吸血鬼食満と人間久々知

*書きたいところだけ
*流血描写
*恋愛感情は無いですがよくある血を吸う描写はあるので注意ー









兵助が留三郎の秘密を知ったのは、今となっては思い出せないほど些細なきっかけだったように思う。
けれどだからといって留三郎を怖いだとか気持ち悪いだとかは微塵も思わなかったし、一瞬だって思い浮かびもしなかった。そう言ったら留三郎は変な奴だと笑ったけれど、少しだけほっとしていたように見えたのだ。
だからそう、つまるところは。

「食満先輩!」

忍務の最中、敵に見つかってしまった。
よくあってはいけないが、上級生ともなればそれなりに何度かそういう経験はあるもので、集合場所だけ決めて二人は散った。
何度か交戦になりつつも逃げることだけを優先して兵助がどうにか辿り着けば、そこにいたのが血まみれの留三郎だ。

「……く、くちか」
「はい……!」

首領格の者とでも争ったのか、留三郎は酷い状態だった。
兵助も無傷ではないものの、腹の傷は応急処置をしていてもどくどくと血が流れているし、吐血の形跡もある。腕や足にもあちこちにかすり傷。
なにより出血のせいか、留三郎の意識が少し曖昧になりつつある。
このままでは拙い。
山を下りれば村があるが、正直そこまで留三郎が保つか分からない。
兵助の判断は早かった。

「先輩、おれの血を飲んでください」

視線を合わせてそう言えば、切れ長の目が微かに見開いた。
すぐに鋭くなった光に内心ほっと息を吐いて、兵助は冷静にその目を見返す。

「血、止まってないでしょ。アンタこのままじゃ死にますよ」

あくまでも淡々とそう言えば、留三郎はギラギラとした光を宿して兵助を睨みつける。
本人が一番よく分かっているのだろう。なんせ兵助だけがいる状況だというのに、いつものように驚異的な回復力を見せることも無い。それだけの力も今は無いということだ。
それでも留三郎は頷かない。

「っざけんな……! おまぇ、どうなるか……」
「分かってますよ」

南蛮では吸血鬼。日本では鬼。
そう呼ばれているものに血を吸われたら、吸われた人間は眷属となってしまう。
つまり、同じように鬼になる。
留三郎の言葉に、けれど兵助は不敵に笑った。

「先輩、おれね、無知じゃないんですよ」

アンタのことは調べられる範囲で調べました。
この後輩が博識であることは周知の事実だが、一見無関心に見えて実は誰よりも仲間に対する思いが深いということは意外と知られていない。長い付き合いだから留三郎は知っていたけれど。
だからそう、つまるところは。
この後輩は好奇心からではなく、いつかこういう日が来た時のために自分のことを調べていたのだろう。だから、そういう覚悟だとか決意だとかは心配いらないと。
だけれども。

「……だめだ」

息も絶え絶えになりながら、留三郎は緩く首を振る。
鬼になってしまうことは、人生そのものを潰してしまうことと同義だ。忍としてどころか、人としての幸せすらきっと奪ってしまうことになる。
けれどそんな後輩への思いも虚しく、兵助は響くような音量で舌を打った。

「アンタねえ! 自分が死ぬかもしれないって時に人の将来心配してる場合ですか!」

兵助は留三郎の思いも、ともすればこのまま朽ち果てる覚悟さえ、分かっているのだろう。
分かっていて、その全てを否定しているのだ。
酷い奴だな。ぼんやりと思う留三郎に、兵助はもう一度舌打ち。

「見殺しなんて胸糞悪いんですよ」

地を這うような低い声でそう言うと、兵助は小刀を出して自身の腕にあったかすり傷に
突き立てた。

「おい……っぐ!」

そして血が流れる傷口を、留三郎の口に押し当てる。
むわりと香る鉄の匂い。
ぎり、と睨む留三郎に、兵助は意地の悪い笑みを浮かべた。

「おれの血、美味いんでしょう? アンタがそう言ったんですよ」

人間の中には、稀に大層甘美な血液を持つ者がいるらしい。
血液型や食べている物は関係無く、それは鬼の中でも噂程度にしか流れていない話。何百年かに一度見つかれば運が良いと言われる人間。
それが兵助であるらしい、と。

兵助の傷口から、血が、留三郎の口の中に落ちた。
その味は今まで食べたどの血よりも甘く、深く。
なんとか理性で押し留めていた留三郎も、その誘惑には勝てない。ましてや今は貧血で、獣臭い動物の血すらも美味しいと思えてしまう状態だ。
警鐘が鳴る思考とは裏腹に、留三郎は兵助の腕の傷を舐め、吸い上げ、もっとと求めるようにその首筋に牙を立てた。
く、と兵助が息を呑んだ。







――
中途半端ですがここまでー。
というのも、兵助が眷属でそのまま一生ついていくオチか兵助が珍しい血液のせいで眷属にならない体質でしたオチか迷っちゃって。
どっちでもうまいよね。
しかしながらこの二人は絶対に双方恋愛感情を持ちません。いやその方がおもしろ(強制終了)
某所で見た食満くく吸血鬼パラレルに触発されたのですが、設定違うとはいえ作品として仕上げるのはどうよ……?と自分で思ってしまったので、書きたいところだけ。

ていうか他ジャンルでも吸血鬼パロ見たのですが、吸血鬼っていろんな呼び方ありすぎじゃない?
プルートニクとかヴコドラクとか……お、覚えられんわ……!各地によって呼び方が違うのか、そういえばラミアも吸血鬼の前身とかいう話があったような。
妖怪といい神様といい久々知といい奥が深すぎるよ……







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