守一郎と兵助







お使いをこなした帰り道、山賊らしい頑健な男達に囲まれた。
戦い慣れている風体な上にこの場所は山賊達の拠点らしい。
対してこちらは一人で、軽いお使いだったために武器の持ち合わせも少ない。
一言で言えば、守一郎は窮地に追い込まれていた。


「さっさと荷物を寄越しなァ!」
「だからあ、何も金目のもんなんか入ってねえって!」
「それは俺達が決めることだってな! ほらさっさと寄越せ!」
「痛い目には遭いたくねェだろ〜?」


各々が武器をちらつかせ、にやにやと下卑た笑みを浮かべる。
守一郎は困った振りをしつつも頭の中では冷静に機を伺っていた。
多勢に無勢ではあるが応戦するのは賢くないし、地の利は山賊にある。逃げるのは少し難しい。
さてどうするか。


「一人相手に数十人とは、男の風上にも置けない奴らだな」


とりあえずこの場から逃げて山賊が諦めるまで潜んでいよう、と守一郎が結論を出した時。
若い男の声がした。


「なっ、なんだお前!」
「どこから沸いてきやがった!?」
「いやなに、近道をしようとしたら無粋な輩どもがいたものだから」
「なんだと!?」


身に着けている着物は美しい模様が描かれており、一目で高価な布だということが分かる。
加えて腰に差している刀は二振り。
相当身分の高い武士なのだろう。
その上、そのかんばせは切れ長の涼やかな目元と通った鼻筋で見目麗しい。
金持ちで眉目秀麗な年若い男に馬鹿にされたとなれば、山賊の怒りがそちらに向くのは当然のことだった。


「なんだぁ兄ちゃん、随分な言いようじゃねぇか……」


親分格の男がいらだちを隠そうともせず、低い声音のまま腰に差した短刀を抜く。
男に続いて周囲の男達もそれぞれ武器を取った。
対して美しい男は尚も表情を崩さず、腰の刀を抜こうともしない。
余裕な様子に余計に苛立ったのか、親分格の男は声を荒げた。


「くそっ! やっちまえ!!」


途端、男達が声を上げる。
その様はまるで獣の咆哮のようで、守一郎はぞわりと身震いした。

自分に向けられた威嚇のような時とは全く違う、この男達はあの武士を殺す気だ。


「にげっ……!」


思わず声を上げる守一郎。
しかしその耳に届いたのは、中途半端な自分の声と、男達のうめき声、
そしてひゅん、と風を斬るような音だけだった。


「安心しろ、峰打ちだ」


楽しそうな声音がこの場を支配する。
チャキ、と刀が鞘に戻された音と共に、男達はゆっくりと全員地に伏せた。
何が起こったのか、全く意味が解らない。
唖然とする守一郎に、武士の男が声をかける。
どこかで聞いたことのあるような、優しい声音。


「大丈夫かい? 守一郎」


勢いよく武士の男を見ると、顔の造形は全く見覚えのない、しかし表情の作りは物凄く見覚えのある微笑を浮かべていた。
この、後輩を安心させるような優しい笑みは。


「く、久々知先輩……!?」
「はは、正解」


全く見覚えのない人の顔で、全く見覚えのない人の声で。
ひどく見慣れた表情と声音で、兵助はからりと笑った。






――
短編で上げようと思って放置してたら、書く気がなくなっちゃったよシリーズ。(どんだけ適当なシリーズを作るのか)
ここんところ恋愛続きなので戦闘ものを。
久々知さんが通りがかったのはたまたまです。任務前後。
久々知さん、子供向け番組で寸鉄使えないのは分かるんで刀使ってもらえませんかねぇ……絶対様になると思うんだよなあ。




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