56巻妄想裏話

*56巻ネタ、読んでない人に優しくない
*もし兵助が騒動の目的を知って動いていたら
*火薬委員長になるためのトンデモ設定
*五年CDの「火薬委員会の委員長代理になるって凄い(要約)」を妄想
*書きたいところだけ散文のくせに無駄に長い







五年生が火薬委員会の委員長代理になるのは難しい。
そう常々言われてきた。
それは責任の重さであるとか、扱うものの危険性であるとか、そういうのも勿論あろう。
しかし一番の難関は、火薬免許の取得だった。

火薬免許試験は火器を得意とする生徒が受けるものだと思われているが、実は腕試しとしてほとんどの生徒が参加する。
しかし、ふるいにかけられた後の筆記試験はともかく全員が参加する実技試験の試験監督は顧問のみでは足りない。
故に、常から人手の足りない火薬委員は全員試験監督に回らなければならないのだ。
それは免許を取得したい委員も同じ。
では火薬委員が免許を取得する時はどうするのか。

試験と監督を両立させるのである。

すなわち。
大きな事故が起こらないように見回りながら、免許を持つに相応しい生徒か見極めながら、失格の生徒を回収しながら、自分も試験を受けるのだ。
必要とされるのは火薬の知識だけではなく、全体を見る視野の広さと空間把握能力、咄嗟の正しい判断力、そして人の技量を見抜く力。
どれも火薬を扱う上で――扱わせる上で、必要なもの。
一つでも欠けていれば、自分が渡した火薬で事故が起きる。

四年生や五年生はまだ、それができる生徒が少ない。
四年生はまだまだ自分本位で物事を考えるところがあるし、五年生は人によるが全てが揃っているとなると難しい。
例えば三郎は雷蔵が絡むと周りが見えなくなる傾向があるし、勘右衛門も自分が楽しめることに比重を置きがちだ。
いくらリーダーの素質があっても、信頼できる人徳があっても、その力がなければ火薬委員会の委員長にはなれない。
だからこそ歴代の委員長は六年生しかいなかったし、五年生がいても免許を取得できるまでは他の委員会の委員長が兼任していた。
その鉄則を蹴破ったのが兵助だった。
「ギリギリ五年生が超頑張って取れる」と言われた火薬委員の火薬免許試験を、四年生の終わりごろに取得したのである。
説明を付けるならば、当時火薬委員会には兵助以外に一年生の三郎次と、ほとんど委員会に来ない兼任委員長の三人しかいなかった。
自然と火薬を扱わせる上で必要な力が身に着いたのだろう。
既に若干ふうん……いや、苦労性な兵助である。





さて、そんな経緯があって兵助は現在火薬委員会の委員長代理という地位に納まっている。
元来の真面目な性格から教師や上級生の信頼は厚く、後輩からも慕われている。
だからだろうか、どうしても損な役回りになってしまうのは。


「火薬免許試験でカンニングをさせなさい!」


長期休みに入る前の話。
もうすぐ休みだということで、どの学年も帰る準備に大忙しだ。
帰る予定のない兵助はまったり火薬委員会の帳簿を付けていたのだが、突然学園長の庵に呼び出されて。
言われた第一声がそれである。


「はあ……? カンニングですか……?」


困惑しながらも周囲に座る教師陣の様子を盗み見た。
大抵の教師が苦笑しており、自身の顧問はまた胃を押さえて呻いている。
あー、また思い付きだわこれ。


「……しかし、どうしてそれを私に? 私は火薬委員長代理として試験監督を務めなければならないのですが」


学園長の思い付きは今に始まったことではない。
いくら教師陣が文句を言っても聞かないし、結局どんなものも決行されることは充分理解していた。
だからこそ、詰められるところは詰めておかねば損をするのは自分達。


「うむ。実はさっき土井先生と安藤先生が考えた作戦があってのう」


はた迷惑な老人から作戦を聞かされた兵助は乾いた笑いしか出てこないのであった。
本当は兵助にも伝えずに決行しようとしていたようだが、思いついてしまったらしい。
やっばい超めんどくさい。



学園長の迷惑な思い付きによって火薬委員会が割を食うことは意外と多い。
全学年オリエンテーリングや委員会ごとに指令を与えられるような遠足ならまだいい。
しかし文化祭の時や委員長改選の時のように敵忍者が学園に忍び込んでくることになると、火薬委員会はまず焔硝蔵のカモフラージュをしなければならなくなる。
火薬を別の場所に移動したり、焔硝蔵の臭いを消したりと大変なのだ。
これがまた、他の生徒が気づかない上に見下してくるものだから腹が立つ。
うるせえ豆腐のなにが悪い。食べ物じゃないと臭い消せねえだろうが。


「……ていうか、他の生徒にも委員にも悟られないようにって大変すぎる……」
「すまん、兵助……私も他の先生方も協力するから……!」
「ああいえ……先生が気に病むことでは……」


再び土井の部屋に戻った顧問と委員長代理は同じように頭を抱えていた。
毎度のことながら無茶苦茶すぎるあの狸爺。
胃を押さえる土井を宥めつつ、兵助はこれからのことを考えて溜息をつく。
思い出したように「他の生徒及び委員にもバレんようにのう」とウインク付きで言われた時は本気で寸鉄を取り出しそうになった。
あの時全力で力を抑え込んだ自分をほめてやりたい。


「……とりあえず試験までは時間もあるし、悟られないようにな。五年生も六年生も妙に鼻が利くから」
「……分かってます。頑張ります……」


とはいっても、兵助も五年生。
実はあんまり心配していない土井である。

ここまでが、長期休みに入る前の話。





*****





あと二日で新学期。
実家に帰っていた生徒達も続々と帰園してきている。
学園に残って鍛錬や自主練に勤しんでいた五年六年は、やっぱり変わらず鍛錬や自主練に勤しんでいるが。
でもその最中に山賊の隠れ家を見つけたらしい。学園長に報告したところ「暫く放置」とのことだったので、また何かイベントに使うんだろうなあと思っていた。


「山賊を使って火薬免許試験をする!? しかも下級生のみ!?」
「っというか会計と火薬の統合ってどういうことですか!?」


朝っぱらから学園長の庵に呼び出された兵助と文次郎は予想もしていなかったことに思わず声を張り上げた。
この時期だし、山賊退治でもさせるのか……と話していた矢先である。
兵助はカンニングの件だろうと思っていたものの、下級生のみ参加とはこれ如何に。


「落ち着け。火薬免許試験は下級生のみとするが、上級生にも救助班として参加してもらうつもりじゃ」
「当たり前でしょうが!」
「それから、会計と火薬の統合の件じゃが……」


学園長がちらりと背後に視線をやると、控えていた安藤がにたりと笑って進み出てきた。


「ほら、火薬委員会は在庫確認ぐらいしか仕事がないでしょう? なんせ、『そんなことでいいんかい』ですから。それに高価なものを扱うので会計委員会が面倒を見るのが妥当だということになりましてねえ」


厭味ったらしく言う安藤に、兵助が俯いた。途端に感じるどす黒いオーラに文次郎は顔を引きつらせる。
嫌だめちゃくちゃ怒っとるこの子。


「――…………あ゛?」


安藤もさすが学園の教師だということだろう。
演技だと分かっている兵助をここまで怒らせることが出来るのだから。
隣で狼狽えている文次郎が哀れだが。


「というわけじゃから、火薬委員は今すぐ火薬免許試験の準備をするように!」


えええこの状態で追い出すの!? という顔の文次郎を華麗に無視して、学園長はにんまりと笑った。
その笑みがどういう意味だったのか、知るのはもう少し先の話。


「久々知……その、安藤先生のこと、真に受けるなよ……?」


庵を出てから終始無言の兵助に、文次郎が声をかける。
あれだけ言われれば兵助が怒るのも無理はないが、正直この重い空気を早くどうにかしたい。
俯いたままぶつぶつ言ってる兵助マジ怖い。呪詛でも吐いてんだろうか。


「……ああ、すみません、大丈夫ですよ潮江先輩」


先輩に気を遣われていると気付いたのか、ようやく兵助が顔を上げた。
そこにはいつもと変わらない微笑みがあって、文次郎もほっと息をつく。


「それなら良かっ」
「暗殺は私の十八番ですから」
「待て待て待て全然大丈夫じゃねえ!!」


安藤先生がやられる!
綺麗な笑顔のまま目がマジになっている後輩を本気で止めつつ、火薬と統合とか絶対嫌だ、と思う文次郎であった。




***




「というわけで、明日火薬免許試験を行うことになったから」
「うわ……安藤先生め……」
「相変わらずムカつきますね……」
「ねえ、どうしてもやらないといけないの?」
「俺としても不本意だが、試験を言い出したのは学園長先生だからな。土井先生がまだ来ていない以上は学園長先生に反論できない」


事の次第を説明した兵助は、揃って嫌そうに顔を歪める後輩達に苦笑する。
きっちり安藤の言葉まで伝えるあたり、怒りは収まっていないらしい。
恐ろしい子である。


「でも、下級生のみって初めてですよね。乱太郎達とか、絶対参加したがる……」
「ああ、確かにね。守一郎は残念がるだろうなあ」
「……」
「どうした、三郎次」


苦笑しつつ同級の友人を思い浮かべるは組コンビに対して、無言になった三郎次。
兵助が見つめると、思い切ったように顔を上げた。


「久々知先輩。今回の試験、火薬委員として納得がいきません。参加するフリをして調べてきます」


向けられた真剣な瞳。
ああ、しっかりした子が集まる委員会とは言われているけれど、ここまで頼もしく育ってくれたとは。
一年生と四年生だった時代から自分を支えてきてくれた右腕に、兵助は優しく目を細めた。


「ああ、俺もお前達に頼もうと思っていたんだ。今回三郎次と伊助は試験監督ではなく、普通に試験に参加してもらいたい」
「え!」
「いいんですか?」
「うん、今回は上級生が救助班として見守っててくれるから大丈夫。下級生ならそんなに無茶もしないだろうしな」


いつもなら、火薬免許試験は上級生しか受けることができない。
試験といえど、いや、試験だからなのか、上級生ばかりだと真面目に受ける生徒はほぼ皆無なわけで。
火薬委員は毎回卑怯な手で合格しようとする生徒に手を焼かされるのだ。
勿論、そういう生徒は問答無用で失格にするのだけど。
今回は下級生ばかりなので、みんな真面目に受けてくれるだろう。


「とりあえず三郎次は普通に参加して調査、伊助は、は組の子達を誘導して全員参加してくれるように仕向けてほしい」
「はい」
「え、は組全員ですか? まあ頼めば参加してくれると思いますが……」
「人数が多い方が調査のカモフラージュになるだろう。俺とタカ丸は試験監督をしながら調査にあたるから」
「なるほど」
「はあい」


これでなんとかなるだろうか、と兵助は内心溜息をつく。
下級生のみとなると、実技試験は自分がなんとか手助けして合格させてやらねばなるまい。
ていうか誰を合格させればいいんだ。わからん。


「よし、じゃあ俺とタカ丸は試験の準備をしてくるから。今日はこれで解散」
「「はい!」」


長屋へ戻る後輩達の背を見送って、兵助とタカ丸は準備を始める。
タカ丸も免許試験の経験は二度ほど経験しているので、硝石の重さにひいひい言いつつも文句は言わない。
この人も成長したなあ、と思う。
今回の騒動が片付けば、そろそろタカ丸に火薬免許試験の勉強をさせてもいいかもしれない。


「潮江先輩」


学園長の指示通り硝石を山賊の隠れ家に隠しに行ったあと、兵助とタカ丸は六年長屋へ向かった。
上級生が揃っているだろう、と読んでのことだ。


「久々知、準備は終わったのか」
「ええ、なんとか」
「お疲れ様です。タカ丸さんも」
「うん、ありがとう三木ヱ門」


文次郎と三木ヱ門を中心に作戦を練っていたらしい。守一郎はまだ来ていないのかいなかった。
会計の二人を筆頭に、他の面々も兵助とタカ丸に声をかける。
全員、会計と火薬が統合されるという話には反対のようだ。
火薬が絶対予算会議有利になるから、という理由は聞き流しておく。


「さて、じゃあ両方の委員会が揃ったところで本格的に明日の打ち合わせを始めるぞ」
「ああ、火薬は明日どこまで動けるんだ?」
「……今までの試験と同じように、あくまでも試験監督として動きます。だから救助班には数えないで頂けると助かります」
「分かった」
「なら火薬は抜かして……隠れ家の見取り図は分かるか?」
「あ、はい。今行ってきたところなんで」
「入念に調べてきましたよ〜」
「さすがだな」


そうして着々と明日の打ち合わせは進む。
これだけみんな協力的ならなんとかなりそうだ。
とはいえ明日、手助けのために動かなければならないのは自分のみ。
頑張ろう。


「兵助、あんまり思いつめるなよ? 統合される話は火薬の活動に問題があったわけじゃないんだから」
「え……あ、うん。ありがとう勘右衛門」


知らず知らず憂い顔になっていたようだ。
勘右衛門の言葉に顔を上げれば、全員がどこか心配そうに兵助を見つめていた。


「あ……っと、すみません。私は大丈夫なんで話の続きを……」
「潮江先輩から、安藤先生に言われたことを聞きました。……同じ火薬を扱う者として、火薬委員会を軽視する安藤先生を私は許せません」
「三木ヱ門……」
「絶対に火薬と会計の統合はさせん。顧問が自分の委員会を軽視するなんて考えられんしな」
「……立花先輩」
「兵助、みんな味方だ。お前だけが思いつめる必要はないんだよ」


なんだか泣きたくなった。
こんなに火薬委員会が大切にされていたことが嬉しくて。
ここまで協力してくれているのに、本当のことを言えないのが申し訳なくて。
なんか安藤先生にも申し訳ない。

……というかこれ、バレたあと俺、殺されないよね? 主に先輩達に。立花先輩あたりが洒落にならないんだけど。
なんて不安もありつつ、優しい空気に癒されつつ。





***





さて、試験当日です。
ようやくやってきた土井に事の次第を告げ、準備のために用具庫へ。


「久々知くん、これって三年生の制服じゃん? どうすんの?」
「着る。土井先生のために」
「えっと……話がよく見えないんだけど……」


今朝伊助から、まだ来ていない乱きりしん以外の試験参加が決定したと知らされた。
合格して安藤先生の鼻を明かしてやる、と意気込んでいたことも。
そこで。
今回はは組の誰かに合格させて、安藤先生に火薬委員会の顧問になることを自分から諦めて貰うという作戦でいくことにした。
日向先生曰くろ組も参加するらしいので彼らにも協力してもらう。
三郎次と上級生にも今回の作戦は伝えた。うまく動いてくれるはずだ。


「つまり、は組の誰かを合格させれば土井先生は帰ってくるってこと? そのために久々知くんが手助けをするってこと? 試験監督しながら?」
「そういうことです。ちなみに三年の制服はカモフラージュな。五年の制服だとすぐ先生方にバレそうだし」
「なるほどねえ。おれはいいの?」
「いいよ。基本は俺が動くし」


なんて、他の上級生へのカモフラージュも兼ねているのだが。
まあ五年と四年よりは四年と三年が一緒にいる方が自然だろう。どの委員会にも四年と三年いるし。
これも一種の変装だ。


「あ、でも土井先生には内緒な。また胃を痛められても困る」
「あはは、了解っ」


嘘だけど。ごめんタカ丸。
袂に制服を隠しつつ、は組の教室へ向かう。
途中で合流した土井には現状を矢羽音で伝えておく。勿論タカ丸にはバレていない。


『あとは頼むよ』
『はい、任せてください』
『私と山田先生もは組を追うから』
『分かりました』


教師との矢羽音は少々特殊な音のため、六年生にも矢羽音とバレない優れものだ。
こういうことを学べるのは、巻き込まれて良かったかなあと思う。
次の実習で生かせるし。


「さて、それじゃあ行きますか」


庄左ヱ門の作戦に乗ることにした。
上級生に伝える暇はなかったが、まあ見ていれば分かるだろう。
利梵くんに期待、だ。


『食満が制服の予備がないことに気づいている。注意するように』
『分かりました、ありがとうございます』


危ない危ない。





「ねえ久々知くん」
「うん?」
「……あれって、昨日おれらが必死で運んだ硝石だよね?」
「…………やっぱそう見える?」


藤内が山賊に襲われかけた時、どこからか硝石が飛んできた。
小平太のアタックを受けてもヒビ一つ入らないあの壺はまさしくうちのもの。
もっと言えば、昨日自分達が隠した「山賊の宝物」である。
結果的に藤内は助かったし、仙蔵と小平太が喧嘩の芝居を始めてくれたので利梵のいる班が潜入できたから良かったといえば良かったのだが、高価なものなのでもう少し丁寧に扱ってほしい。


「……しょうがない、他の硝石も移動させよう。タカ丸さんはあれ回収しといて」
「え、でもいいの? 試験監督が勝手に場所なんて変えて」
「手助けしようとしてる時点でアウトだろ。今更だよ」
「あー、それもそうか」


てなわけで、教師達の手を借りつつなんとか他の生徒にバレないように硝石の回収に成功した。
あとは見つけやすい場所に置いておけばいいだろう。


「しかし、利梵くんって優秀だよなあ」
「ほんとだよね。九歳には見えないよ」
「お前にもあれだけの理解力があればなあ」
「……自分でもそう思った」
「え、やだなあ冗談だよ? タカ丸さん頑張ってるの知ってるし、俺」
「兵助くん……!」
「あ、乱太郎助けに行ってくる」
「ちょお!」


なんとかは組チームにもバレることなく、手助けは着々と成功中。
先輩達もちゃんとは組を合格させるように動いてくれているようだ。
兵助も秘密裏に動くことに慣れて来たのか、割と堂々と動くようになった。
開き直りとも言う。


「あー、三郎次くんも失格になっちゃったね」
「まあでもよくやったよ。まさかは組に石投げられて失格になるとは思わんかっただろうけど」
「おれらも想定外だしね」


三郎次、は組を勝たせるためにわざと山賊を引きつけたな……。
本当良い子に育ってくれて! 感動で涙が出そうだ。
いろんな人の協力を経て、うまいこと利梵くんチームは進んで行く。


『怪士丸チームが山賊の親玉を倒した。あとは今利梵くんが戦ってる奴だけだ』
『了解です。硝石を移動してきます』
『乱きりしんが見つける方が安藤先生もやりやすいだろう。頼んだぞ』
『分かりました』


乱太郎、きり丸、しんべヱの居場所は先生達によって分かっている。
最後の仕上げといきますか。





乱太郎、きり丸、しんべヱが「山賊の宝物」を無事に見つけ、それが教師陣に伝わったあと。
ついでに兵助も六年生にバレた。


「手助けするなら言ってくれればよかったものを」
「いや、時間なかったんで……でも筆記試験は手伝ってくれると助かります」
「当然だ。どうせなら全力でやるぞ」


怒るでもなく、むしろ楽しそうな仙蔵にほっとする。
今のところ先生達の演技も兵助の演技もバレていない。
あとは乱太郎達にカンニングを教え込むだけ。


「取り敢えず四年、文次郎、伊作、小平太は時間稼ぎの罠を作れ。兵太夫と三治郎にも手伝ってもらえ。八左ヱ門は安藤先生の部屋に忍び込んで問題の回収。留三郎はカンニング道具の作成。他の五年はちょっとこっちこい」


仙蔵の采配により、さくさくと上級生が動き出す。
やっぱり一人でやるより断然楽だ。
ていうか俺何回つんつるてんの制服着させられるんだ、なんて内心ツッコミながら、兵助も準備にあたる。


「久々知、ちょっとでも試験問題って分かんねえ?」
「さすがに安藤先生の出題傾向までは分からないです」
「んじゃあ土井先生でもいいや、これは絶対はずせない問題とか」
「……それならいくつかありますが」
「それ教えてくれ」


留三郎に手伝わされているのはカンニング道具。
といってもひたすら机にがりがりと答えを書いていくだけだが。
妙に凝り性だもんなあ食満先輩。


「兵助、変装するぞー」
「あーはいはい、じゃあ食満先輩、あとでまた手伝うんで」
「おお、サンキュー」
「兵助はきり丸な」
「あ、そうなの。雷蔵と勘右衛門は?」


兵助と三郎が出ていくと、留三郎はそっと兵助が書いていた机を覗き込む。
書かれているものは当然火薬の知識だが、量と深さはやはり留三郎のよりも凄い。
さすが火薬委員会委員長代理だ。


「それにしても安藤先生、これは早すぎだろう……」
「そうなの?」
「これ、四年で習う問題。うちの委員会の子達ならともかく……」
「安藤先生ってば、ほんとにい組の子達に試験受からせようとしてたんだねえ」


斜堂の書いたメモを覗き込んで話し合う大きな乱太郎きり丸しんべヱ、もとい勘右衛門兵助雷蔵。
大きさ以外は完璧だ。さすが変態……じゃない、変装名人。
メモを見つつ、留三郎の元へ。


「ふむ……じゃあ今度はこっちの書き込みを手伝ってくれ」
「…………え、なんですかこれ」
「え、屏風だけど」
「「食満先輩パねえ!」」


屏風って即興で作れるもんだっけ。
用具委員長すごい。それだけいつも作ったり直したりしてるってことなんだろうか。


「一応絵柄はこんな感じだからこれに沿って……」
「うわあ……」
「もうこのままメモの内容写しちゃっていいんじゃない?」
「そうだね、時間もないし」


絶対カンニングの準備をするよりも勉強した方が楽だ。
カンニングさせるより火薬委員会で火薬講座開いた方が合格率上がるんじゃないか。
なんて元も子もないことは考えないようにして、どうにかこうにか三郎も巻き込んで五人がかりで屏風を作り上げた。
疲れた。


「安藤先生が来られます!」
「我々は隠れよう。乱太郎、きり丸、しんべヱ、スタンバイだ」


仙蔵の指示通り部屋で待機する三人。
ようやく兵助の仕事も終わる。


『兵助、土井先生が部屋で待機しているので試験監督を』
『分かりました。安藤先生、お疲れ様でした』
『君もよくやってくれました。さすが火薬委員長代理ですね』


退散する時にかけられた言葉に思わず笑いそうになる。
散々いろいろ言われているけれど、安藤だってこの学園の教師。
この学園の先生が、生徒の頑張りを見ていないはずがないのだ。





さて。こうして無事にカンニングの騒動は幕を下ろしたわけだが。
今回一番の功労者は、というと。


「さあ久々知、今回の件の詳しい話を聞かせて貰おうか?」


上級生による尋問を受けていた。


「……えーと、詳しい話と言われましても……」
「そうだな、では質問を変えよう。お前は最初から知っていたな?」
「…………」


無言は肯定。
逃げようにも、前にも後ろにも鬼がいるため逃げられない。


「……どこから芝居だ? 先生に話を聞いたのはいつだ?」
「……休みに入る前に学園長先生に呼び出されて、火薬免許試験でカンニングをさせるように仰せつかりました」
「最初から芝居か……」


もうこうなったら自棄だ、全部話してしまおう。
追い詰められたら開き直るに限る。
騒動が終わってからもバレてはいけないとは言われていないし、何を話しても構わんだろう。


「俺と呼び出された時は?」
「あれは素です。まあカンニングの件だろうとは思っていましたが、安藤先生にムカついたのは本当です」
「ムカついたってレベルじゃなかったが……」


殺意わいてなかったっけ。
むちゃくちゃ怖かったけど。


「あとはまあ見ての通りというか……先生方に協力してもらいながら、は組の子達を合格させるように動き回ってました」
「……なるほどな」
「じゃあ先輩が思いつめたような顔をしていたのは、この件がうまくいくか分からなかったからですか……」
「……まあ、うん。あの時は申し訳なかったなあと思ってます。……ちょっと嬉しかったけど」


ぼそりと呟かれた言葉に思わず苦笑する。
兵助が一枚噛んでいたという事実に気づいた時はやるせなさというか、どうしようもなくもやもやした思いを抱えたものだが。
この一言で仕方ないなあ、と思ってしまうあたり、自分達はこの豆腐小僧にだいぶ絆されているのだろう。


「……まあ、大体のことは分かった」


溜息をついた仙蔵は、にやりと兵助を見る。


「それで、久々知。教師達と手を組んで、何も学ばなかった……なんてことはあるまいな?」


言外になにを学んだのか聞かせろ、という仙蔵に、兵助も同じようににやりと笑った。


「次の実習まで、楽しみにしていてください」








――
相変わらず落ちが見つからない罠。


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