ミュ8弾ネタ

*久々知=豆腐に含みがあったバージョン
*解釈の一つ
*記憶曖昧なので設定ふわっふわ
*アニメネタちょこちょこ入ってます





一つ上の学年から渡されたそれを見て、反応はそれぞれ違っていた。雷蔵と八左ヱ門は痛いところを突かれたという顔をしたし、勘右衛門は面白そうに笑う。三郎は大体想像できていたのか、特に表情を変えることはなかった。
そして兵助はといえば。

ぐしゃ。

握りつぶされた紙の音に、四人は一斉にそちらを見る。兵助は立ち上がると、ふらりと四人に背を向けた。

「ちょっと豆腐修行してくる。探さないでください」

・・・。

「待て待て待て!?」
「ちょ、兵助さん!?!?」
「どうした急に!」
「ていうか豆腐修行ってなに!!」

四人は慌てて部屋から出ようとする兵助の服を掴む。せめて説明しろ。
しかし兵助も負けてはいない。四人に服を引っ張られながらも、ぐぬぬと足を進めようとしていた。

「止めるなみんな! おれは奴隷になりたくないんだ!!」
「「なんの話!!!???」」

いきなり物騒。
わあわあと騒ぐ中、雷蔵がくしゃくしゃになった紙に気付いた。元はと言えばこれをみんなそれぞれ見ていたのだ。
それは六年生が五年生に送るもの。六年生が五年生を分析し、それぞれの特徴や長所や短所、感じた点などを記している。忍術学園の伝統行事の一つだった。

よっぽど酷いことが書かれていたのだろうか? だがあの兵助に限って?
雷蔵は訝しみながらもその紙を広げた。

六年生の兵助への評価は概ね褒められていた。成績は優秀だし、危険な火薬を管理する委員会の委員長代理としてもうまくやっている。寸鉄の腕も達者で、苦手なこともほぼ無いと言っていい。
ただし、少々無茶をする傾向がある。冷静な判断力も持っているのだから引き際も覚えること。
そして仲間思いなのは良いが、時として切り捨てる覚悟もしておくこと。

さすがだなあと思いつつ、それぞれの評価を読む。
が、全員が最後に付け足したように書いていることがあった。

『利吉さんに内容を聞かれたため"豆腐"ということにしておいた。貸しひとつだからよろしく』

というようなことを。よりにもよって彼の六人、全員が。

なるほど。
雷蔵は兵助の突拍子のない行動に納得した。これは旅にも出たくなる。

「……豆腐修行に出ても無駄じゃないかな?」

雷蔵の苦笑混じりの言葉に、踏ん張っていた兵助がべしゃりと崩れ落ちた。

「うぅ……14年か……短い命だったなあ……」
「今度は世を儚みだしたぞ……」
「なにが書いてあったのさ?」
「そんなに酷い内容だったんか?」

兵助が遠い目をして太陽を拝みだしたので、三郎と勘右衛門と八左ヱ門はわらわらと雷蔵の周りに集まる。そして内容を読んで同情の目を兵助に向けた。

「六人はきつい」
「実質奴隷じゃん」
「そりゃ修行のが楽だわ」

散々な言いようである。だが六年生に借りを作る=死と、今までの経験で刷り込まれている後輩達であるからして。
それは比較的温厚な部類の伊作や長次でも変わらない。むしろ貸しとなれば、どんな無理難題を押し付けてくるか分かったものではない。
兵助は優秀だからこそ余計に一つ上の無茶振りに巻き込まれるだろう。ご愁傷様。

「勘右衛門より兵助のほうが巻き込まれ不運っぽいよね」
「それな。むしろ勘右衛門は自分から巻き込みに行くし」
「しかも飽きたら放置するしな」
「クズみたいな言い方やめろよな〜。兵助が巻き込まれ不運なのには同意だけど」
「うぅ、先輩方に豆腐地獄する……」
「「やめなさい」」

半泣きになっている兵助を、苦笑しつつもあやす五年生なのであった。








五年い組の豆腐小僧ーーそれは忍術学園の生徒なら誰でも知っている名前。リレーのバトンが豆腐だったあの日から、今や豆腐を手作りし、食堂にも供給され、果てはあのタソガレドキ忍軍が豆腐作りを教わりにくるまでにもなった生徒である。

しかし。
これが全て策略であると知っている者は、どれほどいるだろうか。



「兵助から伝令。やはり先輩方の読み通りでした」

すっと音もなく寄ってきた尾浜に、立花は頷く。次いで隣にいる食満と顔を見合わせて溜息をついた。

「ということは、今頃久々知は山遊びの最中か」
「そうですねえ。山は兵助の庭みたいなもんですし」

へらりと笑う尾浜に、食満は呆れたように笑う。

「全く末恐ろしいな。一年生があの久々知見たら泣くぞ」
「だから普段は豆腐小僧やってるじゃないですか。この前はとうとう豆腐屋に養子になってくれって頼まれたらしいですよ」
「バイトじゃなくて養子かよ! 怖っ!」
「最近は食堂のおばちゃんや学園長先生とも美味しい豆腐食べに行ってるみたいだし、きり丸とも豆腐売りのアルバイトに行ってるようですし、学級委員長かつ同室としては鼻が高いったら!」
「凝り性だからな……」

呆れて苦笑しつつ、立花は意味深な視線を尾浜に向けた。

「それにしても、五年生は本当に性格が悪いというか、隠し事が好きというか」
「忍者の本分じゃないですかあ。それに切り札はたくさんあった方がいいでしょ?」
「個々ではなく全体でやるから面倒なんだお前達は」
「え〜ひどいな〜」

言いながら、尾浜はくつくつと笑う。

「でも先輩方や先生方も協力してくださるじゃないですか」

いつかの日、六年生が外部の人間に久々知の素性を誤魔化したことを知っている。
その時に貸したツケは未だ誰も使っていないようだ。お陰で久々知が六年生に頼み事がある時や、六年生が五年生に用事がある時にビクついていて面白い(かわいい)。
立花と食満は顔を見合わせて笑った。

「「そりゃ、可愛い後輩のためだからな」」
「……うっは、おっそろしー先輩方!」

久々知兵助と聞けば、誰もが真っ先に「豆腐小僧」を挙げるだろう。それは利吉や、あのタソガレドキの忍軍すらも知っている。
しかし彼が成績優秀であり、寸鉄使いであること。何よりも火薬委員会の委員長代理であることを、知っている者は少ない。

かつて喜三太の高祖母が、久々知をスカウトしそうになったことがある。阻止したいがための喜三太の嘘と豆腐地獄によって彼女には諦められたが、話を聞いた五年生と六年生はホッと安堵したものだ。

忍術学園の火薬を管理する生徒。
それだけで、狙われる確率は学園長先生よりも跳ね上がる。

ただでさえ火薬を狙う者は多い。侵入されたことはこの数ヶ月でも両の手では足りないほどだし、過去には盗まれたこともある。
だからこそ火薬委員会は警戒を怠らず、内部に人が来る場合は毎回保存場所を変える。実際に侵入者と戦ったこともあるのだ。それは一年生だろうと編入生だろうと変わらない。
「暇な委員会」「そんなんでいいんかい」などと言われているが、火薬委員会が忙しい時は戦が始まる時だ。現に園田村攻防戦では、火薬委員会は常に駆け回っていた。
あの委員会は暇であることが一番いい。それを分かっているから、上級生で揶揄する者はいない。

久々知は委員をまとめる者だ。そして顧問の土井先生の実験の手伝いもする。つまり生徒の中で最も火薬の知識が深いと言っていい。
火薬のスペシャリストである立花という存在がいても、その事実は変わらない。

だからこそ久々知兵助はその実力を隠されている。
六年生だけではない。
同級生で随一の実力を持つ鉢屋。学級委員長の尾浜。あらゆる知識に造詣が深い不破に、山や生物に詳しい竹谷。
彼らに一歩及ばない。そう、思わせている。

誰が? 本人を含めた全員が、だ。

豆腐小僧の名を利用し、学園内外の者にも無類の豆腐好きだと思わせた。一から豆腐を作るようになり、豆腐の蘊蓄を語り出したら止まらないと言われるまでになった。
もちろん全てが嘘なわけでもない。豆腐のことが好きだということは本当だ。そうでなければ、いくら真面目な久々知とてあそこまで熱心にはなれないだろう。

だが、その実目的のためなら豆腐を利用することなど造作もない強かさも久々知は持っていた。リリーの一件や、タソガレドキの忍軍が来たことが良い例だ。
彼らがどこまで忍たまに騙されてくれていたかは知らないが。もちろん利吉も。
豆腐を通じ、久々知はあらゆる忍や豆腐屋と懇意になっている。使える人脈を着々と増やしている。



もしも久々知が敵だったら、それほど恐ろしいことはない。
学園の火薬を全て把握し、人脈も広く。あらゆる知識が豊富で、戦闘もお手のもの。そこが山なら手のひらの上。
なによりも、久々知に味方する者の数は計り知れない。

だから今日も、彼らはみんな隠すのだ。
久々知兵助と言えば豆腐である。その事実だけを表に出して。






――
なーんてね!
ミュの記憶がもう曖昧なんでみんなが内容に触れてたらすまねえ案件なのですが、六年が利吉にそれぞれ五年の印象を聞かれて答えて、久々知だけ全員「豆腐です。(完)」と答えてたシーンだけは覚えてたんでそこからぽっと浮かんだネタでした。

思いの外楽しかった。豆腐でどこまでも盛り上がれるな……。
豆腐の謎(アニメ)で鍛錬疑惑が出たのも大きいですが。あれだって五年生のみぞ知るじゃん?五年生そういうとこあるんだよな!

地味に尊奈門さんと久々知が関係持ったのも嬉しくてね。利吉さんにも豆腐小僧で認識されてるし。あのへん、教師も久々知の豆腐イメージを黙認してんだな〜と思って。

あと実際火薬委員長代理ってかなり危険な立ち位置なのでは? とはずっと思ってることなんですけども。そこ隠すなら豆腐小僧ってうってつけよなあ、とか。

妄想を詰め込んだ話でした。

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