久々知総受け

*モブ視点、出張るモブ
*ちょいメタトーク
*みんな腹黒い、ブラック
*可愛い兵助はいません





今、兵助が絶賛モテ期らしい。

まあ元々優秀で落ち着いてるししっかりしてるし温厚だし、かと思えば天然でちょっと抜けてて豆腐大好きで同輩からの信頼も厚くて後輩から慕われてて先生や先輩にも一目置かれているやつではあった。くのたま達の話題に上がっているのもよく聞く。

ただ、今回のモテ期は女ではなく男に、モテているらしい。

「兵助え! おれ兵助の豆腐食べたい!」
「あっ勘ずるいぞ! 俺も俺も!」
「二人とも兵助に抱きつくな!」
「そうだよ、兵助困ってるだろ?」
「…………」

兵助に抱きつく勘右衛門と八左ヱ門と三郎と雷蔵。もはや当たり前のこの光景。
これだけ見れば「ああいつもの仲良し五年生」だと思うだけなのだが、四人の目には恋情がチリチリと見え隠れしている。そしてお互いに牽制するように睨み合う。
兵助は最初こそ戸惑っていたものの、今は鬱陶しそうな表情で本から顔を上げない。一応自分に向けられる感情には気付いてるらしいが、だからと言って何をするわけでもなく無視を貫いている。

「久々知先輩、ちょっとよろしいですか」
「……ああ、なに?」

兵助を好いているのは何も五年生だけじゃない。
突然現れたタカ丸さんを除く四年生達に、兵助は無表情のまま応じて勘右衛門達から離れていった。残された五年生は舌打ち。
同輩の黒い面なんて見慣れたもんで今更怖いとは思わないので、俺はこっそり兵助に付いて行く。野次馬精神だ。

「久々知せーんぱいっ!」
「おっと」
「なんで避けるんですか」
「……そのまま蛸壺に落とす気だろ」
「よくお分かりで」

五年生に比べると四年生は可愛いとかそんなことは無い。兵助を自分のものにしようとみんな腹ん中真っ黒だ。
蛸壺に落として何をしようと考えているのかなんて聞きたくもない。
じりじりと詰め寄る四年生をひらりひらりと躱し、兵助はとんと廊下に戻った。

「用がないなら帰るよ。これから委員会なんだ」

“優しくて温厚な久々知先輩”の微笑を浮かべて、兵助は踵を返す。
後輩としてしか見られていないと気付き、悔しげに歯噛みしている四年生に背を向け、俺は兵助を追いかける。

「兵助。大丈夫か?」
「見てたのか。ったく、あいつらにも困ったもんだよ」
「モテモテって茶化すには質が悪いよなあ」
「恋情に溺れ切ってない辺りはさすがだけどな」

焔硝蔵へ行くまでの間に苦笑する兵助を労わる。その間にも下級生や先生から声をかけられて、本当に好かれてるんだなあと思う。下級生はまだ上級生に比べたら可愛らしい。兵助の笑顔で頬を染めるレベルだ。

「ところでお前、俺と一緒にいて大丈夫か?」
「あー、見られても俺モブだから紛れりゃ分かんなくなるだろ。五年生は言いくるめられる自信あるし」
「そうか。なら良いんだ」

兵助を手篭めにしようとした六年生(モブ)が実習で瀕死に遭ったことは兵助も知っているらしい。
まあ無理やり組み敷こうとしたあの人が十中八九悪いが、特に六年生のあの六人に目をつけられると俺もどんな目に遭うか分からない。兵助はそれを心配してくれているようだ。

「あ、兵助くーん!」
「タカ丸さんだ」
「じゃあな、兵助。また後で」
「ああ、ありがとな」

見られる前に兵助から離れる。
火薬委員会はある意味ダークホースだ。なんせ兵助至上主義の後輩二人にチャラ丸と最終兵器顧問がいる。
恋情を抜きにしても最強の鉄壁で、火薬委員会の活動中は誰も手が出せない。

「よし、じゃあ委員会を始めよう」
「「はーい!」」
「本当に兵助はしっかりしてて助かるなあ」
「ですよねえ。ぼくも兵助くん大好き!」
「「ぼくらも大好きですー!」」
「もちろん私もな」
「はは、ありがとうございます。俺もみんな大好きだぞ」

火薬委員会のそれは恋情と言うより家族愛に近いのだ。つまり、火薬委員会の前で兵助に無理やり何かしようとすれば……この先は怖すぎて言えない。

そんな平和な火薬委員会の活動時間も終わり、解散するとラスボスが登場する。

「久々知、委員会終わったのか?」
「……先輩方」

微笑みを讃える六人衆。
六年生の中でも更にアクの強い、委員長連合が立っていた。
さすがに六人揃うと迫力がある。兵助は無表情のままだが、嫌そうに眉間に皺が寄った。

「なんですか」
「分かるだろ」

いつもの強い目で六人を射抜く兵助に、立花先輩以外が表情を落とした。
七松先輩が兵助の顎を掴み、潮江先輩と食満先輩が逃げられないように兵助の両側の壁に手をつく。
傍から見てもかなり怖い。

「久々知、いつになれば俺達のものになるんだ?」
「何度も言いますが私にその気はありません。諦めてください」
「それは無理な相談だ。お前が思っている以上に俺達はお前を気に入ってんだよ」

それでも兵助は強気な目を逸らさず、隣にいる潮江先輩を睨み上げる。

「久々知、私達に堕ちろ」
「っ……」

顔を近付けた七松先輩はかなり強い力で顎を掴んでいるらしい。兵助が顔を歪めた。けれど、誰もそれを咎めようとしない。
そんな六人に、兵助は挑むように口元だけで笑みを描く。

「お断りします」

それからは早かった。
挑戦的な笑みを見て六年生に一瞬の隙が出来た瞬間、兵助が煙玉を叩きつけてその場から逃げ出したのだ。
さすが用意周到。

「お疲れさん」
「さすがに六人で来られるとは思わなかったよ。七松先輩怖かったー」

追いついた兵助は、苦笑を浮かべているがどこか愉しそうな空気が漂っている。

「さて、次はどうやって迫ってくるかな」

一番腹黒いのはこいつかもしれない。
惚れなくて良かったと心底思いながら、兵助の背を追った。







――
六年生に迫られる兵助が書きたかっただけ。総受けでも赤面一つなかなかしやがりません兵助さん。男前というより性格が悪い。
でもみんな、凛としてて振り向かないのにたまにそっと甘えてくる猫みたいなところに惹かれれば良い。理想。

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