釁隙を埋める
※『監察の鉄則』にて朧さんに「ほう……」と褒められる土方さんについて
※虚さんにも土方さん褒められてたのすごくね
白夜叉時代の十八番とも言える奇襲作戦。
急斜面の崖を登るのは容易ではないが、生憎とここに集まったのは規格外の奴等ばかり。驚きはしても反論はなく、では行くかと各々が次々に崖へ手をかけていった。
「終、山崎」
桂一派や隊士達が文句を言いながら登っていく最中、土方が二人を呼んだことに銀時は気付いた。ちらりとそちらを見ればエリザベスが隣にいる。
鬼の副長さんは悪巧みがお得意だ。
話しながら、ニヤリと楽しそうに笑う。その顔がいつも通りで、銀時は表に出さずに本日何度目かの安堵の息を内心で吐いた。
つい先日見た、何もかも諦めきったような瞳を思い出す。
あんならしくもないツラは二度と見たくない。土方十四郎はふてぶてしく笑いながら真っ直ぐ前を向いていればいいのだ。
「頼むぞ」
そう言って、土方と山崎は崖の方へ来た。どうやら二人は普通に崖を登るらしい。
ではエリザベスと斎藤は。
視線をやれば、つい先程神楽が土方と沖田を突っ込んだ穴を見て会話している。指をさしたり覗いたり。まさかあそこに入るつもりだろうか。怪訝に思って見ていれば、いつの間にか隣にいた土方に頭をはたかれた。
「ってーな」
「なに見てやがる。さっさと行くぞ」
「……おー」
なにをしていたのか、聞こうかどうしようか迷って止めた。
自分達はあくまで手助け要員だ。必要以上に首を突っ込むことはしないと決めていた。真選組に関わるときはいつもそうだった。
「ただの保険だ」
が、気付かれていたのか土方が銀時だけに聞こえる声で言う。
「保険?」
「"常に最悪の事態を想定して動くこと"が俺の仕事なんでな」
崖を登りながら鬼の副長がニッと笑う。
なるほど。
チンピラニコチンマヨラーの印象が強いが、そういえばコイツは"真選組の頭脳"と言われている男だった。真選組での討ち入りや重鎮の護衛、果ては掃除当番のような小さなことまで、割り振りは総てこの男が行っているのだ。
ふいに白夜叉時代のことが甦る。
奇襲作戦を行う時は、基本的に単独か少数人数だった。
集めた情報から作戦を練ることは苦手ではないが得意でもない。敵の意表をついて守りを崩し、その場その場で武器を調達しながら戦う方が性に合っている。
だからこそ。
事前に情報を集めて緻密に策を練り、その上で臨機応変に指示を出す。
真逆の性質のこの男の存在が、今はとても頼もしい。
「さすが鬼の副長」
「はっ、言ってろ」
中腹まで来ると、下を見てしまったらしい山崎が騒ぎだした。
ここから既に鬼の術中に嵌まっていると知ることになるのは、それからもうすぐのこと。
*山崎が騒いだのは自分に注目させて、穴の存在に気付かせないため
*このあとすぐに終兄さん達に合流。注目させといてすぐに気配を消すことができるのが山崎のすごいところ
*タイトルの読み方は「きんげき」。隙間とかのこと。転じて作戦の穴。