冬の伊くく
*ちょっと下ネタ
ついこの間留三郎と風が冷たくなったねえ、なんて話をしていたのだけれど、もうすっかり景色は冬で。
瑞々しい緑も色とりどりの赤や黄色も見えなくなった山肌は今の気温と相まってとても寒々しく思えた。
ただ、僕は別に冬という季節が嫌いなわけではない。
というのもだ。
「へーすけっ!」
「おわあっ!」
実習の帰り道、焔硝蔵の近くで見つけた恋人に抱き着く。
運動した後なので最早暑いくらいの自分の身体に、冷え切った兵助の身体が心地好い。
普段ならすぐに振りほどかれる兵助の腕が、彼も暖かいのか離されない。
冬が好きなのはこういう時だ。
「委員会帰り? お疲れー」
「帰ってきてたんですね」
「んーさっきね」
「お疲れ様です」
後ろから抱き着いた状態のまま歩く。
白い息すらも出ない程兵助の身体は冷え切っていて、早く温めてあげなければ、という妙な使命感が浮かんできた。
「これからお風呂入る?」
「先輩方が先でしょ。実習帰りなんだから」
「ええー一緒に入ろうよ」
「先輩方に交じって入るとか嫌ですよ」
困ったように眉が下がる兵助に、つられて自分の眉も下がる。
だって凄く冷たいのだ。
焔硝蔵が寒いのは周知の事実だけれど、それにしたって半纏に首巻まで巻いているのにこの冷たさはどうなのか。
寒さ対策のために凍み豆腐とか甘酒とか言ってたけど却下されたんだっけ。文次郎め、今度文句を言ってやろう。
「でもほら、兵助すっごい冷たいじゃない」
「いつものことですから。部屋戻ったら勘右衛門が火鉢あっためてくれてるんで、大丈夫ですよ」
なんでもないことのようにふわりと笑う兵助を抱きしめる力が強くなる。
まあまあ待ちなさい。なんで僕と会って当然のように自分の部屋に戻ろうとするの。
君さえ連れて行けば何も言わなくても留三郎は察して部屋に戻ってこないから大丈夫だよ。
そこまで考えて、ふと自分でも褒めたくなるようなとても良い案が思い浮かんだ。
「よし、兵助。これから僕の部屋で運動しようか!」
「っはあ!? 何言って、バカなんですかあんた!」
「バカでもいいよあったまるでしょ!」
「あったま……っ、やっぱあんたバカでしょ!?」
「いいからいいからほらほらほらほら」
「ちょっ、待っ、いさっ……ちょっとおおおお!!」
身を切るような冷たい風の中、ぎゃあぎゃあ言う兵助を引っ張って自分の部屋へ連れていく。
身体を暖めるため、なんて夏だったらば絶対ありえない誘い文句だ。
暑いくらいに暖かくなってもこの季節なら文句は言われない。
いくらでも引っ付けるこの季節が、好きだ。
――
すっごいしょーもない伊くくが書きたくなって。
あと折角冬なんで、冬のいいところとか。