三郎と兵助





楽しいことが好き。
面白いことが好き。
なにより、笑っている人を見るのが大好き。
一緒に笑えたらもう最高。


「そんな信念を持って悪戯をしているんだ私は! お前の豆腐と一緒にするな!」
「喜んでほしいという根本的なところは同じだろう。というかさりげなく豆腐を馬鹿にするんじゃない」


本日何度目かの悪戯をして、雷蔵に「豆腐モードの兵助と変わらないじゃないか!」と怒られた。
豆腐モードの兵助は、豆腐の話が止まらなくなったり、人に大量の豆腐料理をしたりする。ただ本人にその自覚があるので、迷惑だとはっきり言えば止めてくれる。
そこに関しては兵助の方が上だ、兵助を見習えとさんざ謎の説教をされた。
その時見ていた勘右衛門と八左ヱ門が爆笑していて腹が立ったので、見ていなかった兵助に愚痴を言いに来たのだ。


「嘘つけ、お前は人を喜ばせたいのではなく人に自分の作った豆腐を食べてもらいたいだけだろう」
「いや、美味しいと喜んでくれるのが嬉しいんだ。お前もそうだろ?」
「……ま、あ、悪戯で笑ってくれると嬉しいが」
「じゃあ一緒でいいだろ。迷惑をかけているのも同じだしな」
「……お前、自覚があるなら自重しろよ」
「お前に言われたくないな」


涼しい顔でさらりと反駁され、口を噤む。
確かに自分の趣味が迷惑をかけていることは自覚しているが、自重する気はない。
好きなものを制限するのは結構きついものがある。
過去に兵助が豆腐断ちをした時、死にそうになったことがあるように。


「で、謝ったのか?」
「ん? ああ、庄左ヱ門達にはお菓子を持って謝ってきたよ」
「庄左ヱ門達じゃないよ。雷蔵達」
「…………」


無言で兵助を見やると、兵助はにこりと笑って俺を見る。
全て分かっている、とでも言うように。

雷蔵に怒られている時、ふとしたきっかけで言い合いになった。
今になって思うと私が悪いのだが、謝る気にはなれず。
その場にいた勘右衛門と八左ヱ門には叱られると分かっていたので、何も知らない筈の兵助のところへ来た。


「ほら、豆腐を食べて元気だせって」
「……お前はいつでも豆腐だな」
「元気になるには豆腐が一番だぞ」


余計なことは言わず鼻歌でも歌いだしそうな雰囲気で豆腐料理を出してくる。
謝ってこいと強制するでもなく、喧嘩した理由を聞き出すでもなく。
そういえば前も、雷蔵と喧嘩した時に仲裁してくれたのは兵助だった。


「……食べたら、雷蔵に会いに行く」
「そうか。いいんじゃないか?」
「ああ……。美味いな、この豆腐」
「そうだろう? 三郎次が里帰りしたついでに、豆腐用の水を汲んできてくれたんだ。三郎次の郷里は水が美味いから。魚も持って帰ってくれたから、火薬のみんなでパーティをしたんだ」


楽しそうな様子に思わずこちらも笑ってしまう。
私達の次に迷惑を被っていると思っていたが、存外火薬の子達も兵助の豆腐を歓迎しているようだ。
というより、人徳か。天然のくせに人との距離感を取るのがうまいから。


「……俺は、お前には敵わないな」
「あ? 何言ってんだ。嫌味か」
「本心だ馬鹿」
「え……ありがとう?」
「ああ……何故引く」
「素直な三郎はなにか企んでいる気がしてならない」
「お前な」


失礼だな。
……確かに、いつも世辞を言う時は何か企んでいる時だけれど。


「まあいいや、とりあえずさっさと謝っておいでよ。そしたら豆腐パーティしよ」
「……仕方ないな。たんまり食ってやるから覚悟しておけよ」
「望むところだ」


不敵に笑った兵助に笑い返す。
全く、本当にこいつには敵わない。








×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -