五年で日常お題

title by 「それはある晴れた午後のこと」君想歌





・両手広げて飛んできた

名前を呼ばれて全速力で走って来られたものだから、反射的に踵を返して猛ダッシュした。
嫌な予感がする。八左ヱ門が走ってくる理由と言えばろくなことしか思いつかないくらいには嫌な予感がする。
「ちょっと! 雷蔵! なんで逃げるんだよ!」
「お断りします!」
「まだなんも言ってねえよ!」
「どうせ生物の手伝いか宿題の手伝いだろやだよ僕も忙しいんだから!」
「なんだお前エスパーか!」
びっくりしたような八左ヱ門の声に溜息を吐きたくなる。今までが今までだからさすがに分かるよ。
まだ先輩方に巻き込まれたわけじゃないだけマシかもしれないけど。
「ジュンコ逃げちゃったんだよ! 頼む探すの手伝って!」
「だから忙しいんだって人の話聞いてた!?」
「聞いてるけど兵助にも勘右衛門にも三郎にも逃げられたからさあ!」
「その時点で僕も逃げるって気付こうよ!」
「一握りの希望に縋って何が悪い!」
お互い大声で口喧嘩しながら全速力で学園中を走り回った。
まあ結局捕まってしまって二人揃って生物小屋に行く羽目になるんだけど、生物小屋の前では兵助と勘右衛門と三郎が待っててくれていて。
八左ヱ門は僕の腕を掴んだまま、三人に思いっきりダイブした。





・君は僕の世界を変えたヒーロー

「三郎の変装ってすごいね!」
柔らかく笑った君と
「今度おれの変装してよ!」
快活に笑ったお前と
「なあ、変装教えてくれよ」
冷静に笑ったお前と
「変装であいつら驚かそうぜ!」
楽しそうに笑ったお前。





・ああ、それだけのことで

折角の休みなのにつまらない。みんな委員会やらお使いやらで五年長屋は凄く静か。やることが無いのでだらだらしてたら、兵助を探しに来た立花先輩がおれにびっくりした程。いたのか! って言われた。十六年の傷に塩を塗りこまれた気分だ。余計に動く気力がなくなった。宿題も鍛錬もやっちゃったし、委員会の仕事も無いし。暇だ。とにかく暇だ。
「勘右衛門……て、うわ、休みだからってだらけすぎじゃないか」
「わー雷蔵! おかえり!」
「ただいま、ていうか布団くらい仕舞いなよ」
「気にしない気にしない! で、どしたの?」
「いや、さっき三郎と帰ってきたんだけど、お土産買ってきたからみんなで食べようと思って。兵助と八左ヱ門もそろそろ委員会終わるだろうから、三郎に迎えに行かせてる」
「マジで! わー雷蔵愛してる!」
「ちゃんと部屋掃除してから来てね」
「うん!」
これ以上ないほど俊敏に部屋の掃除をして雷蔵の後を追う。
腐った気分はいつの間にかどこかへ行ってしまっていた。





・笑って泣いて青春日和

仲良しの秘訣? そうだなあ……
何に対しても全力を出すってことかな。
え? だって、学園を出たらいい思い出になるだろ?

思い出は、きっとおれ達を支えてくれるからね。





・僕を連れ出した君の背は

委員長代理になったことで、そこまで悪くなかった成績が一気に中間くらいにまで下がった。結構落ち込んだ。両立できるって自分で思ってたし。
だけどもっと落ち込んだのは、同じく委員長代理になった兵助と三郎はちゃんと両立できてたってことだ。今更あいつらに嫉妬とかはないにしろ、なんで自分はこうなのかと沈んだ。でも言えるわけないよなーと思ってたら、どうやら四人は察してくれたらしい。
「問一! ようじ隠れとは!」
「……小石や小枝を投げて敵の隙をついて隠れるもの」
「問二! 焙烙火矢とは!」
「……素焼きの土器に火薬を入れて火縄を挟んだ火器」
「問三! 忍び六具とは!」
「……編笠、打竹、鉤縄、三尺手拭、筆記具、薬」
「問四! 兵糧丸のレシピ!」
「……鍋に小麦粉、餅米粉、人参粉を入れて蜂蜜と酒を加えてとろ火で煮詰めて固くなったら丸める」
「「全問正解!」」
でも、この展開は予想外だった。
突然現れては問題を出して去っていく。レベルは一年から五年までまちまち。いやありがたいけど、とにかく全部が嵐のように唐突なのだ。
木下先生リスペクトか、楽しそうだなお前ら。
きゃっきゃ言い合っている背中を毎回見ているうち、徐々に悩みは消えていった。

余談だけど、次のテストでは無事に順位も戻って、みんなに団子をたかられる羽目になったのだった。





×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -