてくる。
咄嗟に苦無で防ぐと、男はにたりと笑って次々に攻撃を仕掛けてきた。
速い。
だが、速さならこちらも負ける気は無い。
金属音を響かせながら、久々知は冷静に状況を見ていた。
男は刀の腕に随分と自信があるようで、少しずつでも久々知に怪我を負わせていることににたにたと笑っている。
それが、わざとだとは気づかない。


(……見えた!)


技を出した直後、男は一瞬だけ次の技を考える。
ほんの一秒にも満たない時間――だが、久々知には充分な時間だ。
久々知の得意は寸鉄。
一瞬の時間がどれだけ大きいか、身をもって知っている。

男が刀をななめに下ろす。
瞬間。


「ぐはっ!」


久々知が男の懐に入り込み、一気に心臓を突いた。
速すぎる攻撃に、周囲にいた忍び達は少し後ずさる。
声もなく崩れ落ちた男を容赦なく踏みつけ、久々知は口元だけで笑みを作った。

その両手には――寸鉄。


「っ!?」
「そろそろ本気で行く」


なにを、と言うよりも速く、久々知の寸鉄が頸を襲う。
その速さを以てしても、急所への攻撃は正確だ。
子どもと侮っていては殺される。
四分の一が絶命されてようやく、抜け忍たちは理解した。
こちらも本気でやらなければ。

ぎいん! と弾かれたのは棒手裏剣。
未だ潜んでいる敵が打ったものだ。
一体何人潜んでるんだ、と思いつつも冷静に焙烙火矢を投げ入れる。
間も置かずに響く爆発音に、数人の悲鳴が聞こえた。
益々目の前の男達の殺気が鋭くなる。
忍び鎌、猫手、手甲鉤、鉄扇、匕首。
持っているものの物騒さに、久々知は思わず嘆息する。


(暗器ばかり。……暗殺は得意ということか)


鎖を引いて、鎌を持つ男が久々知の腕を捉えようとする。
大げさなくらい後ろへ跳べば、猫手の男が久々知のいた場所に飛び降りた。
危ない、と息をつく間もなく。
背後の気配に身体をねじる。
がん、と鉄扇の重い音が間近で聞こえた。
その隙に、久々知は鉄扇の男の頸に勢いよく寸鉄を突く。


「――っ!」


息を失くした男の身体をそのまま掴み、背後にいた手甲鉤の男の盾にする。
肉を切り裂く音がしても、男を悼む者はここにはいない。
くるりと手の中の鉄を回して、一瞬だけ怯んだ男の胸へ一突き。
その勢いのまま背後にいた猫手の男に突き立てようとして……一瞬、久々知の息が止まった。


(油断した……!)


目の前でにたりと笑うのは匕首の男。
持っているのは千本。
それは奇しくも久々知の右肩、古傷のある場所へ刺さったのだった。

刺さったと気付いた瞬間、くらりと揺れる視界。
毒だ。


(あ……まずいかも)


久々知の頬に、冷や汗が伝った。





***





どうにか学園に着いた立花と七松は、呆然としている生徒も話を聞こうとする教師も無視して三年生を医務室に放り込むとそのまま踵を返そうとした。
しかし。
満身創痍で、顔面は蒼白。
彼らの同級生が許すはずがなかった。


「伊作! どけ!」
「頼むから行かせてくれ……!」
「こんな満身創痍で行かせるわけないだろ」


有無を言わせない善法寺の冷たい声に二人は一瞬怯むも、必死に考えを巡らせる。
早く行かなければ、久々知が危ない。
そんな二人の心境を知ってか知らずか、善法寺は淡々と治療の準備をする。


「君達と一緒だったのは……兵助か。あの子を迎えに行こうとしたんだね」
「分かっているなら行かせろ!」
「だめだ。……というか、今君達が行っても何もできないよ。そんな傷だらけで」
「「……!」」
「文次郎と、三郎と八左ヱ門が帰ってきてる。三人に迎えに行ってもらうよ。場所は?」


悔しいが、善法寺の言う通りだ。
こんな状態で向かったところで、久々知を守るどころか足手まといになる可能性もある。
久々知が一手に引き受けてくれたとはいえ、数人には追ってこられた。
なんとか振り切れたが、それだけでこの有様だ。
冷静に考えて、立花はぽつぽつと詳細を語る。
七松も不貞腐れたような表情になっていたが、何も言わなかった。


「……分かった。そういうことだから、三人とも頼むよ。救急道具は持って行ってね」
「……ああ」


とん、と天井裏から降りてきた潮江は、救急道具を持つとすぐに消えた。
同時に五年二人の気配も消える。
話しているうちに冷静さを取り戻した立花は、自分がとても焦っていたことにようやく気付いた。
三人の気配が学園から消えて、立花はほうと息を吐く。


「あの三人が行ったら大丈夫だよ」


からりと笑った善法寺の笑みに、とてつもなく安心した。





***





潮江、鉢屋、竹谷の三人は無言で久々知のいる場所へと駆けていた。
立花や七松との交戦の痕が予想以上に凄惨だったせいか、その足は普段よりも速い。
三年生三人を抱えていたとはいえ、実力者の二人があんなに傷だらけになる戦闘だ。
久々知の身がいかに危険な状態か、知りたくなくとも分かるというもの。


「っ……ひっでえな、これ」
「……臭いが、キツイな」


立花に教えられた久々知の居場所はどこもかしこも真っ赤に染まっていた。
もちろん血で、だ。
周りに転がる人の身体はどれも一か所しか大きな傷がなく、久々知の戦闘能力の高さと余裕のなさが伺えた。
しかし、この場に久々知はいない。


「久々知はどこだ……?」
「……ここにはいないっぽいっすね」
「でも、そう遠くには行ってない筈です」


頬に冷や汗が伝うのを感じながら、三人は手分けして久々知を探し始めた。
鉢合わせていないということは、近くにはいるはずだ。

案の定、少し離れた場所に久々知の姿はあった。
見つけた潮江は、一瞬ひやりとする。
返り血か自分の血か分からないほど真っ赤に染まった久々知は、大柄な身体の男の前で倒れていた。


「おい、久々知!」


竹谷と鉢屋に知らせる間も惜しく、潮江は顔色を変えて久々知に駆け寄る。
潮江に気づいたのか、久々知はゆらゆらと目を開けた。
生きている。


「久々知、よく頑張ったな。今手当てをするから」
「……お願い、します」


うつ伏せたまま、久々知は笑ってひらりと手を上げた。
余裕そうな表情に、潮江はほっと息を吐いた。









――
本当は短編のつもりで、もっと三年生の心情とか六年生の葛藤とか掘り下げたかったんだけど、書きたいところだけ書いて満足しちゃったのでこっちに。
戦闘はもっと勉強しないとなあ……アクション映画とか、見ようかな……。




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