五年メイン人外パロ1

*五年メイン妖・神パロ、といいつつ人間もいるし他学年もいる
*ごめんなさい途中までです
*呼称捏造






今よりもずっと遠い、遠い遠い、昔のおはなし。

まだ今程も人間というものが溢れかえっていなかった時代。
妖怪、と呼ばれるたぐいのものが、まだ鷹揚に道を歩いている、そんな時代。

「はちざえもーん!!!」

とある神社の、境内にて。
その社に奉られている狐の怒号が響き渡った。

「ど、どうしたんだい、三郎」
「雷蔵、君からも叱ってやってくれ!」

三郎と呼ばれる天狐の声に慌てて走ってきたのは尾先狐の雷蔵。
彼らは同じ狐の妖怪ながら、種類も格も違う。
祀られているのは三郎で、雷蔵はただの居候……というには語弊があるが、まあ三郎に拾われて住み着いた狐だ。
そして、雷蔵に抱っこされている子どもが。

「八左ヱ門、おまえ、この経典に落書きをしたな?」

八左ヱ門、この子どもも三郎が拾った――ただし人間の――子どもだった。
三郎の怒った表情と言葉に、雷蔵に抱かれた八左ヱ門はふるふると首を振る。

「ち、違うもん! おれじゃないもん!」
「じゃあ誰がこんなことをするんだ!」
「おれじゃないもん!」

三郎が何を言っても、ひたすら自分じゃないと首を振る八左ヱ門。
これでは埒が明かない。
三郎が怒鳴ろうとすると、雷蔵がやんわりと止めた。

「まあまあ、三郎。ハチはやってないって言ってるんだし」
「雷蔵!」

そうはいっても、大切に保管している経典に落書きが出来るものなど限られている。
神主や巫女はこの場所が神聖な場所だと知っているので必要最低限にしか近寄らないし、雷蔵はこの経典にどんな意味があるのか分かっているので落書きなんてするはずがない。
この部屋に気軽に入ることが出来、経典の意味を知らず、落書きなどできるものは八左ヱ門しかいないのだ。
八左ヱ門を甘やかすつもりかと睨めつけると、雷蔵は目をスッと細めて八左ヱ門に目を合わせた。

「ハチ、ハチが本当にやっていないのなら、僕の目を見てやってないって言えるよね?」

途端、八左ヱ門はくりくりの目玉をあっちへこっちへと彷徨わせる。
それが面白くて、雷蔵はついつい意地悪をしたくなってしまう。

「ほら、ハチ、早く。やっていないなら言えるよね?」
「ら、雷蔵……」

楽しげに目を細める表情は、正に狐。
どんどん狐の姿に戻っていく雷蔵に食べられてしまいそうな錯覚を起こし、八左ヱ門の目にはみるみる涙が溜まっていく。
見兼ねて三郎が雷蔵に口を出す。
が。

「三郎、黙って」
「はい」

天狐は尾先狐に弱かった。

「やってないって言ってご覧よ。ほら、ハチ?」
「……っごめん、なさい!」

尾先狐に追い詰められた八左ヱ門は、堪らず大声で謝る。
やったことを認めたのだ。
八左ヱ門の謝罪を聞くと、雷蔵は今までの表情が嘘のように、いつもの、穏やかな笑みを浮かべた。

「ん、偉いねハチ。ちゃんと謝れたね」

ふわふわと頭を撫でられ、雷蔵が穏やかな表情になったことで八左ヱ門の今にも零れそうだった涙がすっと引く。
ほっとした三郎は、一人であたふたしていたことに恥ずかしくなって、それを誤魔化すように白状した八左ヱ門を叱ることにした。

「って、やっぱり八左ヱ門がやったんじゃないか!」
「ご、ごめん三郎……!」
「まあまあ、きちんと謝ったんだからいいじゃないか」

三郎が怒った理由を雷蔵は分かっているようで、ニヤニヤと笑いながらしゅんとした八左ヱ門の頭を撫でている。
三郎は益々恥ずかしくなった。

「チッ……」
「さあハチ、三郎も許してくれたからお外で遊んでおいで」
「え?」
「僕らはこれを直さなきゃいけないから」

八左ヱ門を腕から下ろし、ぽんと柔らかく背中を押す。
八左ヱ門は申し訳なさそうな顔をして、ごめん、と口の中でもごもご呟いたあとで外へ駆け出して行った。

「さて、さっさと直しなよ」
「君、天狐はなんでも出来ると思っていないかい……?」
「はは、まさか。けれど、お前ならハチが落書きしても大丈夫なように結界を張っているんじゃないかと思ってね」

図星だ。
なんで分かるんだ、と言わんばかりに三郎は目を逸らした。
とはいえ首まで真っ赤なので、雷蔵には全てお見通しである。

「ほら、さっさとやっちゃって。ハチと遊びたいんでしょ」

遊びたそうにふよふよと動いている尻尾をちらりと見て、ふふふと笑う。
祀られているくせに、なんとも分かりやすい狐だ。
うぅ、と唸りつつもテキパキと経典の落書きを消す三郎に、雷蔵は暖かい眼差しを向けた。
――と、その時。

「さぶろー! らいぞー! かんちゃんが来たよー!」

八左ヱ門の大声が神社に響いた。





天狐とは随分昔から親しくしているのだという勘右衛門は犬鳳凰という鳥の妖怪だ。
その勘右衛門は今、二体と一人の目の前で沢山のご馳走を一心不乱に食べている。

「ほえいひへほひふぁひふいはねふぁんひんほほ!」
「なにを言ってるのか全然分からん、全部食ってから話せ」
「うん!」

三郎の言葉に大きく頷いた勘右衛門は、その後物凄い勢いで大量のご飯を食べ終えた。
ちなみに先程の言葉は「それにしても久しぶりだね三人とも!」である。
閑話休題。

「で? 何の用だ勘右衛門」
「えー? 用がないと来ちゃいけないの? 三郎ってばイケズ〜」

串をくわえながら三郎をニヤニヤ見つめる勘右衛門に、三郎の額にびきびきと青筋が立つ。
むかしは二人のこのピリッとした空気にいちいち慌てていた雷蔵と八左ヱ門も慣れたもので、このくらいの言い合いなど気にも留めない。

「ま、あるんだけどね。用」

勘右衛門はそう言ってあぐらをかいた膝の上に肘をつく。
串をくわえてはいるが、どうやらその表情からして真面目な話らしい。
三郎と雷蔵は、八左ヱ門に遊びに行っておいで、と優しく言ってからその表情を引き締めた。

「へえ、そんな表情もできるようになったんだね、悪戯狐」
「ま、ハチのお蔭かな」

茶化すような言葉に、雷蔵は苛立つ素振りも見せずに穏やかに微笑む。
あの頃の、人間嫌いで全てに苛立っていた雷蔵とは別人みたいだ、と勘右衛門は思う。
そして嬉しくなったけれど、ふぅんと目を細めただけにしておいた。
そんなのはおれのキャラじゃない。

「で、本題は」

雷蔵は穏やかになったのに、三郎の短気さは昔から変わらない。
やれやれとわざとらしく溜息をついて、勘右衛門は口元を緩めたまま言葉を紡ぐ。

「町の桜が咲かないんだ」





×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -