委員長改選編、委員長たちの話

*委員長改選ネタ
*裏話妄想




委員長改選では見事に六年がバラバラになり、五年の委員長は久々知と鉢屋だけになってしまった。
まあ学級委員長委員会は改選にすら参加しなかったので、籤の結果も学園長先生の差し金だろうというのが六年の見解だ。
六年が全員別の委員会になったので、では変わらなかった久々知及び五年の意見も聞いておこうか、となるのは自然な話。
早めの方がよかろう、と夕飯のあとに会議を取り決めた。

「……なんか、皆さんお疲れですね」

会議室に入ってきた六年を見て開口一番そう言った久々知は、全員分の茶を淹れながら苦笑した。当然だが竹谷の姿はない。
一人で準備をさせてしまったかと申し訳ないと思うのは長次と伊作くらいのもので、他の六年は慣れない業務とあまり関わりのなかった後輩の指導で全員が全員疲れてしまっている。
労わってくれる久々知にそれぞれが微妙な表情を浮かべていると、仙蔵が不機嫌そうにどかっと腰を下ろした。

「思っていたよりも委員会の仕事がキツイ」
「ああ……でも、八左ヱ門は喜んでましたよ。やっぱり六年生がいるといいなあって」
「……そ、そうか」
「仙蔵が嬉しそうだ」
「ああ見えて後輩大好きだからなあ」
「うるさいぞお前達」

仙蔵がひそひそと話す小平太と留三郎を軽く睨む。しかし顔が赤いのでいつもよりも鋭さはない。

「久々知、雷蔵はなにか言っていたか?」
「え、ら、雷蔵ですか? えー、えーと、……あ、元気な方だなあって言ってました」
「そうか!」
「それでいいのか小平太……」
「文次郎、久々知が必死に考えて捻り出した褒め言葉だぞ、突っ込んでやるな」
「分かってるなら、黙ってて、貰えませんか……!」
「おっと、これは失礼」

図書委員会に異動になった小平太のせいで、図書室が混乱中だということは全員が知っている。
長次はこっそり、雷蔵は大丈夫だろうかと一つ下の後輩を思う。同室の友人のせいで随分苦労をさせてしまっているようだ。

「でも、やっぱり六年生がいた委員会の後輩たちはほとんど自分の委員長を心配していましたね。新しい委員長が嫌なわけではないらしいですが」
「なんだ、もうそこまで調べたのか。相変わらず五年は仕事が早いな」
「まあうちと学級はいつもと変わらんのでそれくらいしかすることなかったんですよ」

お茶請けの高級そうな和菓子を上品に食べながら、久々知はのほほんと笑う。
その言葉に、仙蔵の目が光った。

「久々知、今回の件……どう見ている?」

一瞬にして張り詰めた空気が漂う会議室と、六年生。
先輩たちがこうでは萎縮しそうなものだが、久々知はその様子を一切見せない。

「――五年生の見解ですが、」

そして、いつものように背筋の伸びた綺麗な姿勢で続ける。

「食満先輩と中在家先輩はご存知かと思いますが、先日学園で『トカゲ』を購入しました」
「『トカゲ』?」
「……南蛮の石火矢で……本来の名前はバシリスクという……」
「南蛮の言葉で『トカゲ』。だから俺らの間ではそう呼んでる」
「なるほど。で、それが?」

長次と留三郎の説明で頷いた四人は、久々知に話の続きを促す。
ちなみに、なぜ現用具委員長の長次と元用具委員長の留三郎だけでなく久々知まで知っているのかというと、火薬委員長代理として『トカゲ』に使用する火薬の量を知っておかなければならないからだ。

「そのことが、三郎――いや、小松田さんのせいで、今現在各敵忍者隊に知れ渡っています」
「……は、」
「「はあ!?」」

長次以外の全員の大声にも、久々知は予期していたように耳をふさぐ。
三郎、と一瞬言いかけたのはわざとだろう。
つまり今回のことは小松田さんのドジではない。

「ほんと……学園長先生ってば突拍子もないね……」
「まあ、それはいつものことだ。それで?」
「わざわざ『騒動の夜』を起こさせて、侵入しやすくして……」
「目的は?」

仙蔵、文次郎、留三郎の問いに、久々知は笑みを絶やさないまま答える。

「新学期の前に、乱太郎、きり丸、しんべヱ、そして雷蔵が補習を受けたことはご存知ですよね?」
「ああ……」
「『豆を移す習い』の補習だったっけ?」
「はい。それが失敗したらしく」
「……なるほど」
「まあそういうことです。それに加えて、虎若が頬を腫らして登校してきたでしょう」
「……まさか、さぶ……小松田さんは、照星さんも呼んだのか?」
「いえ、こちらはちゃんと勘右衛門が。でもまあ、照星さんを呼んだということは撃たせるんじゃないですか? 実弾ではなさそうですが」
「……顔の怪我で父親と喧嘩したと言っていたからな、まあそうなんだろ」

文次郎の言葉に各々が納得した。
おそらく、侵入してくる敵忍者を使って一年は組に『豆を移す習い』をさせるのだろう。
加えて、虎若には狙撃手としてなぜ顔に怪我をしてはいけないのか、その答えを。
虎若のこと以外は、六年生の出した結論と同じだった。

「では」

なるほど、と納得しかけた空気が再び張り詰める。
仙蔵に鋭い目で見られても、久々知は身じろぎひとつしない。
後輩の肝の座りっぷりに、誰かが笑った。

「お前の見解を聞かせて貰おうか、久々知?」

口に出さずとも、全員が理解していた。
久々知は、他の五年生とは違う結論に辿り着いている。

「私の見解ですか」
「ああ。最初の私の問いに、お前はわざわざ『五年生の見解』と言い置いた。お前が納得している結論ならば、お前は『私達の見解』と言うはず」
「……そして、結論が一年は組のことだけならば、お前はこの場で補習を受けた面子にわざわざ雷蔵の名前を出さない」
「しかも、強調までしていた……お前の結論には、雷蔵が関係している、ということだ……」

澱みなく語られる推理に、久々知は愉快げに苦笑した。
まさかそこまで自分のことを理解していたとは、さすが六年生。

「あはは、さっすが先輩方!」
「お前な、いっつも回りくどい言い方すんじゃねえよ。伊作とか小平太とか時々ついてこれてねえんだよ」
「だって楽しいんですもん」
「正直、僕にはその言葉遊びのなにが楽しいのか分からないよ……」
「おや、私達は結構愉しいぞ? なあ文次郎、長次」
「まあ。鍛錬にもなるし」
「……もそ」
「頭がいいやつの発想って分からんな!」

さっきまでの張り詰めた空気はどこへやら、楽しそうな久々知にふっと空気が軽くなる。
含みのある言い方をしておきながら単に遊んでいただけの久々知に、何人かが苦笑した。

「はあ……ったく、で? 雷蔵がなんだって?」
「あー、えっと、『トカゲ』の話に戻るんですが」
「『トカゲ』は関係してんのか」
「はい、実は先程、学園長先生に『トカゲ』に使用する火薬を用意しておけと仰せつかりまして」
「……撃つのか?」
「ええ、おそらく」

火薬委員会は六年生がいない。
いないが、扱うものは危険だ。
久々知が頼りないということはないが、どうしても生徒のみに任せるわけにはいかないので、他の委員会より教師と関わることが多い。
故に。
時として、生徒たちから情報を仕入れる図書や保健よりも正確な情報を持っている。
今回のように火薬を使用する場合は火薬委員会が準備にあたるので、周囲の城の戦況や忍務・実習の情報は学級委員長委員会よりも詳しいのだ。
ちなみに、学級委員長委員会はどちらかというと教師・生徒の情報に強い。

「撃つことを前提として考えると、『豆を移す習い』をしている一年は組には撃たせない。唯一可能性のある虎若も、今回は火縄銃か短筒を使うかと。
では、他に撃つ可能性があるのは」
「もう一人、補習を受けた雷蔵。ということか?」
「……そういうことです」

セリフを遮って結論を言った仙蔵に苦笑しつつ、久々知は頷いた。

「まあどうなってそうなるかは分かりませんが、悩み癖を治す補習だったらしいのでその辺絡めてくるんじゃないですかねえ」
「……なるほど。では今回我々は、騒動を起こしつつは組と雷蔵をうまく誘導すればいいのだな」
「小平太、雷蔵をうまく図書室から出せよ」
「ああ、分かった」
「今回は曲者とは戦えないのか……残念だ」
「まあ、後輩のためだし仕方ないよ」
「用具委員会は後で本当の目的を聞かされるかもしれませんけどね」
「……知らぬ振りは得意だ」

今回の学園長の目的が把握できたため、あとは自分たちの動きや仕事などの細々とした話に入る。
こうして推測して動くことも、忍にとっては大切なことだ。
それを共有することも。
どんなに実力があっても、個人プレーでは守れるものも守れない。

「……あ、すみません。委員会の仕事が……。部屋、そのままにしておいてくだされば、後で片付けますので」
「ああ、いいよいいよ片付けくらいやるって! 準備は一人でしてくれたんだろ?」
「……それくらいはする。大変だろう」

唐突に顔を上げた久々知は、伊作と長次の言葉に少し考えて申し訳なさげに頭を下げた。

「すみません、ではお願いしてもよろしいでしょうか」
「もちろん!」
「……任せておけ」
「ありがとうございます……では、すみませんがお先に失礼させていただきます」

砕ける時は砕けるが、基本は口調も所作も丁寧。
どこかの変装名人とは違い礼儀を弁えている久々知のそういうところが、六年生には好印象だった。
優等生らしく音もなく去った久々知に、六年生は感嘆の声を上げる。

「あいつ、会う度に優秀になっていってる気がする」
「火薬委員だからってこともあるんだろうが……さっきの推測といい、さすがだなあ」
「委員会の仕事というのも、おそらく焔硝蔵の場所を知られないための作業だろ?」
「ああ、そういえば学園祭の時もカモフラージュしてたね」
「……それも仕事だからな」
「にしても、あの分析力……うちに欲しいくらいだ」

文次郎の言葉に全員が一瞬黙り込んで、確かに、と頷いた。
よくよく考えればあいつ、結構ハイスペックだ。ハイスペック豆腐だ。
火薬委員に六年生がいたら勧誘していたくらいである。

「ま、そんなことを言っても久々知は火薬委員長代理だ。さっさと会議を終わらせよう、早くしないと後輩達が呼びに来る」

鶴の一声ならぬ仙蔵の一声で、六年生は再び会議に戻った。



さて数刻後、学園長の目的は久々知の推測通りだったと六年生が困惑する後輩の隣でほくそ笑む姿は、教師達だけが見ていた。
鐘楼の修理を任された用具委員会は大変だが、まあこれでやっと自分の委員会に戻れる、と全員が安堵していた、のだが。





「何故だ、何故自分の委員会に戻れん」
「あ、あははは……」

再び委員長会議を開いた六年生たちはとてつもなく不機嫌で、久々知は乾いた笑いしか出てこない。

「まあ、まだなにかあるのではないですか?」
「お前達の方で何か入っていないのか」
「今のところは。先輩方の方こそ、委員長が変わった委員会は顧問も一緒に委員会活動中だと聞いてますが」

暗に何か聞き出してないのかと言う久々知に、六年生は苦笑い。

「それがなあ……全っ然だめだ」
「ことごとくスルーされる」
「さらっと話題変えられるくらいならまだいいよ、僕なんて安藤先生のギャグを延々と聞き続けなくちゃいけないんだから……」
「「ああ……」」

さめざめと泣く伊作に同情の視線が集まる。
確かにあの先生の寒いギャグを聞き続けるのは辛い。

「善法寺先輩、安藤先生のギャグは適当に聞いている振りをして流さないと」
「え?」
「なんだ久々知、経験者か?」

真顔で言った久々知に伊作がきょとんとした顔を向けると、久々知はにこりと微笑んで。

「火薬委員は仕事が少ないのに予算だけは高額なので、予算案を提出するたびに嫌味まじりのギャグを聞かされるんですよ。在庫確認しか仕事もないし、忙しい割に何してるのか分からないし、おいおい委員会なのにそんなんでいいのかよってね。いつの間にか『そんなんでいいんかい』って定着してますしね。それだけ言われてるってことなのか思われてるってことなのかは分かりませんけど。まあ確かに在庫確認しかない日は割と早く終わりますけどね、その分勉強会したり、土井先生の火薬の研究に付き合ったりしてるんですけど。人目につかないから仕方ないんでしょうけど。あははっ、お陰で下級生にはだいぶ軽視されてて後輩達には申し訳ないんですよね。この前も伊助が左吉と伝七に『仕事の無い地味委員会で羨ましい。自分達の委員会と替わってほしい』って嫌味を言われたらしくて伊助も三郎次もめちゃくちゃ怒っちゃって、ほんとどうしようかと。安藤先生はもう少し自分の組と委員会の自慢するの自重してほしいですよねあはははは」
「ごめん! 兵助ごめん僕が悪かった!」
「あ、安藤先生にはそれとなく忠告しておくから……あと、ほら、左吉にも!」
「そ、そうだな! 伝七にもきちんと言っておく!」

よっぽど溜まってたんだなあ……! と六年生は慄いた。
久々知は終始笑顔だが、なんか黒いものがにじみ出ている気がする。
勿論安藤先生も本心で言っているわけでは無いのだろう。
火薬委員がきちんと火薬の在庫確認をしてくれているお陰で、自分達は火薬を思う存分使えるのだから。
だがそれにしたって、生徒相手に大人げないというか。
とりあえず自分の委員会の子達に、火薬委員会の大切さを教えておこう……と思った六年生だった。

「と、取り敢えず話を戻そう、な?」
「お、おう! ほら、えっと、なんだっけ?」
「何故自分の委員会に戻れないのか……」
「「ああ、それだ!」」

やさぐれた久々知に六年生が気を遣う、というシュールな光景。
後輩達が見ればさぞ驚くだろう。






――
続きが思いつかん。


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -