笑顔動画さん裏話

*笑顔動画ネタ
*メタトーク
*完全に遊んでます(私が)





『全校生徒でダンスを踊ること!』

という例によって例の如く学園長先生の迷惑な思い付きによって、全員でダンスを踊らなければいけなくなった。しかも曲を指定してきやがった。
ダンス自体は全員少なくとも一度は踊ったことがあるのだが、全員でというのは初めてで。更に言うと、その曲の振り付けを知っている者自体がほとんどいなかった。
ならば経験豊富な者に指揮を任せるのがいいだろう、と六年生はダンス経験が豊富かつその曲で踊ったことのある久々知に全指揮権を渡したのだ。
さすがに久々知一人に全て任せるというわけにもいかないので、同じく振り付けを知っている五年生も教える側に回った。
そして五年生による地獄の振り付け講座が始まる……。




ぱん! という尾浜の合図で音楽が止まる。
うげ、と声を漏らしたのは浜だ。

「ああもう四年やる気あんのか! 表情が固いんだよ!」
「すみません!!」
「今までのおれらの動画見せてやろうか! 兵助のあざとさを少しは見習え! アイドル学年だろうがお前ら!」
「いや、久々知先輩のようになるのはなかなか至難の業だと思」
「あぁ!?」
「や、なんでもないです……」

がみがみ怒鳴る尾浜に反論できる者はおらず。
タカ丸を除く四年生は、鬼教官と化した尾浜に怯えながら再びダンスの練習に励みだす。
その隣でも、怒号は響く。

「待て待て、なんで次屋と神崎はすぐどこかへ行こうとするんだ! 本番洒落にならんぞこれ!」

三年生を指導しているのは鉢屋。
迷子コンビの扱いに相当手を焼いているようだ。

「つってもこいつらほんとどうにもなんないすよ。昔、三年から六年で踊った時も途中からどっか行きましたし」
「ぐ……あったなあそういえば。……ま、まあ、配置については兵助がなんとかしてくれるだろう。じゃあもう一回最初から通してやるぞ!」
「「はい!」」

大変そうだなあ、と三人をのんびり見守っているのは不破。
彼は一番人数の多い二年生と乱きりしん以外の一年生担当なのだが、他の三人よりも飲み込みが早くて素直なのでそこまで苦労していないのだ。

「うん、みんなよくできてるよー! じゃあ今度はもっと楽しんでやってみようか! 間違えてもいいから笑顔を保つこと!」
「「はーい!!」」

彼自身の教え方が上手いということもあるのだろうが。

さて、この中でも一番の難関である六年生はというと。

「先輩方、ほんっと、もう……覚えて……!」
「悪いなあ、竹谷。ちゃんとやってるつもりなんだが」
「だから! そこはそうじゃなくてこう! あーもー、間に合うんかこれ!?」
「間に合わせるのがお前達の仕事だろう」
「そういうんなら間に合わせる努力をしてください!! あんたらの経験値俺らとそう変わらんですよね!?」

なんの罰ゲームか六年生の担当になってしまった竹谷は、完全に六年生に遊ばれていた。
半泣きになりつつもしっかり間違いを指摘する竹谷が可愛い(面白い)らしい。
いじり甲斐のある奴というのは不憫なものだ。

そんな、喧々囂々とした練習部屋の扉が勢いよく開いた。
入ってきたのはリーダーだったが、喧騒のせいで誰も気づかない。
地味だもんなーと少し自虐的になりつつも、リーダー……久々知は声を張り上げた。

「全員ちゅうもーく!!」

途端、一気に静かになる部屋。
そんな面々をぐるりと見回して、久々知は持ってきた配置図を開いた。

「全員の配置が決まりましたー! これからは全体練習も取り入れていくのでそのつもりで!」
「乱太郎達は大丈夫なの?」

リーダーである久々知は、全体の動きや演出の調整の他に今回センターを務める乱太郎きり丸しんべヱの振りの指導を任されていた。
ちなみに彼の率いる火薬委員は全員のメイクや衣装の準備も担当しており、この場に火薬委員がいないのはそういうわけである。
そんなんでダンスは大丈夫なのかと思ったが、「久々知先輩の動画めっちゃ観たんで大体覚えてます」「練習も付き合いましたし」「ていうかその場にいたしねー」とのことだ。
さすが二次では一番人気の委員会……! と六年は思ったとか思ってないとか。

「へ? 乱太郎達の振りならとっくに完成してるよ? あとは全体で調整するだけ」
「「…………」」

すごいよなあ、さすが主人公。と呑気に笑うリーダーを見て、青ざめたのは雷蔵以外の五年生だ。
なんせ、雑務をリーダーに押し付けたくせにまだ振り付けも碌に完成していない。

「……あの、兵助さん」
「…………え、なに。まさかお前ら」

なんてことだ、名前を呼んだだけでおおよそのことを把握されてしまった。
リーダーの察しの良さ怖い! とふざける余裕も今の学級コンビにはない。
それよりも凝視してくる兵助が怖い。

「本番まで三週間切ってんだぞ……?」
「「ごめんなさい!!!」」
「一年二年はほとんど完成に近いよー」
「……なんでそれより上の学年が……?」
「「ほんっとすみません!!!」」

久々知の声からして、怒っているのではなく困惑しているのだと気付いたのは不破だけで、三人は久々知の目力に竦み上がった。
やだもうあの睫毛怖い。もう睫毛が怖い。

「えー……」

久々知は頭を下げる三人を見下ろし、唸りながら少しだけ上を見た。

「……よし。仕方ない、あとは俺が指導する」
「えっ、でも兵助、他の仕事は?」
「他のはもうチェックだけだし、ていうかチェックも木下先生と土井先生に頼んじゃったからさあ。もうあと全体でバランス見るだけなんだよね」

さすが仕事の早い兵助さん……! と目を輝かせる五年生ににこりと笑って、久々知は背後の他学年を振り返る。

「さて、やりましょうか」

本当の地獄が始まった――。





「四年生、踊りに集中しすぎない。かといって、今回は一年がメインなんだからそんなキラキラしない! カメラに映る一瞬だけでアピールしてみせろ!」
「「はい!!」」
「三年! っていうか次屋と神崎!」
「「はい!」
「……次に勝手に移動したら最初から最後までお前達の隣にいけどん先輩とギンギン先輩という配置にする」
「「!?」」
「先輩方、実は覚えてるでしょう? 八左ヱ門をからかうのも大概にしてくださいね」
「すまん、つい可愛くてな」
「善法寺先輩、不運発動するのはリハまでですよ、本番では絶対耐えてくださいね」
「う、うん、努力する……」
「一応基本的に隣に食満先輩か中在家先輩という配置にしてあるので」
「あー……分かった」
「了解……もそ」

かくして、久々知の努力でなんとか全員まとまることができた。
さすが、伊達に経験豊富ではない。
この後しばらく五年生が久々知を尊敬の眼差しで見ていたのだが、それもまあ当然のことだろう。


そうしてなんとか、保健委員会の不運も発動することなく、大きな問題を起こすこともなく、ダンスを間違える者もおらず、全員無事にやり終えることが出来た。

余談。動画を見終えた六年生が、火薬委員会のあざとさと久々知に教え込まれた乱太郎の可愛さに戦慄するのは、また別の話。

(カメラなんて急に来るし、踊りに必死でアピールどころじゃなかったって……!)
(見事に全員カメラ目線だよなあ……)
(そもそも練習時間も一番少ないよなこいつら……)
(さすが火薬……!)

(乱太郎……恐ろしい子……!)
(あざとい……! なにこの子すごいなさすが主人公!)
(久々知がよくやる一瞬のウインクもマスターしている……)
(主人公パねえ!)


――
某ダンス動画の裏話的な。
火薬が一番人気ってのは、昔あった委員会別バレンタイン企画でぶっちぎり一位ってことがあったような記憶が……?(朧気)
まああんまり深くは考えないでください。


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