無言食満くく




カンコンカンコン、小気味好い音が響く部屋の中。
その音と共鳴するように、さらさらと筆の走る音が微かに聞こえてくる。
用具庫の中で、留三郎は棚を修理しながら背中の体温に少しだけ身体を預けた。
留三郎と背中合わせに座ってさらさらと書物をしているのは兵助だ。何を書いているのか、課題なのか他の書類なのかは分からないし興味もない。
二人は背中合わせに座ったまま、まるで相手が見えていないかのように自分の作業を淡々と進める。そこに会話は一つもない。
それでも、合わせた背中だけは離そうとせずに互いの体温を分け合う。
違うものを見て違うことを考えながらも、二人は何かを共有しているように見えた。

話したくない。でも、誰かと一緒にいたい。見られたくない。でも、誰かの体温を感じていたい。
どうしたとあれこれ世話を焼くこともなく、かと言って黙っていて気を使うこともなく。二人は、このどうしようもない矛盾した思いを共有する関係だった。

悲しいのか、寂しいのか、辛いのか、苦しいのか。どれも正しくてどれも違う。自分でも分からない、昇華しようにも仕切れないもやもやした気持ち。互いだけが、その感覚を理解している。二人とも、それを他の友人に押し付けようとは思わないし、理解して貰えるとも思っていない。
互いの体温を分け合えるだけで良いのだ。

カンコンカンコン、小気味好い音が響く。さらさらと、共鳴するように筆の走る音が微かに聞こえてくる。

用具庫はいつまでも、静寂が包んでいた。





――
こういう気持ちになる時ってありませんか。
っていうかちょっと私のサン値がゴリゴリ削られたので、食満くくで回復中。
二人だけが共有できる感覚ってなんか良いですよね。

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