喜三太と兵助と

*リリーばあちゃんの陰謀の段その後
*年齢操作、未来
*捏造過多







兵助の豆腐を腹いっぱい食べて、満足気なしんべヱと食傷気味の乱太郎、きり丸、喜三太は長屋へと戻っていく。


「あー、やっぱり久々知先輩のお豆腐は美味しいなあ。ぼく毎日食べられるよ」
「毎日はキツイだろ……まあ、売ってもいいなら毎日でもいいけど」
「きりちゃんはすーぐ売ろうとするんだから。
けど、久々知先輩、連れていかれなくてほんとに良かったねえ」
「なあ。先輩優秀だから、気に入られてたら本当にやばかったぜ」
「先輩いなくなっちゃったらお豆腐食べられなくなるしね!」
「「しんべヱ……」」


喜三太の高祖母はいつも突拍子が無いが、今回ばかりは冷や冷やさせられた。
確かにこの学園には優秀な生徒が多いけれど、普段そんなに関わりの無い先輩といってもやっぱり先輩がいなくなるのは寂しいもので。
だから、リリーが怒って帰った時には本当にほっとしたのだ。


「それにしても、本当に久々知先輩のお豆腐好きはとどまることを知らないねえ」
「本当にな。まさかあのリリーばあちゃんまで怒らせるとは」
「ぼくはもっと食べられるけどねえ」


食べても食べても出てくる豆腐。五年連中には“豆腐地獄”なんて呼ばれている兵助の豆腐への情熱は、結果としてリリーすらも怒って帰らせてしまった。
喜三太からスカウトの件を聞いて乱太郎達が慌てて豆腐小屋に行った時には、既に決着がついていたのだ。


「……ねえ、久々知先輩、わざとリリーばあちゃんに豆腐を食べさせたんじゃない?」


今まで黙って乱太郎達の話を聞いていた喜三太がぽつりと呟く。
へ? と振り返る三人に、喜三太は顔を上げた。


「だって、怒ってたって言っても五年生がぼくの気配分からないわけないよ。ぼくが部屋に逃げ帰った時、やっぱり先輩は気付いてたんじゃないかな?」
「じゃあ、リリーばあちゃんにスカウトされそうだってことに、先輩は気付いていらっしゃったってこと?」
「え……じゃあ、あれは全部演技?」
「わざとリリーばあちゃんに豆腐食わせて怒らせたってこと……か?」
「わかんないけど……だって、先輩あんなに怒ってぼくを追いかけてきたのに、リリーばあちゃんが帰った後は全くなんにも言わなかったじゃない?」
「「確かに……」」


むしろ豆腐が余ったと言って、四人に出来立ての豆腐を振る舞ってくれたのだ。
喜三太の仮説に、乱太郎きり丸しんべヱは黙り込む。
真偽のほどは分からないが、さもありなんと思ってしまえるのがこの学園にいる先輩達の怖さなのであって。


「……やっぱり先輩ってすごいんだなあ」
「うん」
「だねえ」
「ねえ」


問いただしてもはぐらかされるだろうことは目に見えているので、結局そこに落ち着くのだった。





******





昔懐かしい思い出話を唐突にされて、兵助はぽかんと目の前の後輩を見つめた。


「お前、急に来たと思ったらなんなんだ。組頭に怒られるぞ」
「与四郎先輩は優しいので大丈夫です!」
「いや、お前じゃなくて俺が怒られるの!」


キリッとした表情を作った喜三太の額をぺしっと叩く。
元後輩の喜三太には甘いが、直属の部下である兵助には厳しいのが組頭だ。まあ部下がサボっているのに上司が見逃したとなれば叱られるのは当然なのだが。


「全く……仕事は? お前、仁之進と一緒に偵察中だろうが」
「はい。でも仁之進もウチの忍ナメも優秀なので、あっさり情報手に入っちゃったんですよね〜」
「……」
「いったい!」


へにゃりと笑う喜三太に、兵助は今度こそ無言で拳を落とした。


「お前な! そういうことは先に言え!」
「だってぇ! 帰る途中でお豆腐屋さん見つけて、あの時のこと思い出したんですもん!」
「知らんわ!」


一年生の頃からしんべヱと並んでマイペースだと思っていたけれど、風魔に戻ってきて更に拍車がかかったような気がする。
はあ、と脱力する兵助に、喜三太は相変わらずのマイペースでもって身を乗り出す。


「で、ぼくらの推測は合ってたんですか?」
「あ?」
「リリーばあちゃんにスカウトされそうになった時! あれって怒車の術だったんですか? それとも偶然だったんですか?」


真偽は正直なところどちらでもいいし、今更本当のことを知ったところでこの先輩への尊敬が崩れることは無い。
けれど、すっかり忘れていても、思い出してしまうと途端に気になってしまうのが人間というもの。
わくわくと興奮する喜三太に、兵助は思い出すように視線を宙に向けて。


「――さぁてな」


優しい先輩から智謀に長けた小頭の顔になって、
ニヤリと、笑った。








――
という可能性が浮かんだ。
風魔兵助、意外とありじゃない?喜三太ともなんだかんだ言って相性よさげだし。






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