五年生と上下の仲が悪い話


隣り合う学年は仲が悪い。それは一年生の頃からの伝統と言っても過言ではなく、現に一年生と二年生、二年生と三年生、三年生と四年生の仲は悪かった。
それでも下級生はまだ可愛げがあり単なる「生意気」というだけで済むのだが、上級生となるとそうも言っていられない。

「もう、ほんと何がしたいんだ……」
「兵助や三郎に比べれば全然だけどさ、私達も相当キツイ……」
「中在家先輩とタカ丸さんだけが癒しだよ……あと下級生」
「下級生いなかったら俺らとっくに退学してるレベルだぞ」
「おいおい、そういうこと言うなって」

い組の教室に集まってだらだらと疲れた様子で話しているのは、青藍を纏う五年生達だ。しかも何故か全員集まっており、どことなくどんよりとした空気が漂っている。

「嫌われているというよりは、目をつけられてるといったところか」
「そうだな……四年生はまだ舐めてくれている奴らがほとんどだが」
「もう嫌だ……いけどんマラソンとかなにあれ……」
「ハチ、お疲れ……」
「七松先輩は怖いよな……」

この忍術学園において、珍しく「温厚」とされているのがこの五年生だ。六年生はしっかり尊敬し、四年生は下級生同様可愛がっている。つもりでなくマジで。
だが、六年生と四年生はそんな上下関係が気に食わないのか、五年生を見つけると無理難題を押し付けてくるのだった。

「俺も今夜鍛錬に誘われたからさぁ……骨は拾ってくれよ」
「い、生きろ兵助!」
「辛かったら明日木下先生に言え! たぶん休ませてくれる!」
「中在家先輩もいるから、しんどくなったら先輩に言うんだよ!」

舐められているならまだ良い。個性が強い六年生と四年生に挟まれ、「地味学年」と呼ばれていることは全員が知っている。舐められているなら合同で実習となった時もいろいろと動き易い。
忍びにとって「地味」は褒め言葉だ。それを証明するように、五年生の隠密や暗殺の成績は歴代でも一番を誇る。

「けど、八左じゃなくて兵助を誘うってさあ……食えないよねえ、六年生も」
「本当だよね。たぶん、僕らの実力を見極めようとしてるんだろうけど」
「ここにきて六年生に目を付けられるとは思わなかったな。適度に私達を困らせてから卒業してくれれば良かったものを」
「そういうこと言うなー、誰に聞かれてるか分かったもんじゃねえ」
「しっかし、毎日この調子じゃ身が持たないなぁ……」

「地味」が武器になったのは、この学年に忍びの家系の者が多かったからかもしれない。この学園はいつか巣立つものであると知っていた。「自分達の方が優れている」でまかり通る世界ではないことも知っている。

「ちょっとだけ、やり返そうか」

自分の情報が武器になることも分かっているし、信じられる仲間の大切さも充分わかっている。だから五年生は仲が良い。






「久々知貴様!」

食堂で美味そうに豆腐を食べていた兵助を見つけ、仙蔵は恐ろしい形相で開口一番そう言い放った。
その場にいた他の六年生はその威圧にぎょっとし、泣き出しそうな下級生を見て慌てる。

「仙蔵! 何があったか知らないけど下級生の前でそんな顔はだめだよ!」
「そんなもの知らん! ああもうただでさえお前達は気に入らんというのに今日という今日は本気で許さん!」
「落ち着けって、久々知お前何した、」
「久々知先輩火薬の個人的な利用不可ってどういうことですか!?」
「「……はあ!?」」

文次郎の言葉を遮って勢い良く兵助の前に現れたのは三木ヱ門。その言葉に、仙蔵を止めようとしていた六年生は唖然とする。
そんな六年生を放置してマイペースに豆腐を食べ終えた兵助は、普段からよくしているように小首を傾げた。

「予算会議で私達の委員会は予算が貰えなかったので、硝石や火薬の原料が買えなくなってしまいまして。個人の趣味なんて理由で火薬を使われると、あっという間に火薬が無くなってしまうので節約ですよ」
「……おまっ、いけしゃあしゃあと嘘つくんじゃねえ! 火薬の原料はうちの管轄じゃねえだろうが!」

険しい視線が向けられ、慌てて弁解する文次郎。兵助は真面目に話すつもりがあるのか無いのかマイペースにご飯を食べ続けている。相変わらず何を考えているのか分からない。

「久々知、一体どういうつもりだ。確かに火薬委員会は予算ゼロだったが、やりくり出来ていることは知っている。何を今更節約など」
「やりくりなんて出来てませんよ。合間合間にアルバイトを見つけてなんとか保てているだけです。ああ、乱太郎きり丸しんべヱにはいつもお世話になってます」

にこ、と微笑んでそう言うが、一向に進まない会話に仙蔵がイライラしているのが分かり、六年生は冷や冷やする。

「なんだ、俺達への嫌がらせか?」
「まさか。私達は先輩方を尊敬してますし、後輩も可愛いと思ってますもん」
「……なら、どうして火薬を制限する? 趣味とはいえ才能を伸ばすことは悪いことではないだろう」

矢継ぎ早に問われた言葉に、いつの間にかご飯を食べ終えた兵助は「ごちそうさまでした」と律儀に手を合わせてからいつもの無表情で淡々と告げた。

「先輩方と四年生があまりに私達を目の敵にするので、ちょっとした牽制ですよ」

ぶわりと、全身の毛が逆立ったような気がした。三木ヱ門などは泣きそうになっている。しかし、周りにいる下級生は何も感じていないようだった。
盆を持って立った兵助は一瞬、六年生と三木ヱ門にだけ殺気を放ったのだ。

「……おいおい、今の、マジか」
「殺気をコントロールしたのか……」
「……うわあ」

残されたのは、呆然とする六年生と三木ヱ門のみ。

「さて、折角大将自ら動いたんだから、暫く大人しくしてくれると良いんだけどな」






――
兵助に焔硝蔵閉鎖させたかっただけ。
五年生は五人組以外もみんな仲良しだと良いです。最初に誰が話しているとかっていう描写を入れなかったのはモブくん達も会話してるからで、五年五人が全部話してるわけではございやせん。
でもなんか気に入らないのでこっち。

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