五年六年で肝試し

*視える系の話
*ギャグチックホラー(とってもぬるいよ!)
*かっこいい五年六年はいません
*メインは犬猿+久々知
*のつもりだった
*途中まで






下級生の間で話題になっている怪談話がある。
どうも、深夜になると校舎に物の怪が出る、と。
最初は忘れ物を取りに来た生徒が声を聴いたらしい。
そして面白半分に校舎に忍び込んだ生徒が次々と、姿を見た、追いかけられた、袖を引かれた、と真っ青な顔で語った。
一年生などすっかり怖がってしまって、最近では授業が終わるとすぐに自室へ戻っている。

五年生、六年生ともなればそこそこ経験も重ねており、つまりは何度か不可思議な経験をしたことのある者もいる。
更に今の最上級生はなにがしかのイベントが大好きである。


「これから肝試ししよう!」


と、誰かが言い出すのは時間の問題だった。





【もののけパニック!】





「「久々知を連れて行こう」」


小平太の提案に、真っ先に真顔でそう言ったのは文次郎と留三郎だ。
普段は喧嘩ばかりなのだが、こういう怪談の類になると意見が一致するのは昔からのこと。
というのもこの二人、いわゆる「視える人」なのである。
一年生の頃から何もない場所を見つめて怯え、いわくつきの場所を見ても怯え。
視えるくせに、六年経っても一向に慣れる気配がない。

そんな二人の救世主が五年の久々知兵助だった。
兵助も視えるのだが、更に浄霊も出来る強者なのだ。
二年の秋に兵助が浄霊したところを目撃して以来、こういうイベントが起きると必ずと言っていいほど二人は兵助を連れて行きたがる。
一度どうしても兵助が無理な時に「じゃあせめて手製の豆腐をくれ!」と言った二人に、相当重症だと仙蔵がドン引いたのは記憶に新しい。
豆腐が浄化アイテムだと知って納得したけども。

そんなわけで、今更犬猿コンビに理由を問う者はいない。
じゃあついでに他の五年も誘うか! と言い出すのが最上級生だ。
ちなみに、肝試しに行かないという選択肢は最初から誰にも存在しない。
五年生からしてみればいい迷惑である。


「じゃあお前達は五年生を連れてこい。私と伊作でコースを考えておく」
「……小平太は雷蔵と久々知以外を連れてこい」
「よしきた!」
「うわあ……三郎に勘右衛門に八左ヱ門、ご愁傷様……」
「よし、兵助を探すぞ」
「おう、とりあえず部屋から行くか」


五年生からしてみれば、いい迷惑である。



***



一方こちらは現在狙われている五年生。
もうすでに委員会の時間は終わっており、八左ヱ門の部屋でのんびり夜食という名のおやつを食べている。


「ん! これうまーい! 兵助これどこの?」
「ん? ああ、俺の行きつけの豆腐屋さんの裏。三郎次のおすすめだって」
「へえ、三郎次の奴、なかなかグルメと見た」
「あの豆腐屋の裏か……マークしてなかったなあ」
「んーでもほんとに美味しい! 今度みんなで行こうよ!」
「「さんせーい!」」


実に平和な光景だ。


「――」


と、ぴたりと談笑が止む。
五人は何かを感じ取ったのか、無言のままそそくさと茶やおやつを片付け、部屋からも姿を消した。
まさに今、六年が五年を探しに部屋を出たところである。
五年間も振り回されていると一つ上の学年の奇襲も予知できるようになるらしい。
凄いのか凄くないのかよく分からないが、取り敢えず五人は必死だ。


「おーい八左ヱ門!」
「……逃げたか」
「あいつら、段々逃げる速度速くなってないか?」
「まあいい、探すぞ」


そして、五人を探しに来た四人もそれぞれ散った。
――ただ一人、長次を除いて。


「…………」


誰もいなくなった部屋で、長次はぐるりと部屋を見回す。
最後に天井へ視線を向けると、もそりと呟いた。


「……雷蔵、頼みたいことがある」
「はいなんでしょう! …………あ」
「ああ雷蔵の馬、鹿……!?」
「うわ三郎引っ張んな……ひっ!」
「ちょ、かんえも……う、げ」
「いっ……! ……ああもう……」


五人は全員天井裏に隠れていたらしい。
長次に呼ばれて条件反射で出てきてしまった雷蔵、雷蔵によって三郎が、三郎に引っ張られて勘右衛門、勘右衛門に引っ張られて八左ヱ門、八左ヱ門に引っ張られて兵助、と結局全員が揃ってしまった。
そして、いつの間に戻ってきていたのか五人の前には六年生。


「お前達、今回は早かったな!」


にっかり笑う小平太に、五年生は人生何度目かの走馬灯を見たという。


「よし、行くぞ!」
「ひっ!?」
「ちょっまっ!」
「せめて説明をしてくださあああああああ!!」


三郎が全部言い切る前に連れて行かれてしまった。
運ばれている最中に舌を噛まなければ良いのだが。


「「…………」」


残された二人は、思わず伸ばした手をそっとおろした。
雷蔵と兵助は、小平太ががばりと五年を掴んだ時に長次と犬猿コンビによって助け出されている。


「……雷蔵、無事か」
「! は、はいっ!」


長次に抱き抱えられていた雷蔵は、床に下ろされてようやく事態を把握したようだ。
七松小平太、まさに嵐のような男である。
救い出してくれた直属の先輩に尊敬の眼差しを向ける仲睦まじい図書コンビはさておき、特に接点のない三人は。


「あっぶねえ! 小平太の奴長次の言ったこと忘れてんじゃねえか!」
「助け出せて良かった……。兵助、怪我はないな?」
「はあ、まあ……ありがとうございます……」


急に後ろに引かれて尻餅をついた兵助は、二人に後ろから庇うように支えられていた。
雷蔵を抱きかかえられた長次程の余裕はなく、犬猿コンビはギリギリ救出できようだ。
小平太の行動が唐突すぎて同級生もついていけていない。
冷静そうに見えて混乱中の兵助も、ようやく事態が呑みこめてきた。


「……あ、兵助も無事だったんだね! ごめん、飛び出しちゃって……」
「……ああ、いいよ、っていうか引っ張ったの三郎だし」
「あいつは、ほんとに……」
「今頃勘右衛門と八左ヱ門にどやされてるよ、七松先輩に運ばれながら」
「……あー、想像つく」


遠い目をする雷蔵に苦笑を返しつつ、そっと離れた背後の二人を振り返る。
説明なんて聞かなくても、この人選で自分達が何のイベントに巻き込まれるか分かってしまった。
二人を嫌そうに見ていたからか、犬猿コンビは兵助が大方のことを察したと理解したようだ。


「「久々知」」


文次郎と留三郎が兵助の手を握る。


「久々知、俺にはお前がいないとダメなんだ」
「や、別に先輩方が行かなかったらいいんじゃないですかね」
「お前が傍にいてくれるだけでいいんだ……!」
「いや視えたら問答無用で浄霊させますよねあんたら」


なんだか乙女ゲームにでも出てきそうなセリフを言う二人だが、兵助は気持ちいいくらいにばっさばさと切り捨てる。
まあ乙女じゃないしね。
心底面倒くさそうな兵助に、犬猿コンビは仕方ない、と頷き合った。


「……定食の豆腐、一週間分」


兵助の目が光る。


「……三か月」
「長ぇ、一か月」
「毎日出るんじゃないですもん、じゃあ二か月」
「くっ……一か月半でどうだ……」
「ここは譲れません、二か月」


なにやら不毛な争いをし始めた間に、長次が雷蔵に事の次第を説明した。
元より五年生もイベントは嫌いではない。
それに雷蔵は生まれてこの方視えたことがないので、肝試しはむしろ参加したい! というタイプである。


「ああ、久作が言っていた噂を確かめに! ……いえ、うちの学年は兵助の話が洒落にならないので怪談話しなくて……そうですね、楽しみです!」


聞こえる声は一人だが、とても楽しそうだ。



***



文次郎達が六年い組の部屋に集まる頃には、とっくに夜も更けて肝試しにちょうど良い丑三つ時と呼ばれる時間帯になっていた。


「遅かったな。こっちはもう準備万端だぞ」
「ああ……ちょっといろいろとな」
「肝試しの度に金がなくなっていく……」


少しだけ疲れたような犬猿コンビに対して、あれだけ渋っていた兵助は喜色満面。


「……なんか嬉しそうだな?」
「うん、定食の豆腐一か月分×二と、幻の限定豆腐確保した!」
「ああ……」


不毛な争いはそうして幕を下ろしたようだ。
毎回のことなのでもう何も言わないが、三郎がこっそり、肝試しやんなきゃいいんじゃね?と思ったことは内緒だ。
そんな三郎も、八左ヱ門や勘右衛門と同じくよれよれである。
小平太に誘拐された直後は何かが口から出そうだったり一瞬お花畑が見えたりして大変だったが、兵助達が来る前になんとか復活した。


「で、今回はどうするんですか? 校舎ですよね?」


毎回拉致されるのは勘弁だが、基本的に五年生もノリは良い。
というか、三郎を筆頭にみんな悪戯大好きである。
肝試しイコール存分に驚かすイベント、ということで三郎達もノリノリだった。
ちなみに三人とも一度か二度ほど不思議な体験をしたことがあるのだが、特に気にしていない。
それよりも小平太のお仕置きスイングの方が怖かったらしい。


「ああ、コースは単純に入り口から奥へ、階を上がって奥へ、という感じでいいだろう。三階の奥の厠についたら、その証として厠の壁にこの札を張ってくること」
「組み合わせはどうせあの二人が兵助を離さないだろうからいつも通りでいいよね」


校舎へ向かいながら、仙蔵と伊作が今回の肝試しのルールを説明する。
手渡された札には一から五までの数字が書かれている、いつもと同じ札だ。
いつもの組み合わせとは、仙蔵と三郎・長次と雷蔵・小平太と八左ヱ門・伊作と勘右衛門・文次郎と留三郎と兵助である。
何度か組み合わせを変えようとしたこともあるのだが、結局いつも犬猿コンビが文句を言うので六年生は兵助と組めたことがない。
大人げない二人だ、とは長次の言。


「いつも通り、驚かすのはありですよね?」
「勿論! それがないとつまらないしね」
「さっすが伊作先輩!」
「三郎、幽霊の変装セット持ってるの?」
「ああ、一年生を驚かせようと思って常に持ち歩いてる」
「おいおい、今その格好見たら泣くぞ」
「一年に見せる時はもうちょっと優しめにしますよ〜」
「勘右衛門も幽霊セットを持っているらしい」
「五年の変装は質がいいからなあ、今回も楽しみだ」


なんて、和気藹藹と談笑している五年と六年、の最後尾。


「校舎ってさあ……」
「……いたよなあ?」
「いましたね。でも視たのだいぶ前なんですよ」
「俺らもそうなんだよ……昼は出ねえのか?」
「さあ……でも三階の奥にある厠では昼間でもよく出るって聞きますけど」
「厠か……あれ、そこ行かなきゃなんねえんだよな?」
「……うわ……」
「まあ大丈夫でしょ、なんとかなりますって」


視える三人はいわゆる視える人トークをしていた。
話だけなら犬猿コンビも別に怖くないらしい。
だが、目撃情報がある場所にわざわざ行きたいとは思わない。
いる、と言われる場所に行きたがるのは、いつの時代も大抵視えない人だ。


「さて……じゃあ、順番を決めるぞ」


校舎に着いて、早速仙蔵が籤を取り出す。
犬猿コンビが籤を引く役割で少し揉めたが、取り敢えずここまでは何事もなく来ることが出来た。
本当の恐怖はここからである。



***



「――で、一番がおれらですか。先輩やっぱり不運ですねえ」
「そう思うなら君が籤引いてくれても良かったんだよ、勘右衛門」


さて、一番手は伊作と勘右衛門のペアだ。
最初とあって校舎中の物の怪たちも張り切っているだろう。不運である。


「とりあえず進もうか。どうする? 怖い話でもしながら行く?」
「いいですよー、先輩の話なかなか怖いですし」
「勘右衛門の話も結構怖いよねえ。でも作り話なんでしょ?」
「ええ。まあ兵助の話ちょっと参考にしたりしてるんで、完全オリジナルじゃあないんですけど」
「ああそういうことか。視える人の話って実体験だからほんとに怖いよねえ」
「あ、じゃあ兵助から聞いた話しますよ」
「ほんと!? 楽しみだなあ」


ケラケラと笑い合いながら進む二人。
何故わざわざ恐怖心を煽るのかという疑問はさておき、二人はとっておきの怖い話をしつつ歩く。
途中で明かりもないのに辺りが明るくなったり、階段の下から手が伸びていたり、二階なのに窓の外に手の痕がついていたりしたのだが、二人は見えないのかというくらいスルーしている。
話に夢中なのか、霊感が無さ過ぎるのか……。
この様子では、物の怪が出てきても流行好きな女子高生のように騒ぎそうだ。


「その時に聞こえたんですって、『その手を返せ』って……」
「おおお! すごい! こわーい!」


完全に女子高生のノリである。


「じゃあ次僕ね! 僕がまだ一年生だった頃の話なんだけど……」


嬉々として話しだす伊作。
ようやく一階の階段に辿り着いた。


「それでね、」
「……あれ?」
「ん?」


ふと周りを見回す勘右衛門に、伊作も不思議そうに怪談話をやめる。
別におかしいところは何もない。後ろには自分達が歩いてきた廊下、前には二階へ続く階段があるだけだ。


「勘右衛門?」
「……伊作先輩、ここ何階でしたっけ」
「え? 一階じゃ……ん? あれ……?」


ようやく伊作も気づき、勘右衛門と同じように辺りを見回す。


「え、なんで? ……僕ら、さっき二階に上がったよね?」


伊作の隣で勘右衛門も絶句していた。
ここはどう見ても一階の光景だ。窓からは校庭が見えるし、教室も一階にあるものだ。
そもそも六年生と五年生が一階と二階を見間違うはずがない。
思わず顔を見合わせる。


「……もしかして」
「閉じ込められた……?」


二人の頬に冷や汗が伝った。



***



校舎から出てきた二人の姿を認めて、八左ヱ門が声を上げた。


「あ、帰ってきましたよ二人とも」
「おお、やっとか。……なんか顔色悪くないか?」
「いやあ……物の怪より伊作先輩の不運の方が怖かったです……」
「ごめんよ勘右衛門……」


草臥れた顔で笑う勘右衛門と申し訳なさそうな伊作に大方の事情を悟る。
肝試しだろうと実習だろうと不運は変わらないらしい。
勘右衛門お疲れ……! と同情の視線が集まる。


「じゃあ次は……」
「私と八左ヱ門だな! よーし行くぞ! いけいけどんどん!」
「ちょっ、待って先輩! 俺自分で走れますからあああああああ!!」


八左ヱ門、ご愁傷様。
五年生の心が一つになった。


「……ところで、どうだった?」
「どうだったって?」


八左ヱ門達を愉快そうに見送った仙蔵が、二人に声をかける。
きょとんとする二人に、伊作はともかく察しのいい勘右衛門まで珍しいな、とちらりと思いはしたものの、仙蔵は話を続けた。
散々不運に巻き込まれたようだから疲れたのだろう、と自己完結して。


「肝試しだよ。なにもなかったか?」
「ああ、肝試しね! そうだね、なんにもなかったよね」
「そうですねえ……なにも、なかったですよ」



***



「八左ヱ門! 札は持ったか!?」
「持って、ます、から、下ろしてください……!」


小平太に小脇に抱えられ、八左ヱ門は札を握りしめたまま青ざめる。
今は物の怪よりなにより小平太が怖い。


「しかし、私が担いで行った方が早く着くだろ!?」
「速さは競ってませんから! っていうかマジでほんと下ろして!」


(臓物的なものが)出る! と口で手を押さえる八左ヱ門に、小平太は渋々下ろした。
胆を試す前に物理的に潰されるわ! と思いながら八左ヱ門はようやく息を吐いた。数刻もしないうちに二回も小平太の強制連行をされるのは身体的に辛い。


「ったく、先輩、もっと力加減してくださいよ……」
「ははは! すまんすまん! 後輩にはちゃんと手加減してるぞ?」
「以前金吾の足に水が溜まって大変そうでしたけど……」
「そうだったか?」


けろりと首を傾げる小平太に八左ヱ門は苦笑した。
この人との付き合いももう慣れたものだが、今回もやっぱり前途多難な肝試しになりそうだ。








――
ここまで!

だいぶ昔に書いてた話なんですが、ミュ11弾(未視聴)で勘右衛門さんと六い(六はも?)が幽霊怖いタイプだということが分かったのでボツ!!!

なんか上級い組だと幽霊系平気なの久々知だけという情報をちらっと見たのでその設定で何か書きたいです。

ちなみにこの話は犬猿久々知トリオ以外全組閉じ込められるんですが、実は善法寺尾浜組の入れ替わりから気付いていた三人がどうにかこうにか解決する話になる予定でした。

お粗末!

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