五年生でシリアスお題

title by 「シリアス」モノクロメルヘン







1.「君が居ないと」

気を抜くと泣きそうになる目に力を入れて、空を仰ぐ。
兵助、お前がいないとおれ達ちっとも笑えないんだ。
だから、だからさ。
早く帰ってきてよ。
いつもみたいに、お土産買ってきたって笑ってよ。
そうして。

「宿題……! 見せてほしい……!」
「豆腐作ってたら帰ってこないかなあ……」
「無理だろ……珍しい豆腐買いに行くって言ってたし……」
「ああー兵助早く帰ってきてくれ……!」

宿題の締め切りが今日だと忘れてました。







2.「泣かないで」

泣かせたかったわけじゃない。
だというのに、どうしてお前はそんな顔をするんだ。
どうか笑ってくれよ。

「謝ってるだろ、コッ子に悪気は無かったんだってば!」
「だからお前が誠心誠意謝れって言ってんだろうが! あぁ!? 何回目だおれの豆腐に恨みでもあんのかこの野郎!!」
「お、怒りながら泣くなよ……悪かったって……」

豆腐、駄目にしちゃいました。







3.「淋しいよ」

たった一日会えないだけで、こんなにも物足りないなんて。
心にぽっかりと穴が開いたような、寒々しい孤独感。
実習中だというのに、どうしてもお前のことばかり考えてしまうよ。

「へーすけー、豆腐の国に行く前に暗号の解き方教えて」
「あ、うん。右に五つずらす」
「シーザー式ね」
「おま、なに教えてんだ馬鹿! やる気ないにも程があるだろ!」
「豆腐は原動力だから仕方ねえって。今回は諦めろい組」

今日一日、豆腐が食べられませんでした。







4.「言葉だけでいい」

たった一度、言ってくれるだけでいい。
それだけで満足できるから。
無理を言っていることは分かっている。だけど、どうか。

「……サブロウノコトナンテスキジャナインダカラネ」
「なるほどこれが……!」
「すごく棒読みだけどいいのか」
「三郎って時々凄く馬鹿だよな」
「いやあ、常に馬鹿だろ」

“つんでれ”なるものを学びました。







5.「わからないよ」

俺を睨みつけるくせに眉だけは辛そうに潜めて、お前は俺の手を振り払った。分かってくれなくていい。だけど、理解だけはしてくれないか。
お前達が分かってくれるとは思ってない。これは俺の、自己満足だから。

「ふざけんな自己満足で虫逃がすな馬鹿左ヱ門!!」
「どうしてくれんだおれのおやつ! 全部駄目んなっちゃったじゃん!!」
「あーあー、長屋全体が臭い……なんの虫だよあれ……」
「昨日本返却しといて良かった……!」
「いや、マジごめん……」

部屋で虫を飼いたかったんです。







6.「伝わりますように」

思ってるだけで伝わればいいのに。
そんな勝手なことを思って、分かってくれないあいつを責める。
だけど伝わらなくて、おれは触れる指先にもう一度、思いを込めた。

「ちょ……っ、手! 痛い! 勘右衛門が! 痛い!」
「ダメだからな、目合わせるなよ兵助」
「合わせたら最後だからな」
「頑張れ兵助、この山超えたら学園だから!」
「ひ、他人事……!」

実習の帰りに団子屋寄ってほしいです。







7.「さぁ、行って」

焦ったような後輩達の表情に、笑って背中を向ける。
大丈夫、僕だって伊達に五年間この学園にいたわけじゃないよ。
忍として、人として、たくさんのことを学んできたんだ。
だから、きっと大丈夫。
みんなの元へ、生きて帰る。
僕は息を吸うと、覚悟を決めた。

「中在家先輩、すみませんでした!」

本の修繕してたはずが、気付くと五冊が二冊になってました。







8.「君の為なら」

君達の為ならなんだって出来ると思ってるんだ。
そう言ったら、一人は「馬鹿」と笑い、一人は「馬鹿」と怒り、一人は「馬鹿」と困ったような顔をして、一人は「馬鹿」と私の頭を叩いた。
ああ、馬鹿になってしまったさ。
誰かさん達のせいでね。

「って言ってたじゃん。ほら、今がその時だろ」
「さっさと土下座してこいよ先輩方に」
「うん、おれ達のためにな」
「いってらっしゃい三郎」
「ふっざけんなお前達も同罪だろうが!」

先輩の顔でふざけてたら、下級生にあらぬ誤解を与えてしまいました。







9.「笑って」

そんな顔は君らしくない、と。
顔を変幻自在に変えて。好物を振る舞ってくれて。読みたかった本を買ってきてくれて。にっこり笑って背中を叩いてくれて。
言葉で言わなくても、お前達の気持ちは充分に伝わったよ。

「兵助まで珍しい」
「委員会の仕事がいろいろ重なってすっかり忘れてたんだ……すまん雷蔵」
「うーん……まあ、兵助はいいよ。初めてだし」
「え!」
「ずるい兵助だけ!」
「俺らは!?」
「お前達常習犯だろ……もう無理だよ、諦めなよ。僕もお前達差し出す覚悟できたから」
「「そんな殺生な!」」

返却期限、過ぎてました。







10.「最期じゃないよ」

今生はここで別れても、生まれ変わって、きっとまた会えるさ。
そう笑った友人に、後輩達はどうにか涙を拭って去っていったから。
友人が後輩にしていたように、みんなで友人の頭をぐしゃぐしゃに掻き混ぜた。

「おりゃー!」
「いだだだ! いって! いてえってば!」
「泣きそうなくらい?」
「。……泣きそうなくらい! 馬鹿野郎!」
「まあ、たまにはいいんじゃん?」
「うん、だーれも見て無いしね」
「お前ら……」
「なんなら豆腐食べてるから。ね。いい大豆が手に入ったからさ」
「……へーすけぇ」
「今それ言わなきゃだめ……?」
「台無しじゃねえか……」
「ぶはっ! お前ら、ほんと馬鹿だなあ! 大好きだ!」

生物委員会と、五年生と。







――
ごめんなさいでした。
いや、お題を見た瞬間、タイトルを裏切っていくパターンが浮かんだものだから、つい、こう、使命感というか、ねえ?
すみませんでした!


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