五年生と七夕






一年は組が笹を用意した。
という噂が広まって、結局いつものように学園全員が七夕祭りを楽しむことと相成った。
なんだかんだいってもイベント事はみんな大好きな性質だ。ああだこうだ言いながらそれぞれ配られた短冊に願い事を書いていく。
それは願いを願うだけでは駄目だと知っている学年も変わらない。


「ねー兵助何書いた?」
「美味しい豆腐が作れますように」
「ぶれねえなお前。俺は美味しい虫が見つかりますように」
「……見つかってもお裾分けはいらんからな」
「えー」
「勘右衛門が発狂する、あいつ虫嫌いだし」
「あー、サバイバルで芋虫食った時凄い顔してたもんな」


校庭に置かれた笹に下級生から手渡される短冊を吊るしながら、委員長代理コンビは苦笑を交わした。
既に自分達の分は吊るしているので戻ってもいいのだが、上の方に吊るしたいと困っていた下級生の代わりを引き受けると自分も自分もと下級生達に群がられ、帰るタイミングを失ってしまったのだ。無理やり帰らないところが彼らの良いところである。


「それにしても下級生の願い事は面白いな」
「読むなよ、他人のを」
「いいだろ、特権特権」
「お前な……」


にししと笑う八左ヱ門に兵助は呆れつつ笑う。
短冊の内容は読んでいなくても、こちらに渡す様子はそれぞれ違っていて面白い。
下級生になればなるほど願い事も真剣に、少し学年が上がると下らないと言いながら期待していて、つまるところどちらも微笑ましくて可愛らしかった。


「あっ、いたいた」
「おーい」
「へーすけ、はちざえもーん」
「あ」
「おー。お前らも書いたのか」
「書いた書いた。へーすけ、吊るしてー」
「ん。……って、なんだよ、悪戯が成功しますようにって」
「三郎みたいなこと書くなよ勘右衛門」
「まあまあ気にしない気にしない」


悪戯っ子のように笑って、勘右衛門は短冊を兵助に手渡す。
雷蔵と三郎もその様子に苦笑しつつ、八左ヱ門に短冊を渡した。


「三郎は竜王丸さんに会えますようにって、会ってるじゃん」
「今まで以上に! もっと変装の話聞きたいんだよ」
「らしいっちゃらしいけどな。雷蔵は?」
「んー、何書くか迷っちゃって」


あはは、と緩く笑ってひらりと見せられた短冊を四人で覗き込む。
雷蔵らしい男らしい字で、「みんなの願いが叶いますように」と書かれていた。
なにそれかっこいい。


「「……」」
「どうした?」
「……なんか、やっぱり雷蔵って男前だよな」
「な。さすが私の雷蔵」
「お前のじゃない」
「ん?」
「勘右衛門なんかすげえ私情なのにな」
「なにをう! どうせお前だって豆腐のことだろ」
「そうだけど何か?」
「開き直んな!」


きょとんと首を傾げる雷蔵に何でもないと笑って、五人はようやくその場を離れた。
今日の夕飯は特別におばちゃんが作ってくれる。赤や緑色が混ざって具がたっぷり入っているそうめんだ。間違いなく美味しい。

わいわいと騒ぎながら、兵助はふと空を仰ぐ。
もうほとんど日が沈み、明るみに濃紺が溶けている。紫と混ざり合った赤の中に、一際輝く一番星。

毎年この時期は雨が降る日が多いけれど、どうやら今年は無事に逢瀬を遂げられそうだ。






――
りはびり……!
七夕ですね、っていうだけの話。





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