兵助の本質






横に握り込んだ左手は頚椎を強打し、縦に握った右手は刀を腕から叩き落す。くるりと寸鉄を回すと、流れるように鳩尾を打って最後の一人を気絶させた。

「おー、さすが久々知」
「……いらしたのなら手伝ってくれても良かったんじゃないですか? 七松先輩」

木の上からひょこりと顔を出した小平太に驚くことなく、兵助は呆れた視線を送る。
小平太は悪びれる様子もなく快活な笑みを向けた。

「今来たばかりだ。それに、手伝いが必要な程困っていなかっただろ?」
「まあ、そうですけど」

淡々と返して気絶している一人、親分格の男の懐から小銭の束を探し出す。
兵助の物では無いが、当然この男達の物でもない。

雷蔵達図書委員会がきり丸のバイトを手伝うのはよくあることで、稼いだ帰りに山賊に出くわすこともまあそれなりによくあることらしい。
ただ今回はなかなかの手練れがいたこと、怪士丸が足を挫いてしまったこと、山賊の量がそれなりに多かったこと、と悪条件が重なり逃げに徹する他無く、小銭は諦めるしか無かったのだ。

「これで全部ですか?」
「……うん、全部だな! きり丸喜ぶぞー」
「図書委員会も喜んでくれそうですね」
「だろうな! みんな落ち込んでいたから」

顔を見合わせて笑い合い、とん、と地面を蹴る。

兵助と小平太がしょんぼりムードの図書委員会に遭遇したのは単なる偶然だ。
取り返してくると立ち上がる長次と雷蔵を宥めて話を聞き、その役目を肩代わりした。
そして、山に散らばる山賊を二人で手分けして、片っ端から倒したのだ。元より体術は得手な二人、時間はそんなにかからなかった。

「しかし、思ったより多かったな」
「そうですね。一応学園長先生には報告を入れておきます」
「うん、頼むぞ」
「はい」

学園からそう遠くない場所。もしもまだ山賊を続けるようなら、それ相応の対応をしなければならない。
小平太の言葉に微笑を浮かべた兵助は、懐からきり丸の銭の束を取り出して小平太に渡した。

「では、これ、先輩からきり丸に渡しておいて下さい」
「……私が渡して良いのか?」
「親交の深い先輩が取り返してくれた方が、後輩としては嬉しいものですよ」

当然のように自分の手柄を小平太に引き渡す兵助に苦笑を零す。
兵助はいつもそうだ。みんなと同じように活躍しているのに、さも無かったことのように振る舞ってあっさり他の奴らに見せ場を引き渡してしまう。しかも、周りにも気付かせないほどとても自然に。

忍らしいというか、子供らしくないというか。
取り返したのが兵助でもきり丸は喜ぶだろうと思うのだけども、そう言ったところで兵助は否定するだろう。

「……分かった。私が取り返したということにしておこう」
「ええ。それでは私はこれで」
「久々知」

学園長の庵に向かおうと踵を返す兵助を呼び止める。
振り返ってきょとんと首を傾げる兵助に、小平太はにかりと笑った。

「きり丸の代わりに私が礼を言おう。ありがとうな!」

兵助は嬉しそうに、少しだけ困ったように苦笑した。






――
殺陣練習+兵助の本質、というか。
原作を読めば読むほど兵助って「影」っぽいなあと思うんですよ。

こっから妄想というか考察。久々知に夢を見てるのはいつものこと。

元々火薬委員会って完全裏方部隊だと思っているのですが……まあ、兵助だけに焦点を絞るとして。
例えば、下級生だけの山賊退治の時。兵助って火薬の場所知ってたわけじゃないよね。留三郎が使った「微兆の術」を使って場所割り出したんじゃないかと。
例えば、文化祭。焔硝蔵をそれと分からないようにカモフラージュしてたの、初っ端から出てきたのにその片鱗すら見せなかったじゃないですか。伊作も気付いてなかったし。
活躍しているのに、気付かない。
兵助自体「活躍してる」と思ってないというか、「活躍ってほど凄いことしてないよ」って思ってたら良いなあと。
そんでまあ、さらっと他の人に持ってかれるみたいなね。
そんな兵助がとても好きです。

では。ここまで読んで頂き、ありがとうございました!



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